天国と地獄の感想
初めて観たのだが、まぎれもない傑作であった。
まず脚本がきわめて優れているのだが、エド・マクベインの原作が踏襲されているのはこの前半のみ(といっても1時間近くある)である。しかも原作での結論は「身代金は出さない」というものだった。
次に演出とキャメラワーク、編集だが、ありえないほど完璧である。舞台のように広い権藤邸のリビングを自在に動くキャラクターをワイドスクリーンで描いているが、複数キャメラによるワンカットで撮られたという(このシーンの終わりは木村功が部屋に入ってくるところだが、そこで躓いたりしたら全部撮り直しになるので、異常な緊張を強いられたらしい)。
その場面から、疾走するこだま2号にワイプで切り替わるのだが、この車上での撮影も伝説だらけである(2000万円かけて東海道線を借りきったとか、酒匂川沿いの民家の屋根を取っ払ったとか、石山健二郎が振り返ったのは、カメラテストで芝居を終わらせてしまったので助監の森谷司郎に尻を蹴飛ばされたからだとか、洗面所の窓の隙間は設計図では10cmだったのに本番前日に7cmとわかって吉田カバンに一晩で作り直してもらったとか)。
そして伊勢佐木町から黄金町(すべてセットである)を歩く山﨑努のサングラスの効果に目を奪われ、息詰まるクライマックスの逮捕劇があり、おそろしく手の込んだ面会室の鏡像ラストシーン。とにかく、何もかも唖然としてしまう映画である。
おそらくは無給のインターンである山﨑努は、平沼橋あたりの下町で3畳のアパートで貧乏をかこってはいるが、数年後には医師になるはずの準エリートである。丘の上(浅間台)に豪邸を構えていたものの、この物語で挫折することになった成功者である三船敏郎とのコントラストは、単純に階級闘争的な「天国と地獄」ではない。地獄とは、あのゾンビが群れる黄金町にあり、山﨑努のサングラスの光にあり、それがラストの面会室での対比となっている。
天国と地獄のあらすじ
靴会社常務の権藤は、息子と間違えて誘拐された運転手の息子の身代金3000万円を要求される。権藤は自社株買い占めの資金を失う苦渋の決断の末、犯人の指示通り特急列車から現金を投げ落とし、子供を救出する。戸倉警部らの懸命な捜査により、犯人がインターンの竹内だと判明。共犯者殺害の証拠を掴んで逮捕に至るが、権藤は財産と地位を失う。後日、死刑を待つ竹内は面会に訪れた権藤に対し、格差への憎悪をぶつけ、最後は取り乱しながら連行されていく。
天国と地獄を観るには?
天国と地獄 キャスト
戸倉警部(誘拐事件の捜査担当主任) – 仲代達矢
権藤伶子(権藤の妻) – 香川京子
河西(権藤の秘書) – 三橋達也
青木(権藤の社用車運転手) – 佐田豊
田口部長刑事 – 石山健二郎
荒井刑事 – 木村功
中尾刑事 – 加藤武
竹内銀次郎(誘拐事件の犯人) – 山﨑努
■ナショナル・シューズ重役
宣伝担当重役・神谷 – 田崎潤
デザイン担当重役・石丸 – 中村伸郎
営業担当専務・馬場 – 伊藤雄之助
■権藤邸
青木の息子・進一 – 島津雅彦
権藤の息子・純 – 江木俊夫
■警察
捜査本部長 – 志村喬
捜査一課課長 – 藤田進
村田刑事 – 土屋嘉男
山本刑事 – 名古屋章
島田刑事 – 宇南山宏
高橋刑事 – 牧野義介
小池刑事 – 鈴木智
中村刑事 – 田口精一
上野刑事 – 山本清
原刑事 – 児玉謙二
刑事 – 伊藤実、鈴木治夫
鑑識課員 – 加藤和夫
■その他
新聞記者 – 千秋実、三井弘次、北村和夫、近藤準
債権者 – 山茶花究、浜村純、西村晃
靴工場の工員 – 東野英治郎
病院の火夫 – 藤原釜足
刑務所長 – 清水将夫
裁判所執行吏 – 織田政雄、松下猛夫
内科医長 – 清水元
横浜駅の乗務員 – 沢村いき雄
魚市場の事務員 – 清村耕次 (声は熊倉一雄による吹き替え)
病院の外来患者 – 大村千吉
看守長 – 田島義文
麻薬患者 – 菅井きん、小野田功
殺される麻薬街の女 – 富田恵子
天国と地獄 作品情報
脚本 – 黒澤明、菊島隆三、久板栄二郎、小国英雄
原作 – エド・マクベイン『キングの身代金』
製作 – 田中友幸、菊島隆三
音楽 – 佐藤勝
撮影 – 斎藤孝雄、中井朝一
編集 – 黒澤明
配給 – 東宝
公開 – 1963年3月1日
上映時間 – 143分



