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鈴木先生

4.0
土屋太鳳(鈴木先生)©テレビ東京 ドラマ
土屋太鳳(鈴木先生)©テレビ東京

第3話|学級運営ジャンルとの訣別

今週はぐっさん壊れるという話で、意表を衝く深刻な展開であった。初回で教師の性欲発散の問題に軽くふれてはいたのだが、怒濤のような踏み込みである。ぐっさんの演技そのものは、まあソツのない、ありきたりのものだが、そこへの導入がうまいので、これは衝撃的だった。

思春期のオヤジキモイ病真っ盛りの神田マリは、自らも所属するバレー部顧問のぐっさんを傷つけるために教師の好感度ランキングコンテストを企画する。
部員の河辺彩香は捻挫したふくらはぎをぐっさんがさする姿に、ぐっさんの性的欲求不満を鋭く見抜いたからだが、当の河辺はぐっさんに優しくされるのがいやではなかったというオチつきである。

ランキングの結果は、

1位 鈴木先生 27票
(コメント)さいこーカッコイイ!
めっちゃいかす
メガネ姿が知的~ドキドキ
大スキドキドキ
2位 岡田先生 23票
(コメント)IドキドキOKADA
兄キ…
3位 槇田先生(誰?) 16票
(コメント)かわいいめっちゃ癒し系ラブリー

一方ワーストは…

1位 山崎先生(ぐっさんね) 34票
(コメント)うざい!!
きもいよあせる
女に飢えてるダウン
目がギラギラしすぎだよ汗
なんか生理的にムリ汗
さわらないでよね。

2位 江本先生(赤堀雅秋である) で20票
(コメント)昔自慢するなー
グチやめろむかっ
授業がつまらない

そして3位は鈴木先生、得票数は見えない。ワースト2位の赤堀雅秋は確信犯としての入賞であり、「なんで俺が2位なんだwww」とうそぶいているのだが…
キレたぐっさんが、ホームルームで、「大人しくしてたら、つけあがりやがって!」と怒鳴り散らすあたりから、通常の学級運営物からじわりと逸脱し始める空気。
宥めに入ってきた長谷川博己に、「裏切り者の平良の口封じに来たんだろう!」と罵声を浴びせ、「ほう、やっぱり可愛い子はぬかりなく手なずけてらっしゃる」。長谷川のクラスの女子を喜び組と決めつけ、はじめから攻撃色全開。
ここらで、学園ドラマという本音と建前の葛藤劇から完全に峻別した。
神田マリと河辺彩香の小競り合いをここに挟むのは演出上の計算にもとづくものだが、芸が細かい。神田がキーッと卒倒し、その場全員のテンションが上がりまくる中、「ハッハッハッハッ! 」と哄笑してさらにステージを上げるぐっさんは、もはや場を異化するトリックスターと化している。
「もう茶番はたくさんだ! 本当は全部お前が仕組んだんだろうが!いつもいつも人をダシにして自分だけいい顔しやがって…」
これは俺のせいなのか?と自問する長谷川をクローズアップし、シーンは閉じる。

後日談として、ぐっさんは慰めてくれた田畑智子に告白してさらに撃沈。連日のイメクラに通いでハイソックス萌えにひたり精神の回復をはかるが、もはや転落設定は躊躇はなく、このイメクラ嬢が河辺の姉だったという展開。行状が教育委員会にあらわになり、辞職を余儀なくされる。去っていくぐっさんと長谷川を対比し、「俺は向こう側へは行かない」と長谷川に内声で言わせる。

長谷川博己は「壊れていく鈴木先生」を演じることに意欲を燃やしていたという。
この物語は「鈴木メソッド」の実践による大岡裁きの物語ではなく、メソッドを夢みながら壊れ、再生(鈴木先生ふうに言えば「昇華」)していく鈴木先生を描くものとなるのだろうか。
一方、長谷川の彼女である臼田あさ美も職場ストレスが原因であきらかにうつ病を発症している。
長谷川は臼田を期待された形で引き受けることができないだろう。長谷川は臼田で妄想を育てることができない。土屋太鳳でしかスタートしない長谷川博己の妄想は、どこにつながろうとしているのか。

