ギャラクシー賞 2018年10月度 月間賞、第56回(2018年度)テレビ部門 奨励賞
大量のモチーフをテーマに系統づける鮮やかな脚本(フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話の感想)
タイトルコールよりも先にクレジットを出し、やたらとハードルを上げて野木亜希子がNHKに初登場。
見る側も思わず気合いが入り、早い展開が心地良い。
大量のモチーフをちゃんとテーマに系統づけ、48分前後編にぶち込んでみせる野木亜希子の鮮やかな脚本に、人はもっと驚くべきであろう。対照的に「けもなれ」は意図的に展開を抑えている。
美人すぎる北川景子も良いキャスト。連ドラでやってほしかったなあ。
フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話 見どころ
現代社会の情報戦を扱った社会派サスペンス。サブタイトルの「どこか遠くの戦争の話」は、SNS炎上=現代の“群集心理の暴走”を暗示している。
主人公・東雲樹(北川景子)は、SNSで急拡散された「インスタントうどんに青虫混入」というフェイクニュースに挑むネットメディア記者。
1つの投稿が企業・地方選・個人の人生まで波紋を広げる構造が示される。いわば現代ならではの恐怖。「嘘と真実」の境界が揺らぐ様子を、52分×2話という緊密な構成で加速的に描写していく。
野次馬的興味とプロットの緊張を最後まで維持し、終盤、記者として最重要の判断と告発の葛藤で、極限までドラマを引っ張った。
野木亜紀子の脚本は、モチーフを丁寧に系統づけ、「感情に流される人間の弱さ」を丁寧に描き、さらに移民問題を絡めたデモ衝突や、選挙不正疑惑などを織り込み、メディアと政治の距離感を鋭く描写した。デモ現場の描写は象徴的で、「ネットの炎上がリアルの暴力へ結びつく」ことをビジュアルに示す見事な演出だった。
結果より「舞台裏」を重視する構成であり、フェイクニュースの発信源や加害者に迫る一方、「なぜ我々はそれに乗ってしまうのか?」という心理を掘り下げた。
医療関係者向け記事では「全てが真実で、全てが嘘の時代」と題され、現代の情報環境の構造的危険性を警告している。
北川景子は「メディアのリテラシーと倫理」に揺れる記者役を落ち着いた演技で好演。役者としての新境地が感じられた。
本作は、“情報”という戦場を戦う記者の物語であると同時に、我々自身が加担する“群集戦争”への警告でもある。
主要キャラクター3名(東雲樹・猿滑昇太・西剛)の行動心理分析
本作の魅力は、主要3人が社会的背景と個人的感情のはざまで揺れ動いている姿である。樹は理想と現実の接線を歩み、猿滑は社会構造に巻き込まれる市井の人間であり、西は旧体制と新世代の記者の橋渡しを模索する存在。この3人の心理的対比・交錯により、『フェイクニュース』は社会の“情報時代ならではの人間ドラマ”となっている。
東雲樹(北川景子)――「正義への揺らぐ信念」
- 起点:正義感とキャリアの狭間
元新聞記者でネット媒体に出向中の樹は、SNS投稿に無垢に振り回される人々を見て「正確に伝えること」の重要性を強く感じる。同時に、PV偏重の上司(宇佐美)のプレッシャーにさらされ、「本当の報道」と「数字の誘惑」の狭間で葛藤する。 - 中盤:自己疑念の急成長
青虫投稿の裏にある猿滑の家族背景、会社の対応、選挙への影響を追う中で、「誰が悪いのか」が曖昧に。「取材者として信じるべきなのか」「踏み込みすぎて家庭を壊すのか」――自己の判断が社会に予期せぬ影響を与えることを痛感し、記者としてのアイデンティティが揺らいでいく。 - 終盤:再定義と会得
最終的に、樹は「読まれるニュース」よりも「知るべき真実」を選ぶ決断をする。「本当」への固執と「人の生活を壊さない勇気」の両立を学び、記者としての成熟を遂げる。野木脚本が描く“正義感の深まり”は、彼女を物語の中心へと成長させる。
猿滑昇太(光石研)――「感情のはざまで暴走する庶民感覚」
