黒い十人の女のあらすじ
テレビ局プロデューサーの松吉には美しい妻・双葉がいるが9人の女と浮気していた。双葉と9人の愛人たちがお互いの存在を知り、奇妙な友情が芽生えてゆく。
愛人のひとりで舞台女優の市子は双葉と愛人たちを集め、松吉を殺す計画を話し合うが、愛人のひとり三輪子は秘密を抱えきれず、計画の存在を松吉に打ち明ける。松吉に問い詰められた双葉はあっさり計画を認め、松吉は、海岸で10人の女に囲まれ、無理やり薬を飲まされて海に捨てられる場面を想像する。松吉は双葉に、愛人関係を清算する約束と引き換えに、空包を詰めたピストルを使って、死んだように見せかける「狂言殺人」を提案する。
双葉の経営するレストランに愛人たちが集まったある日、双葉は松吉の計画通り、松吉に向けて空包を撃つ。9人の愛人は双葉に罪を着せたつもりで逃げ出し、松吉が死んだと信じ込んだ三輪子は絶望して自殺。しかし結局、松吉が生きていることが8人の知るところとなり、彼をかくまう双葉は夜道で愛人たちに問い詰められ、「離婚して、松吉を譲る」と宣言し、市子がそれに応じた。
市子のもとで怠惰な日々を過ごした松吉がVTVに出勤しようとすると、市子は、すでに退職願が出されていると告げる。さらに双葉が離婚届を出し、今後は女9人で生活費を出し合って松吉を養うつもりと明かし、さらに「これに応じなければ狂言殺人がもとで三輪子が死んだことをバラす」と迫る。すべてを失ったことを知った松吉は泣き崩れる。
松吉を手に入れた市子は女優引退を表明し、盛大な引退パーティを開いたが、そこに松吉の姿はなかった。パーティに集まった8人の女たちから祝福の花束を受け取った市子は自動車に乗り込み、対向車線で炎上する事故車を横目に見ながら、夜の闇の中に去っていく。
映画 黒い十人の女
感想
映画『黒い十人の女』(1961年、監督:市川崑)は、公開から半世紀以上を経た今もなお“モダンな不倫喜劇”として語り継がれる異色作である。
本作は、不倫というドロドロの題材を扱いながら、全編に軽妙さとユーモアが漂う映画。これは市川崑監督特有のスタイリッシュで洗練された演出によるところが大きい。下世話になりがちな題材が知的で洗練されたエンターテインメントへと昇華されている。「不倫もの」というより、「人間の愚かしさとたくましさを笑い飛ばす寓話」という感じだ。
白と黒のコントラストが強調された映像が特徴。これは不倫というテーマを、視覚的にも“モラルの白黒”として表現した意図があったのではないか。
主人公のテレビプロデューサー(船越英二)の周囲には、妻1人・愛人9人がいる。
これらの女性たちが次々と現れ、スクリーンを行き交うスピード感は、まるで舞台劇のようである。市川独自のカット割りが見事に生きている。
そして、女たちにはそれぞれ背景が異なり、個性と物語をもっており、単なる“浮気相手”ではない。
この女たちがやがて“黒い十人の女”として集結し、主人公への復讐を画策する物語である。
いわば“男を介した女たちのドラマ”の新しい形が出現することになる。
現代における多視点ドラマの原点ともいえるものであり、公開当時はかなり斬新だったのではないか。
劇中では主人公の“死”さえも滑稽な演出で処理される。いわば死を笑いに変える皮肉が効いている。
不倫や裏切りを道徳的に裁くことなく、どこか他人事のようにコミカルに描写しているのが、本作の軽さをよく示している。冷淡で洒落たこうした視点も、当時の日本映画としては非常に斬新だったはずだ。もっとも、主人公の無責任ぶりは、現代視点で見れば“笑えないリアル”ということになるが。
市川崑といえば、密室や一つの舞台に集まる人物たちを巧みに動かし、セリフと動きで緊張感を作る「舞台劇的手法」が得意である。
本作でも、愛人たちが一堂に会し、互いの立場をぶつけ合うシーンは圧巻である。
1960年代初頭は高度経済成長期、本作はその時代ならではの「男性優位社会のひずみ」「メディア業界の無責任さ」を皮肉っている。
キャスト
三岸三輪子(松吉の愛人 台本印刷会社「アート社」経営・前社長未亡人):宮城まり子
四村塩(松吉の愛人 コマーシャルガール):中村玉緒
後藤五夜子(松吉の愛人 テレビ番組演出家):岸田今日子
風松吉(テレビ局プロデューサー):船越英二
石ノ下市子(松吉の愛人 新劇女優):岸恵子
本町(テレビ局芸能局長):永井智雄
野上(松吉の同僚):大辻伺郎
羽織の男:伊東光一
花巻(アナウンサー):伊丹一三
十糸子(松吉の愛人 テレビ局広報課員):倉田マユミ
虫子(松吉の愛人 テレビ局事務員):宇野良子
八代(松吉の愛人 テレビ局エレベーター嬢):有明マスミ
櫛子(松吉の愛人 テレビ局衣装係):紺野ユカ
七重(松吉の愛人 テレビ局受付嬢):村井千恵子
警察官役の俳優:浜村純
テレビ局員:夏木章
