ワンカット撮影がもたらす稀有な没入体験(アドレセンスの感想)
とてつもなく面白かったのだが、ネタバレになってしまうので、とりあえず1話ずつ紹介してみよう(本作は全4話のミニシリーズである)。
13歳の少年の自宅に警官隊が突入し、逮捕されるところからドラマは始まる。連行され、警察署で生理検査を受け、最初の取り調べで、犯行(クラスメイト女子の刺殺)時の防犯カメラ映像を見せられるところまでが第1話なのだが、これがなんと60分の1カット撮影で、突入前にぼやく刑事を捉えるキャメラがそのまま宙を滑空し、数台の警察車両を後退しつつ正面から追うので、いつのまにかドローンキャメラになっていることがわかる。ていうか全部ドローンなのか? と思うほど自由に動き回る。
2話目は少年が通っていた学校に刑事が調査に来るシークエンスなのだが、教室から廊下、食堂、テニスコートと移動しながら、すれ違う生徒、視線を向けられた教師など、対象を流麗に変えながら1カット撮影は続く。画面に映る人物は100名近くおり、どれだけ手間をかければこんな撮影ができるのか。クライマックスでは窓から飛び出す別の少年を追い、息子を乗せて車を出す刑事を見送る幕切れの後は、また空中撮影となり、数キロ先の事件現場を映して終わる。
呆気にとられるうちに3話目が始まり、少年の犯行の背景に「インセル」のミソジニーが存在していることがじわじわ判明する(すでに第2話で断片的に示される)。日本でいうところの非モテの女さん叩きのようなものだが、イギリスでは深刻な社会問題として認識されている。インセルの少年を演じるのはオーウェン・クーパー(撮影時は14歳)という新人だが、臨床心理士(エリン・ドハティ)との面談シーン(これも当然1カット)で、巧みに態度を変える演技力はずば抜けたものである。面談後にエリンが思わず涙を流してしまう緊迫シークエンスで、ここまでのものはなかなか映画では見られない気がする。
4話目は少年の父であるスティーヴン・グレアムのマッチョな男泣きで終わり、インセル問題の根の深さを示す。
1カット撮影がもたらすものは4つのシークエンス(2話以降は3日後、7ヶ月後、13ヶ月後とされる)ごとに微妙に異なるのだが、いずれも尋常じゃない緊張感に満ちていて、稀有な没入体験を味わえるドラマと言える。
アドレセンス 考察ポイント
- 父と子のコミュニケーションの断絶
父親エディは息子ジェイミーを「男らしく」育てようとするものの、仕事の忙しさから関係が希薄になり、ジェイミーは孤立していく。また、刑事バスコムも息子との会話が噛み合わず、世代間のギャップが浮き彫りになる。これらの描写は、親子間の「ボタンの掛け違え」を象徴している。 - 思春期の少年が抱える闇と社会の影響
ジェイミーの犯行の背景には、SNSやネット上の過激な思想、女性蔑視などが影響している可能性が示唆されている。彼の内面の闇や、現代社会が抱える問題が交錯し、視聴者に深い問いを投げかけている。 - 全編ワンカット撮影による臨場感
本作は全編をワンカットで撮影しており、リアルタイムで進行する緊迫感が特徴。この手法により、視聴者は登場人物の感情や状況に深く没入できる。 - 社会的テーマとしての「有害な男らしさ」
ドラマは「有害な男らしさ」や女性嫌悪が若者に与える影響を描いており、英国では教育現場でも取り上げられるなど、社会的な議論を呼んでいる。
アドレセンス あらすじ
ある朝、13歳の少年ジェイミー・ミラーが、同級生の少女ケイティ・レナード殺害の容疑で逮捕される。事件の真相を追う中で、家族、心理療法士、刑事たちは、それぞれの視点からジェイミーの内面や背景に迫る。物語は、逮捕当日から数か月後までの期間を描き、思春期の少年が抱える葛藤や、家族の苦悩、社会の闇を浮き彫りにする。
アドレセンスを観るには?
アドレセンスのキャスト
Eddie Miller – スティーヴン・グレアム
Briony Ariston – エリン・ドハティ
DI Luke Bascombe – アシュリー・ウォルターズ
D・S・ミーシャ・フランク – フェイ・マーセイ
Manda Miller – クリスティン・トレマルコ
Lisa Miller – アメリー・ピーズ
Mrs Fenumore – ジョー・ハートリー
ポール・バーロウ – マーク・スタンリー
フレッド – オースティン・ヘインズ