麦秋

原節子(麦秋)
原節子(麦秋)

小津安二郎監督による1951年・松竹大船撮影所製作の日本映画。日本では同年10月3日公開。本編でのタイトル表示は旧字体の『麥秋』。麦の収穫期で季節的には初夏に当たる時期を指す。
原節子が「紀子」という名の役を3作品にわたって演じた「紀子三部作」の2本目にあたる。1949年の『晩春』に引き続き、父と娘の関係や娘の結婚問題を主なテーマにしているが、本作ではそれがより多彩な人間関係の中で展開されている。
前作『宗方姉妹』公開直後の1950年9月から製作準備が始まり、1951年6~9月に撮影された。2人の人物が並んで砂丘を歩いていくシーンで、小津全作品中でも唯一のクレーンショットがあり、その目的は高低差のある砂丘はを2人が歩くにつれて画面の中心から外れていくことを避けるためだった。クレーン使用の一般的な目的は構図の変化にあるが、逆に構図を一定に保つためのクレーン撮影だった。
「ストーリーそのものより、もっと深い《輪廻》というか《無常》というか、そういうものを描きたいと思った」と小津は発言しており、脚本を担当した野田高梧は「彼女(紀子)を中心にして家族全体の動きを書きたかった。あの老夫婦もかつては若く生きていた。(中略)今に子供たちにもこんな時代がめぐって来るだろう。そういう人生輪廻みたいなものが漫然とでも感じられればいいと思った」と語っている。
演出に関しては、小津は「さらさらと事件だけを描いて、感情の動きや気持の移ろい揺ぎなどは、場面内では描こうとせずに、場面と場面の間に、場面外に盛り上げたい」「芝居も皆押しきらずに余白を残すようにして、その余白が後味のよさになるように」という狙いであると語っている。

麦秋のあらすじ

北鎌倉に暮らす間宮家は、初老の植物学者の周吉とその妻・志げ、長男で都内の病院勤務の康一、康一の妻・史子、康一と史子の幼い息子たち2人、それに長女で会社員の紀子という3世代同居家族。独身の紀子は親友のアヤから同級生の結婚話を聞き、上司・佐竹からも“売れ残り”と冷やかされる。
春のある日、周吉の兄・茂吉が大和から上京。28歳になっても嫁に行かない紀子を心配する一方、周吉にも引退して大和へ来いと勧めて帰っていく。同じ頃、佐竹も紀子に縁談を持ち込んできた。商大卒、商社の常務で四国の旧家の次男となかなか良い相手で、紀子もまんざらでもない風。縁談は着々と進んでいる様子で、康一の同僚の医師・矢部も知るところとなる。矢部は戦争で亡くなった間宮家の次男・省二とは高校からの友人だが、一昨年に妻を亡くし、母親・たみが再婚話を探している。
紀子の相手が数えで42歳、満40歳であることがわかると、志げや史子は不満を口にするが、康一は「紀子の年齢では贅沢は言えない」とたしなめる。
やがて、矢部が秋田の病院へ転任することになった。出発前夜、矢部家に挨拶に訪れた紀子は、たみから「あなたのような人を息子の嫁に欲しかった」と言われ、「あたしでよかったら…」と矢部の妻になることを承諾する。間宮家では皆が驚き、佐竹からの縁談のほうがずっといい話ではないかと紀子を問いつめるが、紀子はもう決めたことだと言って譲らず、皆も最後には了解する。
紀子の結婚を機に、周吉夫婦も茂吉の勧めに従って大和に隠居することにし、間宮家はバラバラになることとなった。初夏、大和の家では、周吉と志げが豊かに実った麦畑を眺めながら、これまでの人生に想いを巡らせていた。

麦秋の感想

12月12日を中心に小津の没後60周年(もしくは生誕120周年)特集をBS松竹東急で放映。10回くらいは見ていると思うが数十年ぶり。

一貫して東山千栄子の寂しげな表情が唯一明るくなるのが、「あ!」と東博前で空に漂う風船を指さすときなのだが、これは戦争から帰ってこない次男を意味しているのだろう。

ケーキを切る原節子。この映画では白い服ばかり着ているのだが(黒のスーツもある)、このシーンはノーブラに見える。

間宮家は鎌倉駅に近いはずだが、周知の通り利用しているのはなぜか北鎌倉駅。こちらに住んでわかったが、北鎌倉からだと稲村ヶ崎や湘南道路(現・国道134号)は遠すぎる。

麦秋のキャスト

間宮紀子 – 原節子
間宮康一 – 笠智衆
田村アヤ – 淡島千景
間宮史子 – 三宅邦子
間宮周吉 – 菅井一郎(第一協團)
間宮志げ – 東山千栄子(俳優座)
矢部たみ – 杉村春子(文学座)
矢部謙吉 – 二本柳寛
安田高子 – 井川邦子
田村のぶ – 高橋豊子
間宮茂吉 – 高堂國典
西脇宏三 – 宮口精二(文学座)
高梨マリ – 志賀眞津子
間宮実 – 村瀬禅(劇團ちどり)
間宮勇 – 城澤勇夫
矢部光子 – 伊藤和代
西脇富子 – 山本多美
「多喜川」の女中 – 谷よしの
看護婦 – 寺田佳世子
病院の助手 – 長谷部朋香
会社事務員 – 山田英子
「田むら」の女中 – 田代芳子
写真屋 – 谷崎純
佐竹宗太郎 – 佐野周二

麦秋のスタッフ

監督:小津安二郎
脚本:野田高梧・小津安二郎
製作:山本武
撮影:厚田雄春
美術:濱田辰雄
録音:妹尾芳三郎
照明:高下逸男
現像:林龍次
編集:浜村義康
音楽:伊藤宣二
録音技術:宇佐美俊
装置:山本金太郎
装飾:橋本庄太郎
衣裳:齋藤耐三
巧藝品考撰:澤村陶哉
監督助手:山本浩三
撮影助手:川又昂
録音助手:堀義臣
照明助手:八鍬武
進行:清水富二

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