松本清張の短編小説(別冊小説新潮1956年10月号掲載、同年10月に短編集『顔』収録)を原作に、「松本清張没後20年特別企画・市長死す」というタイトルで、2012年4月3日(21:00-23:24)にフジテレビ系列にてドラマ化。平均視聴率は14.0%。舞台は放送時と同じく2010年代とされ、主人公の笠木が田山の甥で花屋経営だったり、田山が死ぬ前に行ったのは観劇ではなく視察を兼ねたクラシックコンサートだったりと、設定にいくつかの変更がある。
市長死すの原作
市長死すの原作のあらすじ
九州のある市の市長・田山与太郎は、市議会議員と秘書を連れて陳情で上京したが、地元に帰る前夜に議員たちを新国劇へと招待し、二幕目が開いたところで市長はホテルへ戻り、急な用件で志摩川温泉へ行くと言い出して議員と秘書を地元に帰してしまう。三、四日過ぎても市長は帰ってこなかった。地元紙が騒ぎかけた時、田山市長の転落死体が志摩川温泉で発見された。
醬油屋を営む若き市議会議員・笠木は、市長の奇妙な行動の裏に疑問を抱き、調査を始める。
市長死すの感想
舞台となる「静岡県の志摩川温泉」というのは原作(1956年の短編)からして架空の温泉町。ロケ地は愛知の湯谷温泉らしい。鉄道は大井町鉄道。
失踪していた市長(イッセー尾形)が温泉町で転落死し、その謎を甥の市議(反町隆史)が追う、という話。
現代の話に置き換えられているため、市長が元商社マンで、駐在先の東南アジアで政変が起き、現地の日本食堂の女(木村多江)が現地交渉用の裏金5億円が消えた、というエキゾチックな話になっているが、原作では市長は南朝鮮司令官で、女は現地の愛人、持ち去られた金は軍の金である。
市長がテレビの観光番組で女の姿を発見し、市議会を放り出して温泉町に向かったというところは原作通り。ドラマでは旅館の主人が石黒賢なのですぐに先が読めてしまう。
問題は木村多江の悪女ぶりである。ほとんど「演技のできる壇蜜」とも言える木村は、「伯父を愛していたのですか」という反町の質問に「…気持ち悪い」とアスカのように呟き、ラストシーンで、それまで足を引き摺っていたのに急にスタスタと歩き出している。原作ではこの女の心情描写はないので、これはいかにもテレビ的な結末の付け方で、木村の存在がドラマの性格を変えてしまっている。
イッセー尾形と反町隆史は熱演しており、この二人の関係がドラマ上のテーマのはずだったと思う(一番の蛇足は飛び入りの倍賞美津子)。原作では血縁関係などなく、なぜ市長の事件にのめり込んでいくのかわからないので、事件解決後に反町が「ただいま」と妻に告げるシーンで終わるべきだったのだ。
なお、本作は珍しく映像化が乏しく、映画化はなし、先行ドラマも1959年の1本のみである。
市長死すのキャスト
笠木公蔵: 反町隆史
藤島芳子: 木村多江
浜本繁雄: 石黒賢
笠木みゆき: 白石美帆
矢崎すすむ: 春海四方
松本三郎: 近江谷太朗
笠木浩美: 兎本有紀
加藤警部補: 佐藤誓
田山明子: おぐりちえこ
佐和:
警部補の部下: 高嶋寛
紀藤総一郎: きたろう
島津: 酒井敏也
望月: 京本政樹 ※友情出演
黒崎: 升毅
竹井洋介: 佐久間哲
署長: 山崎大輔
釣り人: 斉藤直樹
フロント: サンヨウコ
レポーター: 市川円香
藤関商事の経理部長: 福井謙二
手塚スミ子: 倍賞美津子
田山与太郎: イッセー尾形
市長死すのスタッフ
脚本:樫田正剛
演出:西浦正記(フジクリエイティブコーポレーション)
編成企画:水野綾子(フジテレビ)
プロデューサー:竹田浩子(フジクリエイティブコーポレーション)
技術協力:ビデオスタッフ、ブル
照明協力:ザ・ホライズン
企画協力:ナック・菊地実
撮影協力:湯谷温泉(愛知県)、富士市、成田市議会、鴻巣市、川根本町まちづくり観光協会[1]、大井川鐵道 ほか
制作:フジテレビ
制作著作:フジクリエイティブコーポレーション