2023年の日本映画。監督は是枝裕和、脚本は坂元裕二。主演は安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太。第76回カンヌ国際映画祭において脚本賞、クィア・パルム賞を受賞。音楽を担当した坂本龍一は公開前の2023年3月に死去、本作が遺作。
カンパネルラとジョバンニを思わせる切なさ(怪物の感想)
3幕構成になっているのは、 坂元裕二が慣れているテレビドラマのフォーマットを意識してのことだという。
1幕目は 安藤サクラの視点である。シングルマザーの彼女は、様子のおかしい小学5年の 黒川章矢を問いただし、担任の先生( 永山瑛太)に話を聞きに学校に赴くのだが、校長( 田中裕子)や教頭は頭を下げるばかり。章矢が同級生の 柊木陽太をいじめていると瑛太は反論するのだが、当事者の陽太はこれを否定。瑛太は保護者会で謝罪し、退職に追い込まれる。
2幕目は瑛太の視点。教室で暴れる章矢を止める際、肘を当てて鼻血を出させてしまった彼は、安藤サクラに謝罪しようとしたのに、校長たちに止められて頭を下げることしかできなかった。一方、孤立している陽太を家庭訪問すると、息子を病気扱いする陽太の父親( 中村獅童)に「頭に豚の脳みそが入っている」と言われる。あげく、週刊誌に「暴力教師」と書かれ、恋人( 高畑充希)も離れていくが、瑛太は章矢らの作文に隠された秘密に気づき、台風の中、失踪してしまった章矢・陽太を、安藤サクラと探す。
3幕目は章矢の視点。章矢は同級生らに隠していたが、二人は廃トンネルの列車で仲良く過ごしていた。宇宙が膨張して時間が逆転し、いつか生まれ直す日が来るのを待つ二人は、台風の中、列車の中で出発の音を聞く。
──というあらましだが、これに加えて、下諏訪駅近くのビル火災(陽太の放火が示唆される)、田中裕子が駐車場で孫を轢きながら夫に罪を被せたことなどなど、数えきれぬほどの伏線が描かれる。安藤サクラが亡父のように章矢が成長することを願い、瑛太の口癖が「男らしく」であったりすることなどが、章矢と陽太の行動を促す結果になっている。
題名の「怪物」は、ふたりが「怪物だーれだ?」と呼びかけながら興じるインディアンポーカーから。そのゲームの嘘と洞察こそ、映画のテーマなのである。
俳優全員が 是枝×坂元裕二に身構え、これぞという演技をしているが、その中でも素晴らしいのは、なんといっても柊木陽太である。私にとっては「 VRおじさんの初恋」の葵くん(あと「 光る君へ」の一条天皇)だが、メランコリックなプロフィールは10歳とは思えない。黒川章矢との関係はまさに「 銀河鉄道の夜」のジョバンニとカンパネルラなのだが、切なすぎて泣ける。
怪物のキャスト
保利道敏(湊、依里の担任教師) – 永山瑛太
麦野湊(早織の息子) – 黒川晏慈)
星川依里(湊の同級生) – 柊木陽太
品川友行(学年主任) – 黒田大輔
神崎信次(湊が2年生の時の担任教師) – 森岡龍
八島万里子(保利の同僚教師) – 北浦愛
蒲田大翔(湊、依里の同級生) – 小林空叶
広橋岳(湊、依里の同級生) – 柳下晃河
浜口悠生(湊、依里の同級生) – 金光泰市
木田美青(湊、依里の同級生) – 飯田晴音
ミスカズオ(女装タレント) – ぺえ
広橋理美(岳の母親) – 野呂佳代
伏見の夫 – 中村シユン
鈴村広奈(保利の恋人) – 高畑充希
正田文昭(教頭) – 角田晃広
星川清高(依里の父親) – 中村獅童
伏見真木子(校長) – 田中裕子
黒田莉沙(湊、依里の同級生) – 小畑葵
藤森日和(湊、依里の同級生) – 石橋実都
小松瑛多(湊、依里の同級生) – 志村瑛多
前坂恭子(雑誌記者) – 片山萌美
消防隊員 – 松浦慎一郎
保健室の先生 – 大田路
タレント – ゆってぃ
怪物のスタッフ
脚本: 坂元裕二
音楽: 坂本龍一
製作:市川南、依田巽、大多亮、潮田一、是枝裕和
エグゼクティブプロデューサー:臼井央
企画・プロデュース:川村元気、山田兼司
プロデューサー:伴瀬萌、伊藤太一、田口聖
ラインプロデューサー:渡辺栄二
撮影:近藤龍人
照明:尾下栄治
録音:冨田和彦
音響効果:岡瀬晶彦
編集:是枝裕和[1]
美術:三ツ松けいこ
セットデザイン:徐賢先
装飾:佐原敦史、山本信毅
衣装デザイン:黒澤和子
衣装:伊藤美恵子
ヘアメイク:酒井夢月
キャスティング:田端利江
スクリプター:押田智子
助監督:森本晶一
制作担当:後藤一郎
配給:東宝、ギャガ
制作プロダクション:AOI Pro.
製作:「怪物」製作委員会(東宝、ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro.、分福)
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