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女系家族

宮沢りえ(女系家族) ドラマ
宮沢りえ(女系家族)
『女系家族』は、『週刊文春』に連載され、1963年に単行本化された山崎豊子の小説である。女系が続く老舗問屋の養子婿が死んだことで巻き起こる娘たちの遺産相続争いを描いたものだが、日本テレビ系列でテレビドラマ化された唯一の山崎豊子作品であり、現在までに映画化および再三にわたりテレビドラマ化されている。

1962年の映画版「女系家族」

若尾文子(女系家族)

昭和33年、大阪船場の老舗矢島商店の当主・嘉蔵が急死し、三人の娘たちに遺産分配が伝えられる。出戻りの長女・藤代、養子を迎えて店を継いだ次女・千寿、遊びに余念のない三女・雛子はそれぞれ不満を持ち、遺産争いが始まる。裏では大番頭・宇市が画策し、嘉蔵の愛人・文乃が妊娠していることが判明。三姉妹はそれぞれ策を練り、文乃の出産前に遺産相続を決めようとする。しかし、文乃は胎児認知書だけでなく、宇市の汚職を暴いた遺言状も所持していた。最終的に、文乃が男の赤ん坊を抱いて現れ、遺産争いは文乃の勝利で終わる。

感想

当時清純派のイメージが強かった若尾文子の演技の素晴らしさ。妾の子でありながら芯の強い女性・矢島文乃を演じ、女優としての新境地を見せた。もちろん長女・藤代を演じた京マチ子の妖艶な存在感も十分。美しさと執念深い演技で、女たちの欲望の渦の中心となり、強烈な印象を残す。二人の静かながら激しい火花散る演技対決は本当に見応えがあった。
人間の欲望や本能を赤裸々に描く増村保造は原作のドロドロとした愛憎劇を、登場人物たちの心理をえぐり出すような演出で描いた。
男が死んだ後の家を巡って、金と家名のために手段を選ばない戦いを繰り広げる様子は、血縁の情や道徳を超えた欲望のむき出しになっている。当時としては衝撃的だったと思う。
1962年の映画でモノクロームなのだが、光と影の使い方が巧みで、かえって矢島家の重厚な雰囲気や女たちの複雑な感情、人間の心の闇が際立つ。
大阪・船場の老舗木綿問屋の厳格な伝統やしきたりが、女たちの剥き出しの欲望と対比され、物語の皮肉な面白さが際立った。格式ある家が欲望の戦場になる様子は、人間の本質を鋭く突いている。

キャスト

浜田文乃 – 若尾文子
矢島雛子 – 高田美和
矢島千寿 – 鳳八千代
矢島藤代 – 京マチ子
矢島嘉蔵 – 深見泰三
矢島為之助 – 浅尾奥山
大野宇市 – 中村鴈治郎
梅村芳三郎 – 田宮二郎
芳子 – 浪花千栄子
君枝 – 北林谷栄
お政 – 近江輝子
畑中良吉 – 高桐真
小森常次 – 遠藤辰雄
坂上(医師) – 浅野進治郎
戸塚太郎吉 – 山路義人
佐平 – 嵐三右衛門
米治郎 – 天野一郎
祖父方の者 – 石原須磨男
会葬者 – 玉置一恵
曽祖父の者 – 葛木香一
植木屋の女房 – 小林加奈枝
京雅堂 – 芝田総二
米治郎の実家の者 – 桜井勇
良吉の実家の者 – 菊野昌代士
京雅堂の番頭 – 木村玄
看護婦 – 松岡信江
お清 – 谷口和子
お久 – 高森チヅ子
初代の妻の実家の者 – 高��三枝子
為之助の妻 – 小松みどり

スタッフ

製作 – 永田雅一
企画 – 土井逸雄財前定生
原作 – 山崎豊子
監督 – 三隅研次
脚本 – 依田義賢
撮影 – 宮川一夫
音楽 – 斎藤一郎
美術 – 内藤昭
録音 – 海原幸夫
照明 – 中岡源権

