2016年6月25日に公開。監督は岸善幸、主演は門脇麦。岸は本作が初監督作品、門脇が本作品が単独初主演作品となる。R15+作品。公開:2016年6月25日 上映時間:126分
心理学を専攻する大学院修士課程の白石珠は、大学のゼミで知ったアーティスト、ソフィ・カルによる「何の目的もない、知らない人の尾行」の実行を思い立ち、近所に暮らす男性、石坂の後をつける。そこで石坂の不倫現場を目撃し、尾行を続ける。
哲学科の院生門脇麦 は、リリー・フランキーの教授の勧めで、修士論文を書くために見知らぬ人の「尾行」を決意する。という出だしからして荒唐無稽で、小学生かよと思ってしまうが、このくだりは「本当の話」(今は古本でしか入手できない)を書いたソフィ・カルがボードリヤールにそそのかされたのと同じ構図ということになる。
ソフィ=門脇が選んだターゲットは近所に住む妻子持ちのエリート編集者(長谷川博己)で、ブックデザイナーと重ねる不倫の逢瀬や修羅場を門脇は目の当たりにする。マイクオフで会話などよく聞こえないまま(門脇は興味がないのでイヤホンをしている)の尾行の描写は、ドキュメンタリー畑の監督らしい、本作のメインをなす異常な画面となっており、それなりに興味深い。
安部工房を読んだことがある人なら、尾行に気づいた長谷川と門脇が共犯関係に陥っていく展開を期待するところだ。しかしそういう展開にはならず、なぜ尾行をやめられないのかという門脇の告白を、長谷川は「どこにでもある話だ。陳腐だ」と喝破し、あくまでも凡庸な編集者であることが強調される(全共闘世代の小池真理子の原作(未読)では、ヒロインと編集者は飲み仲間になるそうなので、やはり共犯関係の線だろうと想像する)。
リリー・フランキーの内面が描かれている点も原作とは異なる。映画では、金で雇った妻を同道して危篤の母親を見舞ったりするフシギな行動をとっているのだが、そうした行動の意味や、その挙句に自殺を試みる心の動き、そもそもなぜ門脇に尾行を勧めたのかといったことも、映画はほとんど説明しない。ドキュメンタリー畑の監督ならではのやり方で、あるがままの画面の力で押しきるのだ。
烏丸せつこのアパートの管理人が画面からはみ出る存在感で、コワかった。
キャスト
白石珠:門脇麦
石坂史郎:長谷川博己
鈴木卓也:菅田将暉
篠原教授:リリー・フランキー
河井青葉
石坂の愛人:篠原ゆき子
宇野祥平
岸井ゆきの
西田尚美
近所のおばさん:烏丸せつこ
スタッフ
原作:小池真理子「二重生活」(角川文庫刊)
監督・脚本:岸善幸
エグゼクティヴ・プロデューサー:河村光庸
プロデューサー:杉田浩光、佐藤順子、富田朋子
撮影:夏海光造