第4話|臼田あさ美はSPECホルダーなのか

前回の破壊力がすさまじかっただけに今回は題材的には地味である。
そりゃそーだよね、という視聴者も予想しているわけだが、これならどうだ!と言わんばかりの詰め方でオリジナリティを主張する展開で、
今回も目を離せなかった。
「学校のトイレでウンコ恥ずかしい」
「母親に言われて長靴で登校、恥ずかしい」
「面白いことを言って好きな女の子の気を惹きたい」
というだけの話なのだが、ここまで面白くできるのかと感心。

雷鳴が轟く昼休み、脇腹から血を流す女子とコンパスの針を手にしている男子、というドラマチックな導入から、時間を戻して事実を描写していく構成。前回はそうでもなかったが、論理の積み重ねがこのドラマの特徴である。
と書くと、また鈴木メソッドによる大岡裁きかと思うが、今回は長谷川博己はひたすら黙って座っているだけだ。
好きな女の子を笑わせようと、友達の長靴をしつこくからかっているところを、自分もウンコをしてたくせにと女子にバラされ、かっとなって突き飛ばし、たまたま床に落ちていたコンパスでケガさせてしまった男子。
どうしても自分の非を認めず、皆の前で演説することになる。
しかし「好きな女の子を笑わせようと」という部分を説明できないために、演説は支離滅裂になり、結局は「好きな女の子」にもそれを知られ、なおかつクラスの全員から「お前のウンコのことなんてどうでもいい」と思われ、しかもその女の子も長靴で来ていたことを知って、
自己正当化は完全に失敗して、生徒は真っ青になって嘔吐してしまう。
“最悪”だ、と談話室で突っ伏したまま動かない生徒に向かって、長谷川博己は「最悪だなんて言うなよ」と励ますのだが、しかしその後、職場の外で待ち伏せた臼田あさ美が、土屋太鳳をめぐる長谷川の妄想を正確に言い当てる驚くべきシーンが挟まる。
これはまた夢オチ?と思ってしまうのだが、そうではなく、ショックを受けた長谷川は自分のアパートに逃げこみ、台所のシンクに顔を突っ込んで「最悪だ」とつぶやくのである。
臼田あさ美はその前にも学校校舎に現れて長谷川を糾弾したりしていたのだが、あれも全部長谷川の幻視ではなく、SPECだということなのだろうか。

一方で、富田靖子にも危ういものを感じる。
富田は生徒の覚醒を目指す鈴木メソッドに危険なものを感じ、長谷川博己との対決の流れが作られつつある。

第5話|土屋太鳳はのんのん様

ぐっさんの後任として体育教師に就任した夕輝壽太は、終盤にいたって、土屋太鳳のことを「のんのん様」と呼んでいた。
まるで花輪和一の漫画のひとコマのようであるが、これは幼児語であって、「観世音菩薩・観音様」のことである。群馬、石川、静岡、兵庫、広島、香川、京都とかなり広範囲にわたって用いられているようだ。観世音菩薩は顔立ちも女性的であるし、「慈母観音」などという言葉から示されるように女性と見る向きが多い。
対して地蔵は男性の僧侶形の像容で、昔、これを踏まえた上で、永井豪の漫画で「観音開き」という、PTAを怒らせるネタがあって…まあそれはいいかwww(たしか「廃人二十面チョ」ではなかったか)

さて、臼田あさ美がSPECホルダーであるのかどうかは、まだ明らかではない。長谷川博己とよりを戻したように見えたが、臼田は長谷川を受け入れられるだろうか。
長谷川は次第に壊れ方が大きくなってきていて、職員室で自分を避難する教師たちの幻影を見たり、1時限分にわたってノートPCのキーボードを叩きまくるも、実際に打ち込まれていたのは記号だけだった、という具合である(これはでんでんや田畑智子に見られてしまった)。
富田靖子の存在と、その対決の構図は次第に輪郭が濃くなりつつある。

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