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女系家族

4.0
宮沢りえ(女系家族) ドラマ
宮沢りえ(女系家族)
『女系家族』は、『週刊文春』に連載され、1963年に単行本化された山崎豊子の小説である。女系が続く老舗問屋の養子婿が死んだことで巻き起こる娘たちの遺産相続争いを描いたものだが、日本テレビ系列でテレビドラマ化された唯一の山崎豊子作品であり、現在までに映画化および再三にわたりテレビドラマ化されている。

1962年の映画版「女系家族」

若尾文子(女系家族)

若尾文子(女系家族)

昭和33年、大阪船場の老舗矢島商店の当主・嘉蔵が急死し、三人の娘たちに遺産分配が伝えられる。出戻りの長女・藤代、養子を迎えて店を継いだ次女・千寿、遊びに余念のない三女・雛子はそれぞれ不満を持ち、遺産争いが始まる。裏では大番頭・宇市が画策し、嘉蔵の愛人・文乃が妊娠していることが判明。三姉妹はそれぞれ策を練り、文乃の出産前に遺産相続を決めようとする。しかし、文乃は胎児認知書だけでなく、宇市の汚職を暴いた遺言状も所持していた。最終的に、文乃が男の赤ん坊を抱いて現れ、遺産争いは文乃の勝利で終わる。

感想

当時清純派のイメージが強かった若尾文子の演技の素晴らしさ。妾の子でありながら芯の強い女性・矢島文乃を演じ、女優としての新境地を見せた。もちろん長女・藤代を演じた京マチ子の妖艶な存在感も十分。美しさと執念深い演技で、女たちの欲望の渦の中心となり、強烈な印象を残す。二人の静かながら激しい火花散る演技対決は本当に見応えがあった。
人間の欲望や本能を赤裸々に描く増村保造は原作のドロドロとした愛憎劇を、登場人物たちの心理をえぐり出すような演出で描いた。
男が死んだ後の家を巡って、金と家名のために手段を選ばない戦いを繰り広げる様子は、血縁の情や道徳を超えた欲望のむき出しになっている。当時としては衝撃的だったと思う。
1962年の映画でモノクロームなのだが、光と影の使い方が巧みで、かえって矢島家の重厚な雰囲気や女たちの複雑な感情、人間の心の闇が際立つ。
大阪・船場の老舗木綿問屋の厳格な伝統やしきたりが、女たちの剥き出しの欲望と対比され、物語の皮肉な面白さが際立った。格式ある家が欲望の戦場になる様子は、人間の本質を鋭く突いている。

キャスト

浜田文乃 – 若尾文子
矢島雛子 – 高田美和
矢島千寿 – 鳳八千代
矢島藤代 – 京マチ子
矢島嘉蔵 – 深見泰三
矢島為之助 – 浅尾奥山
大野宇市 – 中村鴈治郎
梅村芳三郎 – 田宮二郎
芳子 – 浪花千栄子
君枝 – 北林谷栄
お政 – 近江輝子
畑中良吉 – 高桐真
小森常次 – 遠藤辰雄
坂上(医師) – 浅野進治郎
戸塚太郎吉 – 山路義人
佐平 – 嵐三右衛門
米治郎 – 天野一郎
祖父方の者 – 石原須磨男
会葬者 – 玉置一恵
曽祖父の者 – 葛木香一
植木屋の女房 – 小林加奈枝
京雅堂 – 芝田総二
米治郎の実家の者 – 桜井勇
良吉の実家の者 – 菊野昌代士
京雅堂の番頭 – 木村玄
看護婦 – 松岡信江
お清 – 谷口和子
お久 – 高森チヅ子
初代の妻の実家の者 – 高峰三枝子
為之助の妻 – 小松みどり

スタッフ

製作 – 永田雅一
企画 – 土井逸雄財前定生
原作 – 山崎豊子
監督 – 三隅研次
脚本 – 依田義賢
撮影 – 宮川一夫
音楽 – 斎藤一郎
美術 – 内藤昭
録音 – 海原幸夫
照明 – 中岡源権