1963年のドラマ版「女系家族」

1963年10月1日~1964年3月31日の毎週火曜21:00~21:30に、毎日放送制作・NET系で放送。全26回。

キャスト

矢島藤代 – 乙羽信子
矢島千寿 – 喜多川千鶴
矢島雛子 – 黛ひかる
浜田文乃 – 雪代敬子
大野宇市 – 山茶花究
矢島嘉蔵 – 岩田直二
矢島良吉 – 飯沼慧
梅村芳三郎 – 北上弥太朗
芳子 – 中村芳子
米治郎 – 山口幸生
君枝 – 中畑道子
金正六郎 – 入川保則
金正弥曾助 – 山村弘三
金正喜代子 – 土佐林道子
内出 – 阿木五郎
みつ子 – 園佳也子
荒木雅子
海老江寛
日高久
赤木春恵

スタッフ

脚本 – 南木淑郎

1970年のドラマ版「女系家族」

1970年8月28日~9月25日にフジテレビ「おんなの劇場」枠で放送。全5回。

キャスト

1975年のドラマ版「女系家族」

1975年9月29日~1976年2月27日の平日13:30~13:45に毎日放送制作・TBS系の「妻そして女シリーズ」で放送。全105回。

キャスト

浜田文乃 – 岡田茉莉子
矢島藤代 – 高田美和
矢島千寿 – 井原千寿子
矢島雛子 – 高田瞳
大野宇市 – 内田朝雄
矢島嘉蔵 – 高田浩吉
片岡秀太郎
荒木雅子
双葉弘子
楠年明
北上弥太郎
酒井陽一郎

スタッフ

脚本 – 南青四郎
制作 – 毎日放送

1984年のドラマ版「女系家族」

1984年1月5日に読売テレビ「木曜ゴールデンドラマ」枠で放送。全1回。

キャスト 三田佳子 赤座美代子 秋野暢子 松原千明 芦屋雁之助 1991年のドラマ版「女系家族」

1991年9月30日~12月27日に毎日放送「妻そして女シリーズ」枠で放送。全65回。
浜田文乃(高田美和)ではなく矢島藤代(三林京子)がヒロインであり(今の三林京子しか知らぬ人は想像できないであろう)、人気アナウンサーの野村啓司がナレーションを担当して独特のトーンのドラマになっている。

キャスト

高田美和
三林京子
春やすこ
大井利江
金田龍之介
葉山良二
野村啓司

1994年のドラマ版「女系家族」

1994年1月3日にテレビ東京の初春ドラマスペシャルとして21:03~23:48に放送。全1回。
「赤い欲望 老舗の商家に起る凄絶な遺産争い・体を張った相続の座・欲に舞い愛に踊る華麗な女達」という副題が付いた。

感想

印象的なのはやはり高島礼子の演技である。この人は本作が本格的なデビュー作なのだが、妾の子という複雑な立場の矢島文乃を見事に演じた。老舗のしきたりや娘たちの攻撃にも負けない毅然とした姿である。
女たちの壮絶な遺産争いが見どころなのはフォーマット通りで、母親と三人の娘が血のつながりも忘れて莫大な遺産を奪い合う様子は、まさに本作の醍醐味。嫉妬、憎悪、策略が渦巻く中で、金と欲望のために手段を選ばない女たちの姿がドロドロしていながらも見応えがあった。
大阪・船場の老舗木綿問屋の描写もよくできており、伝統的な商家のしきたりや格式が丁寧に描かれ、物語に重厚感を与えていた。その格式ある家が欲にまみれた争いの舞台になる皮肉さが効いてくる。
池内淳子をはじめとするベテラン女優陣も素晴らしかった。三浦リカ、岡本麗、萬田久子が演じる三人の娘たちはそれぞれ個性的で、高島礼子との激しい演技合戦は見ごたえ十分。

