一路の感想
ファーストインプレッション
2015年のドラマの再放送で、原作は2013年には賞もとり、女優4人と原作者が中山道を歩く紀行番組もあったという。
浅田次郎のはしゃぎぶりが目に浮かび、ドラマを見る気を殺ぐが、ドラマを見終わってみれば、許してもいい気になる。
冒頭、永山絢斗が3段階にクローズアップされるショット(途中にもある)がいかにもうさんくさく、「ケータイ刑事」シリーズを書いた渡邊睦月は、てんで時代劇っぽくないのだが、サラリーマン物として、まあ見てみよう。
藤野涼子と間違えそうになる松浦雅は「ごちそうさん」以降、あまりぱっとしないが、期待したい。
最終回まで観て
面白い要素満載で最後まで楽しめたが、あくまでも脳内変換が楽しかったということで、ドラマとして優れていたわけではない。
これは面白すぎる原作(未読だが)の勝利であろう。
しかし必見作ではある。
サスペンスが巧みに張り巡らされたロードムービーの傑作
本作は、さまざまな要素が複雑に絡み合い、「無事に江戸へたどり着けるのか?」「敵の妨害をどう切り抜けるのか?」「裏切り者は本当にいるのか?」といった複数の謎とスリルが同時進行する、極上のサスペンス時代劇である。
「お家取り潰し」という絶対的なタイムリミット
緊張感の源は、「決められた期日までに江戸へ到着できなければ、お家が取り潰しになる」という絶対的なタイムリミット。
主人公・小野寺一路と行列の一行は、一日でも遅れることが許されないという極度のプレッシャーの中で旅を続ける。
道中のわずかなトラブルや遅延が、即座に藩の存亡に関わるという設定が絶妙で、物語全体に絶え間ない緊張感を与えている。
参勤交代には莫大な費用がかかりますが、一行は資金も潤沢ではない。時間だけでなく金銭的な制約が旅をさらに厳しいものにしている。
次々と襲いかかる妨害工作と「見えざる敵」
一路たちの参勤交代は、単なる道中記ではなく、行く手には、藩の乗っ取りを企む江戸家老・将監一派による執拗な妨害工作が待ち受けている。
刺客や忍びを放ち、直接一行の命を狙うという分かりやすい脅威が、アクションシーンとしてのスリルを生み出し、宿場町で宿の手配を妨害したり、人足を確保できないように裏で手を回したり、暴力だけではない陰湿で知的な妨害が繰り返される。
ベタではあるが、次にどんな罠が仕掛けられているか分からないというサスペンスである。
序盤では、誰が、何のために妨害しているのか全貌が明らかになっていない。この「見えざる敵」の存在が、ミステリーとしても面白い。
「内通者は誰だ?」という疑心暗鬼
敵の妨害工作が巧妙であることから、「江戸に通じている裏切り者がいるのではないか?」という疑念が一行の中に生まれる。
味方であるはずの行列の仲間たちの中に、敵のスパイがいるかもしれないという状況は、閉鎖された空間での疑心暗鬼を生み出す。誰を信じて良いのか分からない状況はサイコサスペンスとも言える。
疑念は行列内の人間関係に亀裂を生じさせ、新たなトラブルの火種に。敵の策略と内部の対立が絡み合い、複雑で予測不可能な展開にハラハラする仕組みである。
経験ゼロの主人公と謎の「行軍録」
永山絢斗演じる小野寺一路は、経験も知識も人望もない若者だが、父の突然の死によって、何の予備知識もないまま参勤交代を取り仕切る「行軍差配」という大役を任され、藩の命運を背負わされる。当然ながら、観る者は「本当に大丈夫なのか?」と思う。
一路が頼れるのは、父が遺した一冊の「行軍録」のみ。
この行軍録には、道中の詳細な情報や先人の知恵が記されており、一路はこれを解読しながら数々の困難に立ち向かう。
この「行軍録」が謎を解く鍵となっているのが、また、うまいと思う。
一路 あらすじ
文久2年(1862年)、参勤交代の供頭・小野寺一路は、父親の急死により田名部へ戻り、家督を相続する。一路は江戸育ちで田名部の地を知らず、参勤の経験もないが、古文書の記録を参考に古式ゆかしい行列の復活を目指す。しかし、親戚や仲間からの協力は得られず、許嫁の国分カオルに励まされる。行列の成功を誓い、カオルを娶る決意を固める一路だが、雪深い峠越えや殿様の発熱、重臣たちの陰謀など、次々と難題が立ちはだかる。
一路を観るには?
本作はNHKオンデマンドも含め、再放送以外に観る方法がない(木下ほうかのせいか?)。いずれにしても、惜しいことである。
一路 キャスト
蒔坂左京大夫 – 渡辺大
佐久間勘十郎 – 藤本隆宏
小野寺惣十郎 – 梶原善
髪結い新三 – 忍成修吾
薫 – 松浦雅
堀江与三郎 – 矢島健一
丁太 – 武蔵
半次 – 内山信二
栗山真吾 – 中島広稀
スワ – 平祐奈
白雪 – 室井滋(声)
ブチ – 熊田曜子(声)
桝屋正右衛門 – 小野了
辻井良軒 – 坂田聡
酒井讃岐守 – 梨本謙次郎
小野寺弥九郎 – 天宮良
駒井兵馬 – 真勝國之
蒔坂一太郎 – 玉山詩
千代丸 – 原光希
すず – ミムラ
伊東喜惣次 – 木下ほうか
空澄 – 上條恒彦
国分七左衛門 – 石黒賢
蒔坂将監 – 佐野史郎
一路 スタッフ
脚本 – 渡邉睦月
音楽 – 髙見優
殺陣指導 – 菅原俊夫
時代考証 – 山本博文
語り – 加賀美幸子
撮影 – 南野保彦、安田雅彦
美術 – 原田哲男、豊田紗智子
照明 – 林哲夫、江川敏則
録音 – 中路豊隆、山本研二、松本悟
編集 – 園井弘一、関谷憲治、今西杏奈
記録 – 野崎八重子、西岡智子
音響効果 – 上床隆幸
VFX – 佐々木宏
演出 – 石原興、服部大二、井上昌典
制作統括 – 山田尚史(松竹)、吉永証(NHKエンタープライズ)、原林麻奈(NHK)
制作 – NHKエンタープライズ
制作・著作 – NHK、松竹
一路の原作(浅田次郎)
父の死により江戸から国元に帰参した小野寺一路は、参勤道中御供頭のお役目を仰せつかる。家伝の行軍録を唯一の手がかりに、いざ江戸見参!