一方で、姜暢雄は、対馬諭吉との約束通り、どこぞの島で漁師をしていたが、子供が持ってきた大根を包んでいた新聞紙の記事から、入山法子の死を知ってしまい、ふたたび白い女を探し始める。
これまでの物語を通じて、この男は、白い女を探すというひとつのことしかやっていないのだが、こちらも、病院や霧子の母である岡まゆみが姿を消していることがわかり、何らかのぺてんが暴かれようとしている按配である。
カタルシスのある展開を望むものである。
入山法子の危機に際して自分も倒れてしまった鶴田忍は、京野ことみの危機を救うために颯爽と現れて戸次の顔色を失わせ、視聴者の溜飲を下げたが、中田喜子に先を越されてしまい、助手・石井智也の「にゃんともにゃらず」事件が反芻され、あまりの無能ぶりにまた具合が悪くなりそうだった。 そもそも、面会謝絶になるほど体調を崩すタイミングが出来すぎていたのだが、あれももしや中田喜子の陰謀によるものだったのではないかと思われる。
そして大沢樹生。
登場シーンはそれなりにあるにもかかわらず、なぜか存在感を薄めている京野ことみに歪んだ愛情を抱いているとおぼしいが、大沢は一方で中田の愛人であり、戸次はその関係を知らない(戸次の養女となった田島ゆみかは勘づいていそうな気がする)。
こちらもどう転ぶか、展開が楽しみである。
第7週|戸次重幸はチェロを弾けない
中田喜子演じる蓮見依子とは、何者として登場したのだったか。 レストラン「ロータス」のオーナーで富裕層と付き合いがあるのはわかるが、10億という金を戸次重幸に貸すほどの金持ちであるにもかかわらず、その身分が明らかではなく、龍村家とのかかわりもよくわからない。 当初、入山法子にも戸次にも、10億を知人が用立てる口利きをするだけと言っていたはずである。 なぜそれが気になるかというと、戸次が蓮見依子の息子なのではないかという気がしてきたからである。
榎木孝明は、「ゴシュは死んだ」という言葉の意味を知っていることを示すため、ティーカップのもち手をぐるりと左側に回してみせた。すると戸次は顔色を失って暴れ始め、榎木のノートPCを粉々にしてしまった。
ティーカップの動作はフランス語の左(gauche)のことを意味するのだろう。
宮沢賢治の童話の主人公「ゴーシュ」は左利きではないが、その名はgaucheの「不器用」という意味から取られたと言われている。つまり榎木が言いたいのは「セロ弾きのゴーシュ」のことであった。
戸次は、かつて姜暢雄と朝までワインを飲み交わした際に、チェロ演奏家になる夢を諦めたいきさつを語っていた。
16年前の大火災によって背中を痛めたためである、ゴシュは死んだとは、この火災でチェロ弾きの御田園陽一が死んだということを意味しているのだろう(ちなみに、この「大火災」は、当初、阪神大震災のことだったが、設定変更されている)。
御田園陽一は死んでいた、つまり戸次重幸は贋者である(本物の御田園陽一が左利きだったかどうかはわからないが、左利き用のチェロというものは、特注しないかぎりないらしい)。
そこで戸次が誰なのかということになり、冒頭に書いた、中田喜子の息子なのではないかという予想が生じるのである。
また、安原霧子が「ゴシュは死んだ」という言葉をどこで聞いたのかという問題もある。
霧子の母親が龍村家で家政婦をしていたのは20年以上も前とされており、火災よりも前なのである。
この物語には二つのボディロンダリングがあると思う。
ひとつは戸次重幸だが、もうひとつは入山法子によるものである。
龍村圭以は死んだとされているが、病院で怯えている白い女は安原霧子ではないはずである。
さて、榎木孝明はタンポポ茶まで用意したが、京野ことみを手篭めにすることに再び失敗してしまった。
