聞かなかった場所

酒井美紀(聞かなかった場所)
酒井美紀(聞かなかった場所)

松本清張の長編推理小説(「黒の図説」第7話として『週刊朝日』1970年12月18日号~1971年4月30日号連載、1971年6月光文社(カッパ・ノベルス)刊行)を原作として、3度テレビドラマ化されている。
「松本清張特別企画・聞かなかった場所」として、2011年11月16日、テレビ東京系列「水曜ミステリー9」枠(21:00-22:48)にて放映。厚生福祉省勤務の女性次長・浅井恒子を主人公とし、坂道の場所を大塚周辺に設定している。

79年、97年に続いて2011年の三度目のドラマ化である。

定年までの年数を指折り数えているような小心者のノンキャリ官僚が、妻の不審死の真相を執拗に調査し、ついに、奥手だと思い込んでいた妻の奔放な行動を突き止めるという実話小説のような筋書きで、ドラマ化第1作は藤田まこと大谷直子(これはイメージにぴったり)、2作目は風間杜夫大島さと子が夫婦を演じているが、本作では名取裕子の官僚、伊藤洋三郎の小説を書けなくなった無職夫という逆転した夫婦の話になっている。

自邸での浮気相手との房事中にボヤが起こり、慌ててバケツで消火するうち相手が心臓麻痺で斃れたので、隣家の薬局(原作では化粧品店)に死体を運んだという死の経緯は、原作に沿ったものではあるが、その舞台が原作の代々木ではなく、なぜか北大塚というまるで文脈の異なる場所に変更されているのが興醒めである。原作の魅力は、なんといっても、妻が不審死をとげた場所が、代々木山谷(今で言う南新宿と参宮橋の間)というロマンスの香り漂う「坂の途中」であることだからだ。

名取裕子(効かなかった場所)

名取裕子(効かなかった場所)

名取裕子は「厚生福祉省」(略して厚福省)で女性初の局長昇進を控えているやり手の副局長で(原作では清張おなじみの農水省の課長補佐)、地方講演で少子化対策の持論を展開する姿など颯爽としていてサマになっているのだが、激務の合間に調査を進め、夫の浮気相手がかつて部下だった酒井美紀であることを知る。

終盤には主人公と浮気相手の対決があり、原作通り、それまで下手に出ていた酒井が開き直るのだが、そのシーンはなかなか良く、そこから逆算して脚本を組み立てたのかと思うほどだった。

すべて忘れてしまうから」で意表をつく眼帯の女を演じていた酒井美紀は、実は不二家の取締役であることを今知ったのだが、タダモノではない存在感がある。

聞かなかった場所 (角川文庫 ま 1-31)

聞かなかった場所 (角川文庫 ま 1-31)

キャスト

浅井恒子 – 名取裕子 (厚生福祉省・女性子育て支援局次長)
久保孝子 – 酒井美紀 (恒子の元部下)
高橋千代吉 – 大杉漣 (薬局店主)
沼袋潔 – 金田明夫 (恒子の部下)
浅井英夫 – 伊藤洋三郎(恒子の夫。小説家)
石田博美 – 川上麻衣子 (恒子の義妹)
花井駒子 – 石井トミコ (孝子宅の家政婦)
下岡有作 – 渡辺いっけい (警視庁捜査一課の刑事)
丸山芳江 – 茅島成美 (英夫の教え子)
市川洋介 – 藤堂新二 (厚生福祉省審議官)
橘真弓 – 森奈みはる (看護師)
厚生福祉省大臣 – 森下哲夫
村松恭子大草理乙子中條サエ子小柳友貴美小池真吾西尾浩行

スタッフ

脚本:西岡琢也
監督:黒沢直輔
撮影:志賀葉一 
選曲:合田麻衣子
合成:日本映像クリエイティブ(長部恭平) 
操演:シールズ(高橋昌志)
撮影協力:高崎市、高崎シティギャラリー、前橋市、箕郷文化会館、高崎商科大学佐藤幼稚園 ほか
技術協力:フォーチュン、Kカンパニー
美術協力:山崎美術
音楽協力:テレビ東京ミュージック
プロデューサー:橋本かおり(テレビ東京)、小畑良治冨田英樹
チーフプロデューサー:小川治(テレビ東京)

タイトルとURLをコピーしました