女系家族ってどんな話?
社会派文学の巨匠・山崎豊子が1963年に発表した長編小説。大阪・船場の伝統的な「女系(めすがい)の家筋」を舞台に、当主の急死によって巻き起こる凄絶な遺産相続争いを描き、伝統や格式の裏に隠された人間の剥き出しの欲望や業を冷徹に暴き出して、今なお色褪せないサスペンス劇として読み継がれている名作。
あらすじ
大阪・船場で4代続く老舗の木綿問屋「矢島商店」。この店は代々、婿養子を迎えて女が家長を継ぐ「女系家族」だった。
ある日、4代目当主の矢島嘉蔵が急死。残されたのは、気が強く傲慢な総領娘(長女)の藤代、婿をとり店を継ぐ気満々の次女・千寿、そしてやや世間知らずな三女・雛子の三姉妹。彼女たちは父親の遺産をめぐり、生前から互いを牽制し合っていた。
大番頭・大野宇市の立ち会いのもと、色めき立つ三姉妹の前で嘉蔵の遺言状が開かれると、そこには驚愕の事実が記されていた。嘉蔵には、長年ひそかに囲っていた浜田文乃という愛人がおり、しかも彼女は嘉蔵の子を身ごもっているという。さらに遺言状には、文乃とその子供にも莫大な遺産を配分する旨が書かれていた。
格式を重んじる矢島家にとって、文乃の存在は到底受け入れられるものではない。三姉妹や親族、そして自らの利益を狙う大番頭たちまでもが入り乱れ、文乃を排除して少しでも多くの遺産をむしり取ろうと、醜くも緻密な陰謀劇の幕が上がる――。
見どころ
- 徹底的な「悪女」たちの心理戦
登場する女性たちは、表向きは上品で洗練された船場言葉を使いながら、裏では徹底したエゴイスット。長女・藤代、次女・千寿、三女・雛子の三姉妹がそれぞれ異なる執念とプライドを持って衝突し、そこに「慎ましやかな被害者」に見える愛人・文乃が静かに立ちはだかる構図は、一瞬も目が離せない緊張感を生み出している。 - 船場の格式と「女系」という呪縛
山崎豊子は、大阪・船場独特の古い商習慣や文化、そして「男を家長として認めない」女系家族という特殊な構造をリアルに描き出した。莫大な財産を守るための暖簾(のれん)の威信が、皮肉にも家族をバラバラに引き裂いていく歪んだ不条理さが見事に活写されている。 - 三谷幸喜や鶴橋康夫をも魅了した「大逆転のサスペンス」
単なる泥沼の身内揉めでは終わらない。誰もが他人を騙し、利用しようと暗躍する中、物語のラストにはすべてを引っくり返すような驚愕の結末が用意されている。プロットの完成度が極めて高いため、これまで何度も映画化・ドラマ化され、そのたびに多くの人々を熱狂させてきた。
人間の尽きない強欲さと、策略の果てに待ち受ける映画的なカタルシス。山崎豊子作品のエッセンスが凝縮された、一気読み必至の傑作サスペンス小説である。
1962年の映画版「女系家族」

若尾文子(女系家族)
感想
当時清純派のイメージが強かった若尾文子の演技の素晴らしさ。妾の子でありながら芯の強い女性・矢島文乃を演じ、女優としての新境地を見せた。もちろん長女・藤代を演じた京マチ子の妖艶な存在感も十分。美しさと執念深い演技で、女たちの欲望の渦の中心となり、強烈な印象を残す。二人の静かながら激しい火花散る演技対決は本当に見応えがあった。
人間の欲望や本能を赤裸々に描く増村保造は原作のドロドロとした愛憎劇を、登場人物たちの心理をえぐり出すような演出で描いた。
男が死んだ後の家を巡って、金と家名のために手段を選ばない戦いを繰り広げる様子は、血縁の情や道徳を超えた欲望のむき出しになっている。当時としては衝撃的だったと思う。
1962年の映画でモノクロームなのだが、光と影の使い方が巧みで、かえって矢島家の重厚な雰囲気や女たちの複雑な感情、人間の心の闇が際立つ。
大阪・船場の老舗木綿問屋の厳格な伝統やしきたりが、女たちの剥き出しの欲望と対比され、物語の皮肉な面白さが際立った。格式ある家が欲望の戦場になる様子は、人間の本質を鋭く突いている。
キャスト
矢島雛子 – 高田美和
矢島千寿 – 鳳八千代
矢島藤代 – 京マチ子
矢島嘉蔵 – 深見泰三
矢島為之助 – 浅尾奥山
大野宇市 – 中村鴈治郎
梅村芳三郎 – 田宮二郎
芳子 – 浪花千栄子
君枝 – 北林谷栄
お政 – 近江輝子
畑中良吉 – 高桐真
小森常次 – 遠藤辰雄
坂上(医師) – 浅野進治郎
戸塚太郎吉 – 山路義人
佐平 – 嵐三右衛門
米治郎 – 天野一郎
祖父方の者 – 石原須磨男
会葬者 – 玉置一恵
曽祖父の者 – 葛木香一
植木屋の女房 – 小林加奈枝
京雅堂 – 芝田総二
米治郎の実家の者 – 桜井勇
良吉の実家の者 – 菊野昌代士
京雅堂の番頭 – 木村玄
看護婦 – 松岡信江
お清 – 谷口和子
お久 – 高森チヅ子
初代の妻の実家の者 – 高峰三枝子
為之助の妻 – 小松みどり
スタッフ
企画 – 土井逸雄、財前定生
原作 – 山崎豊子
監督 – 三隅研次
脚本 – 依田義賢
撮影 – 宮川一夫
音楽 – 斎藤一郎
美術 – 内藤昭
録音 – 海原幸夫
照明 – 中岡源権
1963年のドラマ版「女系家族」
1963年10月1日~1964年3月31日の毎週火曜21:00~21:30に、毎日放送制作・NET系で放送。全26回。