キャスト

スタッフ

脚本 – 大薮郁子
音楽 – からさき昌一
演出 – 大山勝美
プロデューサー – 不破敏之
制作協力 – 日放、KAZUMO
制作会社 – PROTX
制作 – 阿部恵司
製作 – テレビ東京

2005年ドラマ版「女系家族」

2005年7月7日~9月15日の毎週木曜22:00~22:54にTBS系で放送。全11回。
舞台を戦後間もない大阪・船場から、2005年の東京・日本橋に置き換えた。

感想

一番の見どころは、ほぼ10年前に高島礼子が演じた浜田文乃を米倉涼子が演じ、対決するというキャスティングである。内容は2005年という時代に合わせてアップデートされていたが、米倉涼子の強い意志、長女・藤代(前作では岡江久美子)に回った高島礼子の嫉妬と執着にかられた演技は圧巻。火花を散らすような演技は本当に見応えがあった。
瀬戸朝香、香椎由宇をはじめ、橋爪功、沢村一樹など実力派が揃い、それぞれのキャラクターの欲望や葛藤が緻密に描かれていた。単なる遺産争いを超えた「女の群像劇」として十分な見応えがあった。中でも瀬戸朝香の意地悪さは長く記憶に残るものである。
老舗の伝統と莫大な金銭に翻弄され、人生を狂わせていく女たちの姿を通して、金銭欲や嫉妬、見栄といった人間の普遍的な「業」が浮き彫りになっていた。
登場人物それぞれの秘められた感情や過去の因縁が徐々に明らかになっていく過程で、裏切りや策略が横行する中での心理戦も楽しめた。誰が何を考えているのかを推理しながら見るのも面白かった。

キャスト

浜田文乃 – 米倉涼子
■矢島家
矢島藤代(長女) – 高島礼子
矢島千寿(次女) – 瀬戸朝香
矢島雛子(末娘) – 香椎由宇
矢島良吉(千寿の夫、婿養子) – 沢村一樹
矢島嘉蔵(矢島商事の社長で三姉妹の父) – 森本レオ
矢島芳子(三姉妹の母・松子の妹) – 浅田美代子

■矢島商事
大野宇市(専務) – 橋爪功
木村かおり(経理部) – 田丸麻紀
小林君江(宇市の内妻) – 伊佐山ひろ子
梅村芳三郎(日本舞踊・梅村流の家元の息子��� – 高橋克典

■その他
矢島かね – 佐々木すみ江
三浦陽子 – 山下容莉枝
和田甚 – 六平直政
鈴木店長 – 山下真司
石田隆介 – 神保悟志
坂上道彦 – 長谷川初範
三宅医師 – 村岡希美
戸塚太郎吉 – 石田太郎
内田正一郎 – 小市慢太郎
中原有美子 – 朝加真由美
小森常次 – 三波豊和
京雅堂 – マギー司郎
米治郎 – 齋藤康弘
金正六郎 – 海東健

スタッフ

脚本 – 清水曙美
音楽 – 栗山和樹
演出 – 酒井聖博竹村謙太郎伊藤寿浩
主題歌 – 今井美樹「愛の詩」(EMIミュージック・ジャパン)
チーフプロデューサー – 貴島誠一郎
プロデューサー – 森川真行荒井光明
制作協力 – ファインエンターテイメント
制作 – ドリマックス・テレビジョン
製作 – TBS

2021年ドラマ版「女系家族」

宮沢りえ(女系家族)

2021年12月4日・12月5日の21時~22時55分にテレビ朝日系にて、2夜連続のスペシャルドラマとして放送。宮沢りえと寺島しのぶのダブル主演で、舞台設定は「2014年の大阪、矢島商店という老舗木綿問屋」。

感想

寺島しのぶ(女系家族)

本作を見た後に山崎豊子の原作を読み始めてしまったので時間が経ってしまった。

まず、船場言葉にうるさい視聴者がいるとわかっているはずにもかかわらず、なぜ米倉涼子版(2005年)のように舞台を東京に変えなかったのか。ロケ場所ですら、あれは東京のどこそことを指摘されてしまう始末だったわけだが。

