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落下の解剖学

サンドラ・ヒュラー(落下の解剖学) 映画
サンドラ・ヒュラー(落下の解剖学)
落下の解剖学は2023年のフランスの法廷・スリラー映画で原題は「Anatomie d’une chute」。
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真相が伏せられた法廷劇(落下の解剖学の感想)

映画は、階段を落ちてきたボールをボーダーコリー(後半で重要な演技をする)が追うところから始まる。小説家サンドラ・ヒュラーが学生にインタビューされているのだが、この対話が微妙なものになろうとしたとき、階上の夫(画面には映らない)がかけるのが、ハンブルグ出身のバカオ・リズム&スチール・バンド「P.I.M.P.」。トリニダード・トバゴ風のスティールパンが印象的だが、元々はアメリカのラッパー、50セントのデビューアルバム収録の曲で、それがドイツを経由してアルプス西端のグルノーブルで爆音再生されているミスマッチさ。VR&SBの曲はヴォーカルなしなのだが、のちに法廷で、判事が50セントの歌詞は女性蔑視的だと指摘するのに対して、「いや、かけられていたのはインストだから」と反論されるくだりがある。

その後、3階にいた夫が落下して死んでいるのを、ボーダーコリーを散歩させていた盲目の息子が「発見」する。夫が自ら飛び降りたのか妻が突き落としたのかが不明であり、サンドラは裁判にかけられて法廷劇が始まるというわけ。

夫はフランス人だがサンドラはドイツ人で、裁判では検察官も弁護士もフランス語。夫婦は英語でコミュニケーションしていたので、ザンドラも途中で英語に切り替える。法廷では、サンドラがバイセクシャルで不倫歴があること、息子が失明した事故をきっかけに夫婦仲が壊れたこと、小説を書いていた夫のアイディアを妻が先に作品化したことなど、あらゆることが暴露され、検察官は殺意があったことをサンドラに認めさせようとする。

事件前日の夫婦諍い以外は「伝聞」であり、映像では示されない(この諍いも肝心なところは音声だけである)。陪審員の判断に影響したであろう息子の証言も映像で再現されているが、そこでは声が消えていて、息子がアテレコする格好になっている。

こうして事件の真相は伏せられたまま映画は終わる。

トリエ監督は、フライシャーの「強迫/ロープ殺人事件」(1958)、クルーゾーの「真実」(1960)、そしてオットー・プレミンジャーの「或る殺人」(1959)に影響を受けたとインタビューで答えている。特にプレミンジャーの法廷劇の原題は「Anatomy of a Murder」だから、本作はその換骨奪胎と言えるだろう。

落下の解剖学 見どころ

2023年5月21日に第76回カンヌ国際映画祭でワールドプレミア上映、パルム・ドールとパルム・ドッグ賞を受賞し、クィア・パルムにノミネート。サンドラ・ヒュラーは同映画祭における上位2つの賞を受賞(『関心領域』がグランプリを受賞)。フランス国内では観客動員数100万人を突破。
物語は、雪山の山荘で起きた夫の転落死をめぐり、妻である作家サンドラが殺人容疑で起訴される中、視覚障害を持つ11歳の息子ダニエルの証言が裁判の行方を左右するというもの。明確な答えを提示せず、観客自身に真実を考えさせる映画で、法廷劇としての緊張感や、人間関係の複雑さを描いている。
結末が明確でないことに対しては賛否両論だが、脚本の完成度や演技の素晴らしさを評価する声も多く、サンドラ・ヒュラーの演技、法廷劇としてのリアリティ、家族関係の描写の深さは高評価。

  • 考察とテーマ
    事件の真相を明示せず、観客に解釈を委ねている。裁判では夫婦間の愛憎や家族の秘密が浮き彫りになり、真実とは何かを問いかける。サンドラの無罪を勝ち取るための弁護戦略や、息子ダニエルの証言の信憑性など、様々な視点から物語を捉えることができる。
  • 映像と演出
    冒頭を除き、BGMはなく、生活音や自然音のみで構成。まるで実際の裁判を傍聴しているかのような臨場感がある。キャメラワークや構図も巧妙で、被告人サンドラの心理状態や法廷の緊張感を視覚的に表現している。

落下の解剖学のあらすじ

人里離れた雪積もるフランスの山荘で1人の男が不可解な転落死をし、ドイツ人作家の妻が殺人容疑で逮捕される。裁判では、サンドラと夫との確執や、死の前日の激しい言い争いも暴露される。そこで彼女は、現場にいた11歳の弱視の息子を唯一の証人として迎え、自らの無実を証明しようとする――。

落下の解剖学を観るには?

落下の解剖学のキャスト

サンドラ:サンドラ・ヒュラー
ヴァンサン・レンツィ弁護士:スワン・アルロー
ダニエル:ミロ・マシャド・グラネール
検事:アントワーヌ・レナルツ
サミュエル:サミュエル・タイス
マージ:ベルジェ:ジェニー・ベス
ヌール・ブダウド弁護士:サーディア・ベンタイブ
ゾーイ・ソリドール:カミーユ・ラザフォード
裁判長:アン・ロトジェ
モニカ:ソフィ・フィリエール

落下の解剖学のスタッフ

監督 – ジュスティーヌ・トリエ
脚本 – ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ
製作 – マリー=アンジュ・ルシアーニダヴィド・ティオン
撮影 – シモン・ボーフィス
編集 – ロラン・セネシャル
公開 – フランス 2023年5月21日 (カンヌ国際映画祭)・2023年8月23日/日本 2024年2月23日
上映時間 – 152分

『落下の解剖学』は、明確な答えを提示せず、観客自身に真実を考えさせる映画です。この記事で少しでも興味を持たれた方は、ぜひ本編をチェックしてみてください。

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