大沢は、しかし、じつは影山という名が示す通り、本当の悪魔、ファウストを迷わせたメフィストフェレスなのではないかと思う。大沢樹生の最大の関心は京野ことみにあり、京野のうちに隠れている嫉妬心などを増幅させたいのである。黒い企みを腹に隠したまま笑顔を浮かべる人種は扱いやすい、と大沢は京野にうそぶき、怒りや不満を心の奥深くに溜め込む連中のほうが怖い、ある日突然マグマのように噴火して、周りの人間を焼き尽くすから、と話していたが、言うまでもなく、京野ことみがそうなることを期待しているのである。
姜暢雄は、このドラマが始まって以来、はじめて能動的に行動した。
まず、戸次重幸のマンションで入山法子のマントをかぶって現れた。マントはすぐに戸次がめくって、入山ではないことを看破してしまったので、なぜ姜がわざわざそんな真似をしたのかは不明である。
姜は膝をついて、他のことはすべてなかったことにするから、入山法子が龍村圭以であることを認めろと頼んだが、戸次は苦しそうに断っていた。
姜は、自分は「ゴシュは死んだ」の意味を知っているんだぞと脅したが、よろしい、裁判でも何でもしようじゃないかと言い返されてしまう。この「裁判」というのは、アパートにいる入山が圭以かどうかという裁判のことである。つまりこの時点では、戸次は「ゴシュは死んだ」という意味を知っているという姜の言葉を信じてはいなかったのだろう。
姜は、龍村礼二の三回忌を企画し、鶴田忍や矢島健一まで巻き込んで、戸次を追いつめるクライマックスの舞台を用意したのだが、これまでのボンクラぶりを考えると、誰かが知恵をつけたとしか思えない。
姜暢雄を動かした黒幕は一体誰か。
人物配置的には榎木孝明なのだが、まあそれはないだろう。一世一代の大芝居を打った姜暢雄であったが、中田喜子が指摘するまでもなく、サイズが合わないから戸次が御田園陽一ではない、というのは少々弱かったと思う。
さて、ドラマの終わりまであと2週間となったわけだが、戸次重幸が逃げてしまったので、クライマックス以降の展開が読みにくくなった。ヒゲを剃って部屋を出た白塗りの榎木孝明が何を言い出すのか、中田喜子が戸次に手を差し伸べた結果、何が起こるのか。そういえば、戸次が妻の死を悼む描写がこれまでに何度も出てきているのだが、その意味もわからない。
サラマンダープロジェクトはどうなるのだろうか。
最終週|最大の謎は榎木孝明のドーラン
視聴はしたのだが、諸事情によりタイミングを逸してしまった。夏ドラマも始まっているので面倒くさくなったが、せっかくここまで追いかけてきたので一応のフォローはしておく。
そもそも最終回のレビューを書く気が起こらないのは、テレビドラマの構造上、最終回については特に書くことがないからである。何度も書くように最終回は次週に期待をつなぐ必要がない。続編や劇場版などの予定があれば別だが、そうでもなければ、結局は、最終回まで見てくれた視聴者に満足感を与えるサービスでしかない(本当はもちろん、DVD版のアピールという重要な役割がある。DVDはちょうどクライマックスのタイミングでリリースされてレンタルも開始するので、TSUTAYAの店頭では制作費回収のためにもうひとつの熾烈な戦いが展開される。)
そういうわけで、最終回の楽しみ方は、それまでの楽しみ方とは別なものになるべきだと思っている。
さて、本作がDVD化されるかどうかは知らない。普通、昼ドラを放映終了後に再見する機会はない。そういう意味で、60週ものあいだ眺め続けた京野ことみや入山法子、戸次重幸、中田喜子の姿が見られなくなるのは残念である。姜暢雄については、この男が出てくると話が進まなくなるので、その優柔不断な役設定にイライラさせられたが、再放送の始まった2007年版「花ざかりの君たちへ~イケメンパラダイス」で興味深い演技を披露していることを知ったので(オスカー・M・姫島役)、ちょっと見直すところがあった。 「霧に棲む悪魔」の主演は、姜にとってはキャリア的に冒険であったはずだが、あまりこの俳優の持ち味をうまく引き出すことができなかったのではないだろうか。
つい脱線気味になるが、ドラマの内容にも少しだけふれておこう、
最後の2週間が、1回分がそれまでの1週分に匹敵するぐらい展開のテンポが早くなり、毎日が驚きの連続であって、見逃したくないと思わせるものであった。クライマックスから最終回まで2週間として300分(正味は250分ぐらいか)もあるので、ドラマ好きにとっては堪能できる時間が長い、贅沢な期間であったと言える。
結末についてあれこれ言い始めると、きりがなくなってしまうのだが、最大の謎は、榎木孝明のドーランであるとだけ指摘しておく。
終盤、榎木は引きこもりから解放され、最終回にいたっては丘に建つ安原霧子の墓にすがって泣くのだが、その顔にはドーランは見られなかった。
このドーランが何を意味するのかはよくわからないが、おそらく、引きこもり状態と何か関係があるのだろう。
まるであの階上の薄暗いゴシックな書斎は、榎木孝明が、龍村玄洋を演じるための舞台だったとでもいいたげなのである。
霧に棲む悪魔のスタッフ
原案:「白衣の女」ウィルキー・コリンズ
脚本:金谷祐子
音楽:羽岡佳
広報:渡辺秀彦(東海テレビ)、山本章子(東海テレビ)
演出:松田礼人(ドリマックス)、木内健人(5年D組)、奥村正彦
制作:東海テレビ、国際放映
霧に棲む悪魔の原作
暑熱去らぬ夏の夜道、「ロンドンに行きたい」と声をかけてきた白ずくめの女。絵画教師ハートライトは奇妙な予感に震えたー。発表と同時に一大ブームを巻き起こし社会現象にまでなったこの作品により、豊饒な英国ミステリの伝統が第一歩を踏み出した。ウィルキー・コリンズ(1824-89)の名を不朽のものにした傑作。