その理由は、おそらく渡辺えりの怪演をメインに据える意図が先にあったからではないかと想像できる。

渡辺えり(女系家族)


渡辺によって矢島芳子(映画では浪花千栄子、ドラマでは中村芳子、荒木雅子、浅田美代子が演じてきた)という人物をクローズアップし、三姉妹を「細雪」的な滅びの美学の構図におさめることが、7度目の映像化の肝だったのではないかと思われるのである。

見どころ

  1. 宮沢りえの「静かなる闘志」
    宮沢りえが、妾の子という逆境にありながらも、品格と内に秘めた強い意志を持つ文乃を、静かで抑制された演技の中に、確かな存在感を持って表現。激しい感情のぶつかり合いの中で、彼女の冷静沈着な姿が際立る。
  2. オールスターキャストによる重厚な女たちの群像劇
    正妻・藤代役の水野美紀、三姉妹役の寺島しのぶ、室井滋、そして末娘役の芦田愛菜(末娘を演じるには若いという意見もあったが、演技力でカバーしている)といった、世代を超えた豪華な女優陣が顔を揃え、壮絶な女たちの群像劇を演じ切った。それぞれが持つ欲望や執着が、ドラマに深みとリアリティを与えた。
  3. 「遺産争い」を超えた人間ドラマ
    単なる金の争いだけでなく、家柄、血筋、プライド、そして秘められた愛憎が複雑に絡み合っている。女たちがなぜそこまで遺産に執着するのか、その背景にある心理や、過去の因縁が丁寧に描かれ、人間の本質を深くえぐる。
  4. 絢爛豪華な美術と衣装
    老舗の木綿問屋という設定にふさわしい絢爛豪華な屋敷のセット、登場人物たちの着物など、美術や衣装にも非常にこだわっている。その華やかさが女たちの泥沼の争いと対比され、独特の世界観を作り出した。
  5. 二夜連続スペシャルならではの壮大なスケール
    スペシャルドラマとして、通常の連続ドラマでは描ききれない詳細な描写、壮大なスケール。原作の持つ重厚な世界観を存分に味わえる。

キャスト

浜田文乃(矢島嘉蔵の愛人) – 宮沢りえ
矢島藤代(長女) – 寺島しのぶ
矢島千寿(次女) – 水川あさみ
矢島雛子(三女) – 山本美月
矢島芳子(三姉妹の叔母) – 渡辺えり
矢島米次郎 – 有福正志
矢島為之助 – 古川慎
矢島良吉(千寿の夫) – 長谷川朝晴
戸塚太郎吉 – 勝矢
小森常次 – 松角洋平
山徳社長 – 井上肇
前田医師 – 前田一世
坂上五郎 – 神尾佑
出目金(薬局の奥さん) – 山村紅葉
梅村芳三郎(日本舞踊の若師匠) – 伊藤英明
小林君枝(大野宇市の愛人) – 余貴美子
矢島家の大番頭である。
矢島嘉蔵 – 役所広司(特別出演)
大野宇市(大番頭) – 奥田瑛二
金正六郎(雛子の恋人) – 片岡信和
他 – 田村泰二郎渕野陽子山崎紘菜

スタッフ

原作 – 山崎豊子「女系家族」(新潮文庫刊)
企画協力 – 一般社団法人 山崎豊子著作権管理法人、野上孝子、新潮社
監督・脚本 – 鶴橋康夫
音楽 – 羽岡佳
舞踊指導 – 尾上菊之丞
法律監修 – 秋山仁美
技術協力 – ビデオスタッフ
照明協力 – 嵯峨映画、APEX
美術協力 – 東京美工
チーフプロデューサー – 五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー – 船津浩一(テレビ朝日)、浜田壮瑛(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力 – 角川大映スタジオ
制作著作 – テレビ朝日
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