谷崎潤一郎の小説『卍』(1928年発表)を原作とした、1964年公開の増村保造監督、若尾文子・岸田今日子主演の映画。
ほかに横山博人監督、樋口可南子・高瀬春奈主演(1983年2月12日公開)、服部光則監督、坂上香織・真弓倫子主演(1998年3月6日公開)、井口昇監督、秋桜子・不二子の主演(2006年3月25日公開)、井土紀州監督、新藤まなみ・小原徳子主演(2023年9月9日公開)の映画がある。
卍の原作
両性愛の女性と関係を結ぶ男女の愛欲の物語。2組の男女の関係が交錯する「卍」模様の倒錯的な愛が大阪弁によって描かれている。雑誌『改造』の1928年(昭和3年)3月号から翌1929年(昭和4年)4月号、6月号から10月号、12月号、1930年(昭和5年)1月号と4月号に断続的に連載された[1]。単行本は1931年(昭和6年)4月に改造社より刊行された。
卍の原作のあらすじ
日本画の趣味を持つ園子は、夫・孝太郎にすすめられて女子技芸学校で、他教室の徳光光子にひそかな好意を寄せるようになる。園子は無意識のうちで楊柳観音の絵を徳光光子に似せ、それがきっかけで彼女と面識を持つ。そうして楊柳観音の絵を皮切りに、学校では「2人が同性愛の関係にあるのではないか」という噂が広まった。
当初は根も葉も無い噂に過ぎなかったが、会うたびに2人の親密度は増していき同性愛関係を結び、遂に園子の夫に知られて夫婦喧嘩に至る。そうした中、光子の妊娠が判明する。光子と婚約していた綿貫栄次郎が園子の前に現れ、光子との関係を強化するために誓約書を作る。かくして、その誓約書が新聞社に知られてしまい、園子と光子との関係は白日の下に晒されてしまうのだった。
卍の原作の解説
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映画卍(1964年)の感想
嗚咽したり唇を噛んだり啖呵をきったりズンズンと間合いを詰めて責めまくったり、岸田今日子のテンションには船越英二ならずともタジタジとしてしまうのだが、やはり見どころは増村保造のミューズである若尾文子の美しさで、饒舌な岸田(台本の半分は岸田の台詞で埋められているのではないかと思わせる)とは対照的に、謎めいたまま死んでしまう。
ヌードの多くは吹き替えと言われるが、岸田に懇願されて着物を脱がされるシーンは息を飲むばかりだし、何度か現れるグリーンのノースリーブ姿が特に素敵。91分に収めた映画としての構成は完璧と思われ、川津祐介の不気味な男など、映画ならではの存在感と言える。
映画卍(1964年)のキャスト
徳光光子 – 若尾文子
柿内園子 – 岸田今日子
柿内孝太郎 – 船越英二
綿貫栄次郎 – 川津祐介
校長 – 山茶花究
梅子 – 村田扶実子
清子 – 南雲鏡子
春子 – 響令子
先生 – 三津田健
映画卍(1964年)のスタッフ
監督:増村保造
脚本:新藤兼人
音楽:山内正
配給:大映
上映時間:90分
映画卍(1964年)を観る
映画卍(1964年)を観た人の感想
- 増村保造の映画『卍』におけるレズビアン表象 : 谷崎潤一郎の原作小説との比較から(徐玉 – 大阪大学学術情報庫)
- 囚われた身体と「黒」の拡張(中島晋作)
- 『卍(まんじ)』(増村保造監督)(新・法水堂)