『雪国(1965年)』ってどんな映画?
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」――川端康成のノーベル文学賞受賞作を、降り積もる白雪と燃え上がるような情念のコントラストで映画化。人間の孤独と、徒労と知りながらも愛さずにはいられない女の宿命が、息をのむ映像で紡がれる。松竹が誇る名匠・大庭秀雄が、雪深い温泉町を舞台に純粋で哀しい愛の人間模様を描いた傑作。
駒子のひたむきな情熱の裏側で、温泉町の閉ざされた人間関係と、どこか陰を帯びた美しい瞳を持つもう一人の娘・葉子(加賀まりこ)の存在が物語に儚い影を落とす。島村は雪国へ向かう汽車の中で葉子と出会っていた。彼女は病に冒された青年・行男(早川保)を献身的に看病している。この葉子の清冽な存在感と、行男をめぐる駒子との奇妙な因縁が、島村の心を捉えて離さなくなる。
駒子が身を寄せる置屋のお内儀(清川虹子)や宿のお内儀(萬代峰子)、金太郎(桜京美)や菊勇(千之赫子)といった芸者仲間たちの華やかさの裏で、雪国の日常が、静かに流れていく。
岩下志麻が体現した一途で艶やかな芸者の美しさ、加賀まりこの透明な神秘性が銀幕に息づく不朽の文芸ドラマ。
あらすじ
東京で何不自由ない生活を送りながらも、虚無感を抱えて生きる文筆家の島村(木村功)は雪深い山国の温泉町を訪れ、まだうら若い芸者の駒子(岩下志麻)と出会う。都会の洗練された女性とは異なる、清潔で、それでいて激しい情熱を秘めた駒子に、島村は惹かれていくが、東京には妻(岩崎加根子)がおり、彼にとってこの旅はひと時の気まぐれに過ぎなかった。駒子はそれを知りながらも、自らのすべてを焦がすように島村への愛にのめり込んでいく。
キャスト
島村 - 木村功
駒子 - 岩下志麻
金太郎 - 桜京美
葉子 - 加賀まりこ
行男 - 早川保
踊りの師匠 - 沢村貞子
宿の番頭 - 柳沢真一
女中 - 桜むつ子
按摩 - 浪花千栄子
島村の妻 - 岩崎加根子
宿のお内儀 - 萬代峰子
置屋のお内儀 - 清川虹子
芸者菊勇 - 千之赫子
駒子の旦那 - 菅原通済
島村の友人小泉 - 内藤武敏
駅長 - 明石潮
客ターさん - 穂積隆信
感想
原作を換骨奪胎した藤本有紀のNHKドラマ「雪国 -SNOW COUNTRY-」(2022)でさえ、夜のトンネルのシーンから始めていたのに、本作は、島村が最初に湯沢(劇中では「湯村」となっている)を訪れた昼のシーンから始まっている。
原作の時系列通りということで、だから夜汽車の中で自分の指を眺めながら駒子のことを思い出すというロコツなシーンもないのだが、その代わり、宿に着いて早々に、女を世話してくれるところはないかと駒子に聞いて、にべもなく断られている。徹頭徹尾、自分勝手な男である。
それを「虚無的」と片付けていいものか私には正直わからないのだが、何を考えているのかよくわからないこの主人公・島村(木村功)が、一方的に人や景色を眺めるだけの存在なのは確かだ。
成島東一郎のキャメラもまた島村の視界を模倣するかのように、窓越し、障子越しといった微妙な距離をつくって、駒子(24歳の岩下志麻)の姿を捉える。駒子は様々な言葉で島村に訴えるのだが、島村はあくまでも曖昧な答えしか与えないのである。
1957年の岸惠子版(1957)はモノクロだったが、本作はカラー作品で、雪は「白い風景」として捉えられ、そこに岩下志麻の姿を強いコントラストで映し、じっと動かない。まさに「雪の中に現れては消える幻」のようであり、それが立ち居振る舞いを強調する。駒子が部屋に入ってきたり、雪道を歩いたり、立ち去ったり、振り返ったりする動作が、一つずつ感情となって見えてくるのである。
そして、このリズムが壊れるのがクライマックスの火事のシーンである。白い雪景色の世界に炎の赤や橙が突然侵入し、それまで島村と駒子の閉じた世界を見つめていた画面が、走って集まる群衆、炎を見上げる視線、雪の中の混乱に一気に開かれて、「二人だけの視線」が崩壊する。静止から運動へのみごとな反転である。ここにいたって、ついに島村はついに傍観者ではいられなくなる。
原作は「天の川が音もなく島村の中へ流れ落ちる」という描写で結ばれているが、本作では、その内面的な描写を映画ならではの表現でなしとげたと言える。
『雪国(1965年)』を観るには?
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『雪国(1965年)』作品情報
監督 – 大庭秀雄
脚色 – 斎藤良輔、大庭秀雄
企画 – 桑田良太郎
製作 – 山内静夫
撮影 – 成島東一郎
美術 – 芳野尹孝
音楽 – 山本直純
録音 – 松本隆司
照明 – 田村晃雄
編集 – 杉原よ志
スチル – 久保哲男
『雪国(1965年)』の原作
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。「無為の孤独」を非情に守る青年・島村と、雪国の芸者・駒子の純情。魂が触れあう様を具に描き、人生の哀しさ美しさをうたったノーベル文学賞作家の名作。


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