『あ・うん』(2000年正月スペシャル)ってどんなドラマ?
阿と吽、二人は言葉にできない絆で結ばれていた——。
昭和初期を舞台に描く、親友同士の情愛と、密かな恋の揺らぎ。
向田邦子の不朽の最高傑作を久世光彦演出×筒井ともみ脚本の名コンビで映像化したスペシャルドラマ(2000年版)。
親友の妻に秘めた想いを抱く男と、それを受け入れつつ互いに言葉に出さず友情を保つ二人。「あ・うん」の呼吸で結ばれた男たちの友情と、その背後に流れる切なくも美しい愛の模様を、昭和初期のノスタルジックな情感たっぷりに描き出した珠玉の文芸ドラマ。
あらすじ
昭和10年代の東京。軍需で景気のいい製薬会社を営む門倉修造(小林薫 )と、中小企業で地道に働くサラリーマンの水田仙吉(串田和美)。性格も境遇も全く異なる二人だったが、互いを「阿(あ)」と「吽(うん)」のように固い絆で結ばれた親友として信頼し合っていた。
しかし門倉は、仙吉の妻・たみ(田中裕子)に長年密かな恋心を抱き続けていた。たみもまた門倉の想いに気づきながらも、妻として慎ましく仙吉を支え続けている。言葉には出さない密かな理解と愛情の三角形。
水田家の娘・さと子(池脇千鶴)と恋人・辻本(窪塚洋介 )の甘酸っぱい青春や、怪しげな男たち(竹中直人 ら)が交錯する中、戦争の足音が忍び寄る時代の中で彼らの絆と揺れる想いが繊細に紡がれていく——。
キャスト
水田たみ – 田中裕子
門倉修造 – 小林薫
門倉君子 – 樋口可南子
水田初太郎 – 森繁久彌
水田さと子 – 池脇千鶴
辻本研一郎 – 窪塚洋介
金歯 – 竹中直人
イタチ – 柳谷寛
医者 – 四谷シモン
三田村禮子 – 高田聖子
筒井真理子
伊東貴明
ほか
ナレーション – 加藤治子
見どころ
本作の見どころは、なんといっても心理描写の巧みさだ。まさに“あ・うん”の呼吸で描かれる男女の微妙な距離感。
門倉修造と水田仙吉は、表面的には親友同士の夫と妻だが、内面では互いに淡い想いを寄せている(こう書くと身も蓋もないが)。しかし直接的な愛情表現は一切なく、視線・間・言葉の裏の含みで、微妙な心理の交錯が描かれる。
向田脚本は、語らないことで豊かさを生み出している。言葉の「間」が、登場人物の葛藤・遠慮・心の動揺を雄弁に語ること。特に食卓や縁側で交わされる何気ない会話の中に、 “愛情・嫉妬・諦観”が滲む。
仙吉が修造の妻・文子(杉浦直樹)に何気なく気遣うシーンでは、修造がそれを察しつつも笑顔で受け流す「男同士のあ・うん」の空気。言葉にしない、呼吸のような関係性が物語の基盤にある。心理的緊張と緩和が、日常の会話劇に自然に織り込まれているのである。
仙吉の微妙な笑みや、一瞬の沈黙、修造の妻・文子の「夫を愛しながらも、仙吉への揺らぎ」を見せる眼差し。役者の演技が言葉以上に心理の奥行きを伝えている。
舞台は昭和初期の家庭という抑圧的な環境。人は感情を押し殺し、礼儀や秩序に従っていた。この「抑圧の美学」が、心理描写に一層の厚みを与えている。欲望と理性のせめぎ合いが静かに、しかし確実に物語全体に緊張を走らせているのである。
表面的な会話の下で行われる“心の取引”を、緻密かつ優美に描いたドラマと言える。
感想(2000年正月スペシャル)
2000年のTBS版で、仙吉は串田和美、門倉は小林薫、たみは田中裕子、18歳の池脇千鶴が語り手として娘のさと子を演じる。演出は久世光彦。
フランキー堺/杉浦直樹/吉村実子のNHK版は未見だが、板東英二/高倉健/富司純子の映画は見ている。不安定な3人の男女の話で、白いスーツの小林薫を見ていると、「ツィゴイネルワイゼン」を思い出してしまう。
あ・うん(映画)を観るには?
あ・うん(2000年正月スペシャル)のスタッフ
演出:久世光彦
題字・タイトル画:中川一政
特殊メイク:江川悦子
技術協力:東通
美術協力:アックス
スタジオ:緑山スタジオ・シティ
演出補:佐々部清、清水俊悟
プロデューサー:三浦寛二、太田登
製作:TBS、カノックス
あ・うん小説版(向田邦子)
向田自身により同名で小説化。向田の唯一の長編小説で、1981年に文藝春秋から刊行された。
つましい月給暮らしの水田仙吉と、軍需景気で羽振りのいい中小企業の社長、門倉修造との友情は、まるで神社に並んだ一対の狛犬のように親密なものだった。門倉は、水田の妻たみに、長年ひそかな慕情を抱いてもいる。太平洋戦争をひかえた慌しい世相を背景に、男の熱い友情と秘めた思慕が織りなす、市井の家族の情景を鮮やかに描いた、向田邦子・唯一にして絶品の長篇小説。