タンポポ茶は卵胞刺激ホルモンの分泌をよくする効果があるらしいが、榎木はさらにこれにしびれ薬のようなものを調合して、京野の自由を奪っていたが、現れた弓月に京野をさらわれてしまった。
京野ことみの強姦に失敗するのはこれで二度目であり、榎木は大沢樹生に対した際と同様に、ハプスブルクのサーベルを取り出したが、役に立たなかった。
榎木が龍村の血にこだわるのは、龍村ファームの土地に隠された秘密が関係していると思われる。
姜暢雄がきさらぎ病院・分室と思っていた建物は、精密機器メーカーの研修施設だった。
この会社が太陽光発電事業にかかわっていることから、姜は戸次重幸を連想する。戸次は世界最大の太陽光発電事業に出資しており、10億円というのもそれに必要な金だった。
戸次と入山法子の新婚旅行先はアラブだったのも、この契約に関係していた。
現実でも、アラブ首長国連邦が太陽光発電所を建設しているが、日本でこうした話題に関係があるのは日立など大企業であって、戸次の会社のようなネット企業が太陽光発電にどう関わっているのかは謎である。
そもそも戸次の会社は一度も映らないし、深夜まで帰ってこないわりに何の仕事をしているのか、どうもぴんとこないのである。
第8週|ふたたび沈滞ムードへ
予想通り、姜暢雄が再登場するなり物語の進行は止まり、謎は引き延ばされて、ふたたびドラマは緊張を失ってしまって、今週はずっと、デヴァルトメンタルクリニックから誘拐された入山法子が、龍村圭以なのか安原霧子なのかという話で終わってしまった。
あるブロガーが指摘するように、圭以と霧子の最も簡単な見分け方は、筆跡鑑定である。
霧子の書いた「御田園陽一は悪魔」という警告文の文字は、ワープロのような奇妙なもので、
「あの子は文字にも魂があると言って一字一字ていねいに書いていた」
と母親の浅子(岡まゆみ)が解説していた。
姜暢雄も京野ことみもあの異様な手紙を見ているはずなのに、入山に字を書かせてみないのは不自然なのだが、昼ドラマだからしかたないだろう。
京野ことみはどうやらDNA鑑定をしようと考えているらしく、「ニャンともニャらない」の唐木田を連れて、再び榎木孝明の部屋に向かうところで、今週は終わっていた。
来週ははじめから、またしても京野の貞操が危険にさらされるようである。
デヴァルトメンタルクリニックに侵入した姜と京野は清掃会社の職員に化けていたが、病院前のコインパーキングで様子を伺っていたときには、変な帽子をかぶって“変装”していた。
こうした「探偵ふう」の装いをする感覚は、70年代のドラマ的でもあり(例えば「アイフル大作戦」のような)、昼ドラマ的でもある(つまり昼ドラマは70年代から時間が止まっている)。
今週のストーリーはもうひとつ、龍村グループの総裁の座を狙う戸次重幸と矢島健一の争いであったが、中盤では劣勢と言われていた戸次が盛り返し、矢島は増資までしたのに、執行取締役の座に甘んじることになってしまった。
戸次は今やグループCEOなので、元々経営していたネット企業がどういうものだったのか、今後ドラマで語られることはきっとないだろう。
リネン室でケーキをぱくついていたナース姿の松田沙紀は、この病院に「出たり入ったりしている」と言っており、左手首はリスカの痕だらけだったが、やはり患者だった。
松田の手引きによって入山法子の誘拐は成功したが、姜=京野コンビは、入山がお嬢さまと呼んでいた毛糸の人形を落としてしまった。
松田が人形を医師の手から取り戻していたので、これはこの後の展開になるかと思われたが、入山は姜が作った新しい人形に満足してしまったし、松田もまた持ち去った人形を何もしなかったようなので、これらは松田沙紀の場面を作るためだけのシーンであったようだ。
美人さんの松田沙紀は宝塚出身の女優だが、ドラマではまとまった役があまりないのが残念だ。