- 起点:怒りの発露
開発商品への不満や消費者からのクレームに直面した猿滑は、SNSへ思わず「青虫混入」を投稿する。それは感情の発露でもあり、家庭や会社にとっては小さな“正義”であり叫びだった。 - 中盤:波及する責任の重さ
投稿が炎上し、お父さんとしての立場、家族の関係が崩壊していく。「自分は悪くない。むしろ被害者なのに」――責任転嫁と罪悪感が交錯しながらも、彼は“反応されたい”というネット時代の負の感情を体現している。 - 終盤:人生の荒波を受け入れる覚悟
家庭と会社の間で激しく揺れながらも、猿滑は真摯に記者・樹に協力し始める。「SNSで叫ぶ人間」が抱える痛みと弱さを自ら晒すことで、彼は葛藤と和解の道を模索し、最後には自分の非と向き合える“普通の人”として再生していく。
西剛(永山絢斗)――「新聞記者の矜持と劣等感」
- 起点:エリート記者のプライド
新聞社・社会部所属の西は、ネットメディア出向中の樹を見下す傾向が強く、フェイクニュースにも懐疑的である。「伝統メディアこそが真実を守る」という自負がネット社会への不信をあらわにしている。 - 中盤:掘る記者の苦悩
ネット記者・網島との対立や、企業・県知事選の陰謀を探る中で、西の正義感が刺激される。しかし一方で、「自分より若い樹が注目を浴びる」ことに焦りも生じ、嫉妬と熱意の断層が彼の行動心理に影響する。 - 終盤:真実への合流
樹との協力が必然になり、西は形式よりも「事実を掴むことの尊さ」に立ち返る。最終的に西は、過去の矜持を脱ぎ捨て、ネット記者との連帯を受け入れることで、報道人としての成熟へ一歩前進する。
フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話のあらすじ
大手新聞社「東日本新聞社」からネットメディア「イーストポスト」に出向中の女性記者・東雲樹は、編集長の宇佐美寛治に命じられてインスタントうどんへの青虫混入事件について取材を開始する。1人の男の真偽不明なSNSへの青虫混入の投稿を発端とした事件はしだいに企業間の紛争にまで拡大し、取材する樹自身にまで矛先が及ぶ中で、樹は記者としてフェイクニュース騒動に立ち向かいながら真実を追求していく。
フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話を観るには?
フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話のキャスト
猿滑昇太(「八ツ峰製菓」社員) – 光石研
西剛(「東日本新聞社」社会部記者) – 永山絢斗
網島史人(「イーストポスト」記者) – 矢本悠馬
猿滑里留(猿滑の息子) – 金子大地
宇佐美寛治(「イーストポスト」編集長) – 新井浩文
八ツ峰航平(「八ツ峰製菓」社長) – 岩松了
最上圭一(川浜県知事選挙に立候補中の元経産省官僚) – 杉本哲太
猿滑睦子(猿滑の妻) – 池津祥子
長久保勝(「八ツ峰製菓」開発部) – 吉田ウーロン太
五十嵐雅子(「八ツ峰製菓」従業員) – 小林きな子
和田心菜(主婦) – 筧美和子
神崎慎平(まとめサイト管理人) – 坂口涼太郎
春田(「鶴亀屋食品」工場バイト) – 駒木根隆介
松村慶次(「テイショーフーズ」広報部長) – 神保悟志
沖田忠信(「鶴亀屋食品」工場長) – おかやまはじめ
真島健(「鶴亀屋食品」従業員) – 水野智則
アイン(「鶴亀屋食品」従業員) – ブンシリ
辻本(コンビニ店員) – 山口森広
清水功(最上の選挙スタッフ) – 安井順平
福田幸三(川浜県現職知事) – 三田村賢二
福田の運転手 – 遠山俊也
中山秀樹(「東日本新聞社」社会部) – 神尾佑
鮫島遊(広告代理店「SURF and FINE」責任者) – 永岡佑
フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話のスタッフ
その他
フェイクニュース倉庫(のぎといういきもの ≒ 野木亜紀子)