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宗方姉妹

高峰秀子(宗方姉妹) 映画
高峰秀子(宗方姉妹)
宗方姉妹は、1950年(昭和25年)8月8日公開の日本映画。当時の新東宝が力を入れていた文芸大作路線の一作で、監督には松竹から小津安二郎が招かれ、小津にとっては初めて松竹を離れて制作した映画となった。ストーリーは大佛次郎の同名小説を原作とし、保守的な姉と奔放な妹とを対比させながら変わりゆく家庭の姿を描いている。1961年にドラマ化もされた。

宗方姉妹の感想

初見。松竹ではなく新東宝で、千石規子藤原鎌足が出ており、珍しい原作付きでもある(大佛次郎)。キャメラは小原譲治という人で同年に溝口の「雪夫人絵図」を撮っている。ごく短い移動撮影のシーンが前半とラストにあった。

カタクナな古風な姉を演じる田中絹代だが、実は笠智衆と5歳しか違わないにもかかわらず、毛皮コートでアメリカから帰国して取材陣に投げキッスしたことからバッシングされていた時期であり、小津の演技指導もことのほか厳しかったので、ロケバスに同乗した際に死にたいと漏らしていた、と高峰秀子(14歳も歳下)は書き残している。その高峰秀子もベロの出し方でかなりのダメ出しをされていたとか。

しかしまあこの映画で目を引くのは、眼帯でとりわけニヒルにキメた山村聰のDVぶりである。今回本作を見たのは、東京国際映画祭の特別企画で黒沢清がこの映画の暴力に言及していたからだった。ラスト近くで高峰秀子が階段を上がり、悲鳴をあげるシーンも良い(いつもの不在の階段がダークな装置になっている)。

黒沢清が言うように本作の登場人物は断絶していて、決して交わろうとしない。大佛次郎の原作とは大分違うようである。

宗方姉妹 見どころ

映画《宗方姉妹》(1950年、監督:小津安二郎)は、日本映画の黄金期に撮られた女性ドラマの傑作であり、小津の戦後作品の中でもとりわけ「語られざる情念」に満ちた一作として高く評価されている。
「女性映画」であると同時に「戦後の家族映画」であり、さらに言えば「日本的情念映画」の極致でもある。
小津の代名詞である静謐な映像美と、田中絹代・高峰秀子という名女優の演技が融合し、淡々とした表現の中に激しい情念と思想を秘めた作品。観るたびに、時代とともに解釈が変わる、まさに“噛めば噛むほど味が出る”名作である。

  1. 女性たちの”内に秘めた声”を描く、小津安二郎の心理劇
    姉・節子(田中絹代)と妹・満里子(高峰秀子)という対照的な姉妹を軸に、戦後の価値観の揺らぎと女性の生き方が、静かに、しかし深く描き出される。
    節子は伝統的な女性像の象徴であり、良妻賢母的な枠組みの中で自らを律しています。一方、満里子はより自由を求めるモダンな女性像で、恋愛にも奔放。この二人の姉妹像を対比させることで、小津は戦後日本の「新旧の女」の狭間に生きる女性たちの孤独と葛藤を浮かび上がらせている。
  2. 静けさの中に横たわる感情の奔流——「動かない」演出の力
    小津映画の特徴であるローアングルの定点カメラ、カットの余白、美術の整然とした構図は本作でも健在だが、特に『宗方姉妹』では“語らない”ことによって感情を伝える演出が極まっています。
    例えば、節子の無表情な顔の裏に潜む怒りや悲しみ、満里子が父(笠智衆)から自由になれない苦悩は、セリフよりも「間」や「視線」、「置かれた茶碗」などによって描かれる。観客に「行間を読む」ことを求める美学である。
  3. 名優たちの抑制された演技が織りなす、沈黙のアンサンブル
    キャスト陣は、日本映画史に残る名優たちが揃い踏み。
    • 田中絹代の演じる節子は、感情を表に出さず家庭の秩序を守ろうとする苦しみを、ため息や視線の移動で表現
    • 高峰秀子の満里子は、若さゆえの衝動と社会的制約との間で揺れ動き、ラストに向けて成熟していくそのプロセスが実に繊細
    • 笠智衆、山村聡、上原謙らの男たちが、女性たちの人生に「重し」として存在している。笠の演じる父親は、まさに旧時代の権威そのもの
  4. 「家」と「個人」の葛藤――戦後という時代の記録
    戦後5年目にあたる1950年に公開されたこの映画は、敗戦国の日本における「家制度」と「個人主義」の衝突を鮮やかに映し出している。
    特に、満里子が自立を求めながらも、姉や父の意向に従わざるを得ない構造は、戦後民主主義がまだ家庭の中まで届いていなかったことの象徴。家族という「小さな共同体」の中で繰り広げられる権力関係が作品の底流にある。
  5. 小津があえて”家族を崩壊させない”選択の意味
    本作の終盤、姉妹は互いを理解するような素振りを見せつつも、最終的には劇的な和解も決裂も起こらない。それどころか、家族の外へも完全に出られないまま日常へと戻っていきます。この“回帰”の構造こそが、小津作品の大きな特徴であり、戦後日本人が向き合うべき「変われなさ」や「情のしがらみ」を強調する手法と言える。
  6. 宗方姉妹のあらすじ

    京都の寺を間借りする宗方忠親が、娘の満里子に東京での生活を聞いていると、パリ帰りの田代がやってきた。忠親は、妹・満里子の面倒を見たり失業中の夫・三村亮助を抱えてバーで働いている姉の節子の身の上を案じていた。なぜ田代と結婚しなかったのかと満里子が節子に聞くと、自分の気持ちに気づくのが遅かったのだという。夫の亮助は、節子に離婚話を持ちかけ、抗議する彼女を殴ったが、発作で倒れ亡くなった。節子は、田代に夫の死を背負ったままでは再婚できないと打ち明けるのだった。

    宗方姉妹を観るには?

    宗方姉妹のキャスト

    三村節子(姉):田中絹代
    宗方満里子(妹):高峰秀子
    田代宏(神戸の家具屋):上原謙
    真下頼子(田代宏の友人 未亡人):高杉早苗
    宗方忠親(宗方姉妹の父):笠智衆
    三村亮助(節子の夫):山村聡
    前島五郎七 (バーの店員):堀雄二
    三銀の客:河村黎吉
    教授・内田譲:斎藤達雄
    飲み屋三銀の亭主:藤原釜足
    藤代美惠子:坪内美子
    箱根の宿女中:一の宮あつ子
    東京の宿女中:堀越節子
    三銀の女中(キヨちゃん):千石規子

    宗方姉妹のスタッフ

    監督:小津安二郎
    脚本:野田高梧、小津安二郎
    原作:大佛次郎
    製作:児井英生肥後博
    撮影:小原譲治
    美術:下河原友雄
    編集:後藤敏男
    音楽:斎藤一郎
    助監督:内川清一郎

    宗方姉妹の原作

    宗方姉妹 (中公文庫) Kindle版


    終戦後、満洲から引き揚げた宗方家。節子は失業中の夫、病床の父に代わって酒場を開く。妹・満里子は慣れない商売に疲弊する姉を歯痒く思うが、そこへ節子の昔の恋人が現れて……。美しき姉妹を中心に、敗戦後の日本で時流に乗って生きる人と目標を失った人、それぞれの生き方と葛藤が描かれる。小津安二郎監督の映画原作でも知られる長篇に、最晩年に執筆した「序の章」を加えた決定版、初文庫化。巻末に「映画「宗方姉妹」を見て」を付す。〈解説〉與那覇 潤
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