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カンパネルラとジョバンニを思わせる切なさ(怪物の感想)
3幕構成になっているのは、坂元裕二が慣れているテレビドラマのフォーマットを意識してのことだという。
1幕目は安藤サクラの視点である。シングルマザーの彼女は、様子のおかしい小学5年の黒川章矢を問いただし、担任の先生(永山瑛太)に話を聞きに学校に赴くのだが、校長(田中裕子)や教頭は頭を下げるばかり。章矢が同級生の柊木陽太をいじめていると瑛太は反論するのだが、当事者の陽太はこれを否定。瑛太は保護者会で謝罪し、退職に追い込まれる。
2幕目は瑛太の視点。教室で暴れる章矢を止める際、肘を当てて鼻血を出させてしまった彼は、安藤サクラに謝罪しようとしたのに、校長たちに止められて頭を下げることしかできなかった。一方、孤立している陽太を家庭訪問すると、息子を病気扱いする陽太の父親(中村獅童)に「頭に豚の脳みそが入っている」と言われる。あげく、週刊誌に「暴力教師」と書かれ、恋人(高畑充希)も離れていくが、瑛太は章矢らの作文に隠された秘密に気づき、台風の中、失踪してしまった章矢・陽太を、安藤サクラと探す。
3幕目は章矢の視点。章矢は同級生らに隠していたが、二人は廃トンネルの列車で仲良く過ごしていた。宇宙が膨張して時間が逆転し、いつか生まれ直す日が来るのを待つ二人は、台風の中、列車の中で出発の音を聞く。
──というあらましだが、これに加えて、下諏訪駅近くのビル火災(陽太の放火が示唆される)、田中裕子が駐車場で孫を轢きながら夫に罪を被せたことなどなど、数えきれぬほどの伏線が描かれる。安藤サクラが亡父のように章矢が成長することを願い、瑛太の口癖が「男らしく」であったりすることなどが、章矢と陽太の行動を促す結果になっている。
題名の「怪物」は、ふたりが「怪物だーれだ?」と呼びかけながら興じるインディアンポーカーから。そのゲームの嘘と洞察こそ、映画のテーマなのである。
俳優全員が是枝裕和×坂元裕二に身構え、これぞという演技をしているが、その中でも素晴らしいのは、なんといっても柊木陽太である。私にとっては「VRおじさんの初恋」の葵くん(あと「光る君へ光る君へ」の一条天皇)だが、メランコリックなプロフィールは10歳とは思えない。黒川章矢との関係はまさに「銀河鉄道の夜」のジョバンニとカンパネルラなのだが、切なすぎて泣ける。
怪物 見どころ
第76回カンヌ国際映画祭でクィア・パルム賞を受賞。これは性的マイノリティを描いた作品に贈られる賞で、劇中で描かれる子どもたちの関係性が評価された結果である。ただし物語の中ではその描写が明確にされていない。また音楽を担当した坂本龍一は公開前の2023年3月に死去し、本作が遺作となった。
- 見どころ1. 「怪物」は誰?
「怪物」は登場人物の誰かを指すのではなく、観客自身に問いかけられている。母親、教師、子どもたちの3つの視点から描かれ、同じ出来事でも見方によって解釈が異なることで、偏見や誤解が「怪物」を生み出すことを暗示している。 - 見どころ2. “真実”の多面性
シングルマザーの早織、担任教師の保利、そして子どもたちの視点で構成され、同じ出来事が異なる角度から描かれるため、真実は一つではない。 - 見どころ3. 「怪物だーれだ」の意味
子どもたちの「怪物だーれだ」というゲームは、単なる遊びではなく、物語全体のテーマを象徴している。誰もが「怪物」になり得るというメッセージが含まれている。 - 見どころ4. ラストシーンの解釈
子どもたちが土砂崩れに巻き込まれたかどうかが明確に描かれていない。亡くなったとも、生き延びたとも考えられ、やはり真実が一つではないというテーマを反映している。
怪物 あらすじ
湖畔の町で雑居ビル火災が発生。小学5年生の湊は同級生の依里と、豚の脳移植という奇妙な話題で繋がる。依里は父親から虐待され、クラスでもいじめられていた。湊は依里と秘密の廃線跡の電車で過ごすようになるが、いじめから身を守るため、担任の保利先生が「湊の脳は豚の脳」と言ったという嘘をついてしまう。
この嘘により保利は退職を余儀なくされる。罪悪感を抱えた湊は校長に真実を告白。一方、依里は「ビッグランチ」が起こると時間が逆行し生まれ変われると信じていた。台風の夜、湊は父親に虐待された依里を救出し廃電車へ。土砂崩れで車両は埋まるが二人は無事脱出。生まれ変わりはなくても、二人はありのままの自分で前に進むことを選ぶ。
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怪物のキャスト
保利道敏(湊、依里の担任教師) – 永山瑛太
麦野湊(早織の息子) – 黒川想矢(幼少期:黒川晏慈)
星川依里(湊の同級生) – 柊木陽太
品川友行(学年主任) – 黒田大輔
神崎信次(湊が2年生の時の担任教師) – 森岡龍
八島万里子(保利の同僚教師) – 北浦愛
蒲田大翔(湊、依里の同級生) – 小林空叶
広橋岳(湊、依里の同級生) – 柳下晃河
浜口悠生(湊、依里の同級生) – 金光泰市
木田美青(湊、依里の同級生) – 飯田晴音
ミスカズオ(女装タレント) – ぺえ
広橋理美(岳の母親) – 野呂佳代
伏見の夫 – 中村シユン
鈴村広奈(保利の恋人) – 高畑充希
正田文昭(教頭) – 角田晃広
星川清高(依里の父親) – 中村獅童
伏見真木子(校長) – 田中裕子
黒田莉沙(湊、依里の同級生) – 小畑葵
藤森日和(湊、依里の同級生) – 石橋実都
小松瑛多(湊、依里の同級生) – 志村瑛多
前坂恭子(雑誌記者) – 片山萌美
消防隊員 – 松浦慎一郎
保健室の先生 – 大田路
タレント – ゆってぃ
怪物のスタッフ
脚本:坂元裕二
音楽:坂本龍一
製作:市川南、依田巽、大多亮、潮田一、是枝裕和
エグゼクティブプロデューサー:臼井央
企画・プロデュース:川村元気、山田兼司
プロデューサー:伴瀬萌、伊藤太一、田口聖
ラインプロデューサー:渡辺栄二
撮影:近藤龍人
照明:尾下栄治
録音:冨田和彦
音響効果:岡瀬晶彦
編集:是枝裕和
美術:三ツ松けいこ
セットデザイン:徐賢先
装飾:佐原敦史、山本信毅
衣装デザイン:黒澤和子
衣装:伊藤美恵子
ヘアメイク:酒井夢月
キャスティング:田端利江
スクリプター:押田智子
助監督:森本晶一
制作担当:後藤一郎
配給:東宝、ギャガ
制作プロダクション:AOI Pro.
製作:「怪物」製作委員会(東宝、ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro.、分福)
『怪物』は坂元裕二ファン必見の映画です。この記事で少しでも興味を持たれた方は、ぜひ本編をチェックしてみてください。
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