『シネマニア』ってどんな映画?
ニューヨークを舞台に、1年365日、1日に何本もの映画を観ることに人生のすべてを捧げた「究極のシネフィル」たちを追ったドキュメンタリー映画。フィルム上映を求めて地下鉄を駆け抜ける彼らの姿は、もはや「信仰」のような神々しさすら感じさせる。
登場するのは、ただの映画ファンではなく、上映時間、劇場までの移動、座席の位置まですべてを完璧にコントロールし、映画を観るために仕事や人間関係、さらには健康までをも犠牲にする人々。彼らにとってはスクリーンの中こそが真実であり、現実は映画を観るための障害でしかない。
上映時間をすべて暗記しているジャック、特定の座席に異様な執着を見せるビル、フランス映画をこよなく愛するロバータなど、ジャック・アングストライヒをはじめとする実在のシネマニアたちは、下手な劇映画より劇的。彼らの「映画哲学」には、滑稽さと同時に深い孤独と純粋さが同居している。
彼らがこれまでに観た映画の膨大な記録(何月何日、どこで、何を観たか)のスクラップは圧巻。自分がこの世に生きた証を、映画を観たという記憶に刻み込もうとする彼らの姿は、情報過多な現代における「アーカイブ」の本質を問いかける。
アンジェラ・クリストリーブとスティーヴン・キヤクの両監督は、彼らを奇人として笑うのではなく、その徹底的な生き様をリスペクトを持って切り取った。観終わった後、無性に映画館へ走りたくなる(あるいは、自分はまだ彼らほどは狂っていないと安心する)、映画ファンにとっての必修科目のような一作である。
あらすじ
仕事を持たず、生活費を削って映画代と映画館までの交通費を捻出し、常に複数の映画館をハシゴする映画中毒者たちの日常生活を追う。彼らは独自の「リスト」に基づき、フィルム上映にこだわり、時には映画の内容を暗記するほど繰り返し観る。
『シネマニア』を観るには?
キャスト
どこまで狂っているかを見きわめる愉しみ。
これは毎日最低4本、多い場合は8本映画を見る5人のニューヨーカーを描いたドキュメンタリーである。2002年のハンプトンズ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー映画賞をとったそうだ。ちなみに「死ねマニア」という意味ではない(笑)。
書痴を描いた小説などもそうだが、マニアと聞くと、どこまで狂っているかということを見きわめるのがこういったものの愉しみであろう。そういう意味では、意外と、オドロくほどの実態は出てこない。最後に、登場人物たちに試写室でこの映画を見せるシーンがあるが、きわめてフツーに受けていて、好感がもてる人たちのような気がする。もっとも、彼らは映画を見るために定職に就いたりしないし、5人のうち2人は社会保障の金で暮らしているし、一人は部屋を追い出されかかっている。その程度にはじゅうぶん変人である。
ビルはフランス映画が専門なのだが、ヌーヴェルバーグ以降の、というところがどうも中途半端な気がする。フランス女性との恋愛を夢見る彼は、出会い系サイトに長々と自己アピール文を掲載し、好きな映画と電話番号を知らせてほしいと女性たちに訴え、あんたが女だったら今すぐ結婚するのにとジャックに言う。
映画専門書店に段ボール10箱も本を取り置いているジャックは、映画ファンがみんなゲイだったらパラダイスなのになと応じている。
B級映画好きのハーヴェイは、ピーク時で、8か月に1000本を見ている。彼は見た映画の上映時間をすべて暗記していて、パンフに誤記載があったり、実際の上映時間が短いと劇場に文句をいう。部屋にサントラLPを山ほどストックしているのだが、ステレオは持っていないというのがすごい。
座席で腰をいためた場合の鎮痛剤まで携帯鞄に忍ばせているビルをフンと笑う紅一点のロバータは、あたしは映画館で暑いの寒いの文句を言ったことがないと言い、でも一度だけ、グリニッジ劇場で冷房が止まっていたときには、こっそりとブラウスを脱いでブラジャー姿でスクリーンを見ていたけど誰も気づかなかったと告白する。
彼らの悩みは映画館を巡るスケジュール作りだ。1本の映画を見るために150もの情報が必要だとロバータは言う。NYではロードショウは9ドルで、彼らはほとんどは無料もしくは5ドルの映画を見る。無料で映画が見られる場所の一つはMoMAだが、ロバータは悶着を起こして出入り禁止になっている。NYの全上映スケジュールをチェックし、見たい映画をリストアップし、フィルムの状態を劇場に訊ね、映写条件も加味した上で絞り込む。移動ルートもつねに研究している。上映時間ごとにつねにいくつかのシナリオを比較検討する。エリックは、シネコンは映画館に行く楽しみが台無しだという。
夜、目をつぶると映像の洪水が押し寄せてくるそうだ。



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