『ザ・ハント』ってどんな映画?
リベラルな思想を盾に、富裕層が「社会の底辺」と見なした人々を狩る容赦なき人間狩りが始まる。ネット上の陰謀論とSNSの偏見が惨劇へ発展していく恐怖──アメリカの深刻な政治的分断をニック・キューズとダモン・リンデロフ(脚本)が痛烈な風刺に昇華させ、プロデューサーのジェイソン・ブラム率いるブラムハウス・プロダクションズが放った、物議を醸した問題作にして超一級のバイオレンス・サスペンスアクション。
見どころは、誰が敵で誰が味方か、そもそもなぜ自分が狙われているのか、五里霧中の中で展開する二転三転の裏切りと緊迫のサスペンス。クリスタル(ベティ・ギルピン)が生き残りをかけて進む中、怪しげなガソリンスタンドを営む老夫婦、陰謀論に傾倒する男、ターゲットを監視する謎の男らの思惑が交錯。ハンター側のメンバーが冷酷かつ滑稽にクリスタルたちを追い詰めていく。SNSのデマが引き起こした「最悪の誤解」を巡る緊迫の対話、終盤では黒幕との一対一の凄惨極まる肉弾戦が、観る者の倫理観を激しく揺さぶる。
理不尽なレッテルを貼られたディストピアの戦場で、生き残るために敵を排除する選択。ネットの狂気と現実の暴力が融合した現代社会の闇をブラックユーモアを交えて鮮烈にあぶり出したノンストップ・サスペンスだ。
あらすじ
見知らぬ広大な平原の真ん中で、口に猿ぐつわを嵌められた状態で目を覚ましたエマ(エマ・ロバーツ)やリチャード(アイク・バリンホルツ)ら12人の男女。彼らはネットの陰謀論で噂されていた、エリート層が一般市民を狩るエンターテインメント「マナーゲート」の標的として集められた見ず知らずの一般人だった。容赦なく降り注ぐ銃弾と、仕掛けられた無数のトラップに焦燥を覚え、次々と仲間が命を落としていく極限状態のなか、元軍人の女性クリスタル(ベティ・ギルピン)だけは冷静だった。彼女は圧倒的な戦闘スキルと鋭い洞察力を武器に、状況を瞬時に把握。自らを「獲物」と見なした狩る側の人間たちを逆に追い詰めるべく、血みどろの反撃を開始する。
キャスト
子供時代のクリスタル – チャーリー・スローター
アシーナ・ストーン – ヒラリー・スワンク
スタテン・アイランド – アイク・バリンホルツ
ドン – ウェイン・デュヴァル
ゲイリー – イーサン・サプリー
ヨガ・パンツ – エマ・ロバーツ
ターゲット – クリス・ベリー
ヴァニラ・ナイス – スタージル・シンプソン
ビッグ・レッド – ケイト・ノウリン
マー – エイミー・マディガン
ポップ – リード・バーニー
リチャード – グレン・ハワートン
トラッカー – ジャスティン・ハートリー
デッド・セクシー – シルヴィア・グレース・クリム
バンダナ・マン – ウォーカー・バビントン
ランディ – ジェイソン・カークパトリック
リバティ – テリー・ワイブル
フォークソンヴォイ – メイコン・ブレア
クライシス・マイク – ウスマン・アリー
ポール – J・C・マッケンジー
ドクター – スティーヴ・コールター
マーティン – ディーン・ウェスト
デール – スティーヴ・モケイト
ケリー – ハンナ・アリン
ニコール – タダセイ・ヤング
オハラ – ジム・クロック
感想
ほとんど期待しないで観始めたら、これは傑作であった。
監督はB級映画の常道を逆手にとっていて、冒頭まもなく始まるサバイバルゲームは実際その要素満載で、主人公かと思われるキャラクターは次々に死んでいく。クリスタル・クリーシー(ベティ・ギルピン)が現れるのは、参加者11人(本当は12人なのだが、飛行機の中で一人死んでいる)のうち半数以上が撃たれ、串刺しにされ、手榴弾で粉砕され、ボウガンで撃ち抜かれ、毒殺され、撲殺されてからだ。
のっけから判断スピード、決断力が只者ではなく、あっという間に主催側メンバーを返り討ちにしてしまうのだが、それもそのはずで、アフガン従軍経験のあるプロであることが中盤で明かされる。主催側は州兵あがりの軍人による訓練を受けているものの、しょせん素人の集団なのだ。
