『ある小説家の日記』ってどんなドラマ?
締め切り間際の編集部、消えた天才小説家、そして空白の原稿用紙。一つの嘘が次の嘘を呼び、文学の神聖な舞台が予測不能な騙し合いに変貌する。新進気鋭の劇作家・上原哲也が書き下ろしたオリジナル脚本を、演出の平竣輔がソリッドかつテンポの速い会話劇として映像化。制作統括の家冨未央、プロデューサーの奥本健太郎らの手によって、出版業界の闇と人間の業をスリリングに描出したワンシチュエーション・ミステリー。
見どころは、緊迫した編集部という密室の中で、夏帆とシルビア・グラブが繰り広げる、主導権をめぐる心理戦。
恵は頼りない編集アシスタントの新木翔(林裕太)を巻き込んで、芹澤が遺した「ある手がかり」から原稿の行方を追い、天才小説家・芹澤環という男の意外な素顔、夫婦の間に隠された歪な秘密が暴かれていく。失踪したのは誘拐か、それとも狂言か。そして、存在しないはずの「傑作原稿」の正体とは。虚飾に満ちた言葉の世界で、最後に笑うのは誰なのか。言葉のプロたちが仕掛ける罠と逆転のプロット、最後まで誰が味方か分からないシチュエーション・サスペンスの快作。
あらすじ
ミステリー作家・芹澤環の急死から1年、編集者の江藤は遺された「日記」を妻の真理子から見せられる。そこには知られざる芹澤の独白が綴られていたが、実は真理子が、夫が生成AIに打ち明けていた悩みを基に加筆・捏造したものだった。
「人生のチャンスに間に合いたい」という欲望に駆られた江藤は事故直前までの日記をAIで構築することを真理子に提案。編集者として再起したい江藤と、亡き夫の本心を知りたい真理子。二人の女の執着が絡み合い、真実を掘り起こす試みが制御不能なカオスへと変貌していく。
キャスト
感想
「特集ドラマ」とは何かとかねがね思っていたのだが、NHKが新進気鋭の脚本家とともに、オリジナルドラマを創作する「脚本開発会」で数多くの企画から珠玉の1本を選出して映像化するというものらしい。
そんな中で選ばれた本作のモチーフは日記とAIであり、いささかネットに偏っているように見えなくもないが、そう感じるのは私が老人だからだろう。結末に見るようにネットはごく自然に選択されるものに過ぎないからだ。
冒頭シーンにだけ出演してすぐに事故死する作家(板尾創路)、編集者(夏帆)、作家の妻(シルビア・グラブ)の三人が出てきて、主演は夏帆とクレジットされているが、物語は、失われた日記を捏造するという共犯関係になる夏帆とシルビアの視点で交互に語られる。内容からするとむしろシルビアの方が主役のような。
夫が日記を残していたと明かしたシルビアに、夏帆は手を入れてそれを発表しようと提案する。ところが夏帆に渡された原稿はシルビアがAIに書かせていたものだった(原稿に違和感を感じている夏帆が、AIのことを知っていたのかはややアイマイなのだが)、というプロットはやや雑な印象。AIのアカウントは生前の板尾のものであり、だからこれは板尾が言いそうなことを言わせて夫の死を受け入れようとする妻の話なのだが、夏帆は夏帆で管理部に異動させられる瀬戸際にあり、編集者としてのキャリアを板尾の日記公開に懸けているとされる。こちらでは、AIの書いたものを出版することに対する編集者の倫理が試されている。
結局、編集部のイマドキな感じのバイト君(作者が望まぬ遺作の公開に疑問を持っている)に日記の捏造をネットで暴かれ、ついでシルビアの告白記事が週刊誌に出て、夏帆は編集者失格の烙印を押されることになる。AIが夫ではないことに気づいたシルビアが夏帆を裏切った恰好である(それにしても何も言わずに裏切るのは悪意がないか?)。
シルビア・グラブは毀誉褒貶だった「もしがく」でWS劇場の食えないオーナーを演じていた人。キムラ緑子に似ているのだが、どちらかというとミュージカルの人である。