市子の引退パーティの司会:早川雄三
テレビ局員:三角八郎
テレビ局員:飛田喜佐男
テレビ局員:志保京助
役名不明:森矢雄二、湊秀一、武江義雄、花野富夫
役名不明:村田扶実子、新宮信子、小泉順子、竹里光子、磯奈美枝
百瀬桃子(松吉の愛人になりかける新人女優):森山加代子
テレビ番組「週刊ギャング」出演者:ハナ肇とクレイジーキャッツ
スタッフ
製作:永田雅一
企画:藤井浩明
シナリオ(脚本):和田夏十
撮影:小林節雄
音楽:芥川也寸志
録音:西井憲一
照明:伊藤幸夫
美術:下河原友雄
特殊撮影:築地米三郎
助監督:中村倍也
編集:中静達治
製作主任:中島実
記録:中井妙子(クレジットなし)
スチール:薫森良民(クレジットなし)
公開:1961年5月3日
上映時間:103分
ドラマ 黒い十人の女
読売テレビ制作・日本テレビ系「木曜ドラマ」枠で2016年9月29日~12月2日に放送。
あらすじ
風松吉(船越英一郎)はドラマプロデューサーとして、それなりに仕事をこなし、今も次回作の準備中である。
テレビ局の受付嬢をしている神田久未(成海璃子)は、風松吉と不倫関係にあった。いけないとわかりつつ離れられないでいる久未だったが、ある日風の妻と思われる女性からの呼び出しでカフェに向かうと、そこにいたのは舞台女優の如野佳代(水野美紀)。風松吉との思わぬ関係を告げられ、動転した久未は佳代と口論になる。そこにたまたま居合わせたドラマAPの弥上美羽(佐藤仁美)が声をかけてきた。美羽もまた秘密を抱えていることを知り久未は絶望。佳代は「同じ悩みを抱えるもの同士、仲良くしましょう」と言うが……。
一方、風松吉は、新進気鋭の女優、相葉志乃(トリンドル玲奈)のキャスティング作業中だったが、志乃もまた久未たちと同じ悩みを抱えていた。
友人の文坂彩乃から「別れた方がいい」と言われた久未だったが、いざ風に会うと、何も言いだせない。
久未と美羽は佳代の家で不満を語る3人から「いっそのこと、死んでくれればいいのに」という言葉が……。
市川崑のセルフリメイク再放送という運動を生んだバカリズムの才人ぶり(ドラマ 黒い十人の女の感想)
初話を観て
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「誰にでも優しいってことは誰にも優しくないってことよ」などという名台詞も生んだ、市川崑・和田夏十夫妻の名作を、主演した船越英二の息子船越英一郎で撮るという企画の立て方が、バカリズムの才人ぶりを表しているわけだが、これは元々テレビドラマ向きの話で、市川崑自身、2002年に小林薫でセルフリメイクしている。
市子、双葉、三輪子、四村、五夜子、虫子、七重、八代、櫛子、十糸子と名付けられたたくましい女たちを演じたのは、映画版では岸恵子をはじめ中村玉緒、宮城まり子ら。
2002年ドラマ版では深田恭子、木村多江、唯野未穂子といった女優たち。
バカリズム版では今のところ成海璃子、水野美紀、トリンドル玲奈、そして佐藤仁美というトリッキーさで、残りの7人がどうキャストされるのかという楽しみも残す趣向だ。
追記
バカリズムは原作からは設定を借りただけと語っており、市川崑が再三描いたピストル空砲のトリックなどは採用されていない。現代劇として細かくギャグが詰め込まれた脚本は演出の手間とともに楽しめるものであった。
最終回を観て
最終回に合わせてということなのか、市川崑のセルフリメイクドラマ(2002年放送で小林薫が風松吉、正妻が鈴木京香、愛人は浅野ゆう子、小泉今日子、深キョンなど)を再放送していた。珍しいことである。バカリズムの才能はそうした運動を惹き起こすことにあると思う。
キャスト
神田 久未(東西テレビ受付) – 成海璃子
相葉 志乃(若手女優) – トリンドル玲奈
弥上 美羽(東西テレビ編成制作局ドラマ制作センタードラマ班アシスタントプロデューサー) – 佐藤仁美
如野 佳代(舞台女優) – 水野美紀
風 睦(風の妻) – 若村麻由美(特別出演、第3話 -)
文坂 彩乃(アロママッサージ店勤務) – 佐野ひなこ
皐山 夏希(脚本家) – MEGUMI
水川 夢(ヘアメイク) – 平山あや(第3話 -)
卯野 真衣(アロママッサージ店経営) – 白羽ゆり(第4話 -)
長谷川 沙英(志乃のマネージャー) – ちすん
カフェwhite
春江(店員) – 寺田御子
夏美(店員) – 森田涼花
秋子(店員) – 松本穂香
冬樹(店長) – 中山祐一朗
その他
池上 穂花(久未の友人) – 新田祐里子
浦上 紀章(東西テレビバラエティ班プロデューサー) – 水上剣星
火山 梅人(東西テレビ編成制作局ドラマ制作センタードラマ班キャスティング担当) – 山田純大
林(東西テレビドラマ班監督) – 大堀こういち
我修院 麗子(東西テレビ受付) – 西崎あや