本作で描かれる富裕層(リベラルエリート)の人間狩りゲーム「マナーゲート」(マナーとは特権階級の領地/大農園を指す)は、極右系の陰謀論「ピザゲート」(民主党の交換がD.C.のピザ店を拠点に人身売買や児童虐待を行っているというもの)のパロディらしい。この陰謀によってエリートたちが職を追われたために、復讐として本当に人間狩りを実施したという設定である。トランプ(第1期)はこれをリベラルが保守派を虐殺する映画と理解し、「ハリウッドは真のレイシスト」とXで批判したため、公開は一時延期されたのだが、観ればわかるように本作は左右どちらも皮肉る内容であり、分断そのものが批判されている。
12人の「狩られる人間」はレッドネックの人々なのだが、クリスタルは、労働者(レンタルカー会社でカスタマーサービスに従事する)ではあっても、主催側が陰謀論の主犯と判断した「Justice4Yall」(皆に正義を)ではなかった。よりによって同姓同名の最強の人間を選んでしまった主催側の最大の過ちである。主催側のボス・ヒラリー・スワンクは、クリスタルを「動物農場」に出てくる生け贄の名から「スノーボール」と名づける。ヒラリーは終盤でクリスタルに「動物農場」を読んだことはあるかと訊ねるが、この台詞はエリートの傲慢さを示すものだった(もちろんクリスタルはオーウェルを読んでいるのである)。
ちなみに、それ以外の「獲物のコードネーム」は次のようなもので、いずれも「教養のない田舎者」(ディプロラブル)の記号である。
ヨガ・パンツ(中産階級のステレオタイプなスタイル)
ターゲット(矢の標的になる)
デッド・セクシー(落とし穴で串刺しに)
ヴァニラ・ナイス(ラッパーのヴァニラ・アイスのもじり)
スタテン・アイランド(NYで保守派が多い地域)
ビッグ・レッド(レッド=共和党)
トラッカー(運転手)
バンダナ・マン(バンダナを巻いている)
クリスタルはドン(ウェイン・デュヴァル)という田舎のおじさん風の見た目の男と、主催側の要塞を急襲、全滅させるのだが、そこにヒラリーからドンがスパイであるかのような無線が入ったために、ほとんど迷いなくドンを射殺してしまう。これはヒラリーの機転の勝利だったが、逆に、クリスタルがjustice4yallであるというヒラリーの絶対の自信を揺るがすことになる。
クライマックスは、ベティ・ギルピンとヒラリーの、「キル・ビル」を思わせるかなり長いキャットファイト。これは見応えがあった。
途中、クリスタルは、「ウサギと亀」の民話に「勝利を祝う亀の家族をウサギが虐殺し、ご馳走を平らげる」というオチをつけた話を「母親から聞いた」といってドンに語る(ドンは「俺たちはウサギなのか、亀なのか」と不安そうだ)。ラストは、その通りの結末になる。クリスタルが狩る側を全滅させ、アシーナのクローゼットから奪った高級ドレスをまとい、グリルドチーズ・サンドイッチ(グリュイエールチーズ使用)を平らげ、最高級シャンパン「シャルル・エドシック」(25万ドル相当)をラッパ飲みにするという、エリートたちの勝利祝い用の宝物を無作法に消費するという痛快な皮肉である。
『ザ・ハント』を観るには?
『ザ・ハント』作品情報
脚本 – ニック・キューズ、デイモン・リンデロフ
製作 – ジェイソン・ブラム、デイモン・リンデロフ
製作総指揮 – クレイグ・ゾベル、ニック・キューズ、スティーヴン・R・モレン
音楽 – ネイサン・バー
撮影 – ダーレン・ティアナン
編集 – ジェーン・リッツォ
製作会社 – ユニバーサル・ピクチャーズ、ブラムハウス・プロダクションズ、ホワイトラビット・プロダクションズ、電通
配給 – アメリカ: ユニバーサル・ピクチャーズ、日本: 東宝東和
公開 – アメリカ: 2020年3月13日、日本: 2020年10月30日
上映時間 – 89分



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