監督は永らく主演の米倉とタッグを組んで映画やドラマを作っている松田秀知。信子と稲村家の結末は原作と異なるオリジナルの展開。2014年3月2日に、本ドラマの設定を引き継ぐ形で『ドラマスペシャル 家政婦は見た!』が放送された。
熱い空気(2012年版)の感想
少々ややこしいのだが、清張の原作(63年刊)は66年と79年にドラマ化され、83年に初めて市原悦子がヒロインを演じて「家政婦は見た!」という副題が付き、以降2008年まで「家政婦は見た」のタイトルで断続的に26話まで放映され(土曜ワイド劇場版)、さらに1997年には木曜ドラマ枠でワンクール(11本)が放映された。
これらの再放送が相次ぎ、市原悦子の代表作になったのだが、清張は「家政婦は見た」への関与を拒否したため、ヒロインや家政婦会の名は違うものになっている。
本作では米倉涼子がヒロインを演じるが、なんとまた「家政婦は見た」の続編が2本作られた。
もちろん清張とは別物で、市原悦子版とも別物である(3つ目の名前)。
そういうわけで、原作の名を冠した2人の女優のドラマと、派生した2系統のドラマシリーズがあることになる。
さて、そもそも家政婦とは、大正時代に女中が払底したために家庭に派遣されるようになった「派出婦」が、戦後名称を変えたものである。
つまり清張が書いた60年代にも女中が払底している状況があり、国の主導で家政婦が戦争未亡人などの働き口として確立していく流れがあった(米倉が所属する渋谷の「協栄家政婦会」は100人もの家政婦を抱えており、本作の舞台となる稲村家では「次の女中が決まるまでのつなぎとして」家政婦を雇っている)。
たとえば谷崎潤一郎的な世界においては、女中は「娘」と相似だが(小さいおうち)、それと家政婦の違いは、ビジネスとして派遣されている「他者」だということだ。
そこで清張は、冷徹な観察力のある女が家庭の不幸の因子をあぶり出すという構図を作った。
ちなみに原作には続編などないので、幕切れではヒロインは反省などせず、子どもに火のついた矢を耳に打ち込まれてオシマイである。
悪意のもとに夫の浮気で離婚したという過去があるというのは原作通りではあるが、「家政婦のミタ」(2011)のような告白場面は不要だった。
あと、野際陽子がマッチで耳掃除をして火傷するというのも、マッチ自体見たことない人がいる今、意味不明だったと思う。
そもそもラスト(火のついた矢)の伏線なので、要らなかったのではないか。
本作は米倉涼子の一連の清張ものなのだが、その跡を継いでいるように見える武井咲も、このドラマを演じる日がいつか来るだろうか。
熱い空気(2012年版)のあらすじ
大学病院の内科部長・稲村達也(段田安則)の家庭に、家政婦の河野信子(米倉涼子)が派遣される。信子は一見地味だが、実は美貌の持ち主で、稲村家の秘密を次々と暴いていく。達也の不倫、家族の不和、前家政婦のスキャンダルなど、信子は鋭い観察眼で真相に迫る。
信子は達也の浮気相手が妻・春子(余貴美子)の妹・寿子であることを知り、家族の矛盾を指摘する。一方で、達也の不倫旅行先で起きたチフス事件に巻き込まれ、警察の捜査対象となる。しかし、信子は自ら身代わりとなり、達也の無実を証明する。
最後に、信子は美しい容姿が原因で過去のトラウマを抱えていることを明かし、稲村家を去る。信子の介入により、稲村家には平穏が訪れ、家族は自らの過ちに気づくのだった。

 
  
  
  
  