1963年のドラマ版「女系家族」

1963年10月1日~1964年3月31日の毎週火曜21:00~21:30に、毎日放送制作・NET系で放送。全26回。

キャスト

矢島藤代 – 乙羽信子
矢島千寿 – 喜多川千鶴
矢島雛子 – 黛ひかる
浜田文乃 – 雪代敬子
大野宇市 – 山茶花究
矢島嘉蔵 – 岩田直二
矢島良吉 – 飯沼慧
梅村芳三郎 – 北上弥太朗
芳子 – 中村芳子
米治郎 – 山口幸生
君枝 – 中畑道子
金正六郎 – 入川保則
金正弥曾助 – 山村弘三
金正喜代子 – 土佐林道子
内出 – 阿木五郎
みつ子 – 園佳也子
荒木雅子
海老江寛
日高久
赤木春恵

スタッフ

脚本 – 南木淑郎

1970年のドラマ版「女系家族」

1970年8月28日~9月25日にフジテレビ「おんなの劇場」枠で放送。全5回。

キャスト

1975年のドラマ版「女系家族」

1975年9月29日~1976年2月27日の平日13:30~13:45に毎日放送制作・TBS系の「妻そして女シリーズ」で放送。全105回。

キャスト

浜田文乃 – 岡田茉莉子
矢島藤代 – 高田美和
矢島千寿 – 井原千寿子
矢島雛子 – 高田瞳
大野宇市 – 内田朝雄
矢島嘉蔵 – 高田浩吉
片岡秀太郎
荒木雅子
双葉弘子
楠年明
北上弥太郎
酒井陽一郎

スタッフ

脚本 – 南青四郎
制作 – 毎日放送

1984年のドラマ版「女系家族」

1984年1月5日に読売テレビ「木曜ゴールデンドラマ」枠で放送。全1回。

キャスト 三田佳子 赤座美代子 秋野暢子 松原千明 芦屋雁之助 1991年のドラマ版「女系家族」

1991年9月30日~12月27日に毎日放送「妻そして女シリーズ」枠で放送。全65回。
浜田文乃(高田美和)ではなく矢島藤代(三林京子)がヒロインであり(今の三林京子しか知らぬ人は想像できないであろう)、人気アナウンサーの野村啓司がナレーションを担当して独特のトーンのドラマになっている。

キャスト

高田美和
三林京子
春やすこ
大井利江
金田龍之介
葉山良二
野村啓司

1994年のドラマ版「女系家族」

1994年1月3日にテレビ東京の初春ドラマスペシャルとして21:03~23:48に放送。全1回。
「赤い欲望 老舗の商家に起る凄絶な遺産争い・体を張った相続の座・欲に舞い愛に踊る華麗な女達」という副題が付いた。

感想

印象的なのはやはり高島礼子の演技である。この人は本作が本格的なデビュー作なのだが、妾の子という複雑な立場の矢島文乃を見事に演じた。老舗のしきたりや娘たちの攻撃にも負けない毅然とした姿である。
女たちの壮絶な遺産争いが見どころなのはフォーマット通りで、母親と三人の娘が血のつながりも忘れて莫大な遺産を奪い合う様子は、まさに本作の醍醐味。嫉妬、憎悪、策略が渦巻く中で、金と欲望のために手段を選ばない女たちの姿がドロドロしていながらも見応えがあった。
大阪・船場の老舗木綿問屋の描写もよくできており、伝統的な商家のしきたりや格式が丁寧に描かれ、物語に重厚感を与えていた。その格式ある家が欲にまみれた争いの舞台になる皮肉さが効いてくる。
池内淳子をはじめとするベテラン女優陣も素晴らしかった。三浦リカ、岡本麗、萬田久子が演じる三人の娘たちはそれぞれ個性的で、高島礼子との激しい演技合戦は見ごたえ十分。

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