ドラマ1990年代のドラマ1997年のドラマ

黒い樹海

3.5
水野真紀(黒い樹海 1997年版) ドラマ
水野真紀(黒い樹海 1997年版)
黒い樹海は、数ある松本清張の作品の中でも“旅情ミステリー”の傑作と評される。4回テレビドラマ化され、1960年には大映で映画化されている。

黒い樹海(1997年版)

水野真紀(黒い樹海 1997年版)

水野真紀(黒い樹海 1997年版)


「松本清張スペシャル・黒い樹海」のタイトルで1997年11月29日、テレビ朝日系列「土曜ワイド劇場」枠(21:00-22:51)にて放映。視聴率20.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。本作のバス事故の発生は石川県の設定。

感想

これまた何度も映像化されている清張原作(1960年に映画化、ドラマ化は62年、86年、97年、05年、16年)。本作はそのうちの97年版で、ヒロインは水野真紀、犯人は火野正平濱田岳にそっくり)と神田正輝の二人組である。
昨日投稿した「火と汐」でも神田正輝が歪んだ夫を演じていたが、90年代にほとんどテレビを見なかった私としては、神田の活躍ぶりとはこういうものだったのかと思った(しかしこれでは神田が出てくるだけで犯人だとわかってしまうのではないか?)。それにしても、犯人が二人組というのは清張作品では異色な気がする(連続殺人事件というのも)。

妹に告げた行先とまるで異なる場所で事故死する余貴美子(女性誌の編集長)の秘密がモチーフになっており、それは「火と汐」も同じだった。

市井でつつましく暮らす女性の秘密を三面記事的な事件として描く清張の作品群の後、テレビドラマは、69年に始まる「火曜日の女」シリーズ(後期は「土曜日の女」になり、74年まで5年間続いた)などにおいて、アイリッシュボワロー=ナルスジャックを下敷きに、ミステリアスなヒロインを描くジャンルを確立させる。
しかし、時代に即して路線を変えていく大映ドラマなどを尻目に、女=秘密の系譜は火サスなど2時間ドラマに引き継がれたものの、今は絶滅状態と言える。
女優の魅力もその分失われてしまった感がある。

見どころ

  1. 姉妹を襲う“樹海”の暗喩
    「黒い樹海」は極限状況や迷いを象徴する舞台装置。事故と殺人が重なる謎深いドラマに深みを与える。
  2. 水野真紀 × 余貴美子の強力タッグ
    しっかり者の妹・祥子を演じる水野真紀の冷静な探求心、ミステリアスに死を遂げる姉・信子を演じる余貴美子の静かな存在感。この二人の心理的深さと女優としての厚みが物語を引き立てる。
  3. 緻密な推理とサスペンス構成
    バス事故に絡む謎と、周囲の死が次第に連鎖していく展開。祥子が追ううちに真相が少しずつ明らかになっていく構成が見応え十分。
  4. 土曜ワイド劇場らしい完成度
    約2時間枠に収められた特別ドラマながら、演出・脚本ともに丁寧で、1990年代後半の郷愁漂う映像と雰囲気がある。

キャスト

笠原祥子(文啓出版の総務部に勤務) – 水野真紀
吉井栄二(「週刊文啓」編集部員) – 鶴見辰吾
笠原信子(祥子の姉で雑誌「ルミエール」編集長) – 余貴美子
町田知枝(「ルミエール」副編集長) – あめくみちこ
竹尾刑事 – 石丸謙二郎
斉藤常子(レストランの店員) – 春木みさよ
愛子(祥子の同僚) – 阿部朋子
遠山ミドリ(ピアニストで妹尾の婚約者) – 葉山レイコ
部下 – 渡辺成紀
理恵(常子の友人) – 西田もも子
浅井刑事(警視庁の刑事) – 井上博一
祥子の上司 – 水島涼太
医師 – 石橋雅史
同僚 – 塙恵介
鶴巻完造(画家) – 水橋和夫
佐敷泊雲(生け花の家元) – 横尾三郎
高木利彦(建築家) – 加島潤
妹尾郁夫(翻訳家) – 火野正平
西脇満太郎(大学教授で精神科医) – 神田正輝
小森英明松田朗川名莉子松富まみ村野友美

スタッフ

脚本 – 橋本綾
監督 – 野村孝
音楽 – 岩間南平
プロデューサー – 小坂一雄(レオナ)、高橋浩太郎(テレビ朝日)、塙淳一(テレビ朝日)、林悦子(霧企画)
助監督 – 寺山彰男
選曲 – 山川繁
撮影協力 – 粟津温泉辻のや花乃庄、日本エアシステム、拓殖大学、宇部興産、三富村、京王帝都電鉄
技術協力 – 映広
音楽協力 – テレビ朝日ミュージック
制作 – テレビ朝日、レオナ、霧企画

黒い樹海(2016年版)

北川景子・小池栄子(黒い樹海 2016年版)

北川景子・小池栄子(黒い樹海 2016年版)


『松本清張ドラマスペシャル 黒い樹海』として、2016年3月13日(21:00-23:10)にテレビ朝日系列にて松本清張二夜連続ドラマスペシャルの第二夜として放送。視聴率は11.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区・世帯)。
物語は長野県を中心に展開され、設定は現代に置き換えられている。主演は松本清張作品初出演の北川景子。2016年1月から東京都内で撮影が行われた他、長野県大町市では現地で今年1番の大雪が降る中、ロケが敢行された。

感想

1997年の水野真紀版(というか神田正輝版)を観たのは2年ほど前だが、神田が犯人であること以外、まるで覚えていなかった。

本作は2016年の北川景子版で、小池栄子とまるで似ていない姉妹という設定になっている(菊川怜藤谷美紀水野真紀余貴美子中井貴惠とg金沢碧叶順子水木麗子など、過去作の姉妹も微妙なのだが)。
映像化として最新版であり、原作に忠実だから決定版と言えるかもしれない(ただし現代に置き換えられているので原作の味わいは損なわれている)。

本作の良いところは、神田正輝のようないかにもすぐ犯人とわかる人がいないことだろう。
ヒロインの味方の向井理ですら疑わしい、疑心暗鬼の演出で、新聞社文化部記者だった小池が生前原稿を依頼していた文化人たち(小児科医、経済評論家、ファッションデザイナー、洋画家)がいかにも怪しげな容疑者として描写され、視聴者を煙に巻く仕掛けである。
このへんの面白さは原作通りで、じつは複数の人物(途中で殺された人も含む)が事件に絡んでいた事情があったことがクライマックスで明かされるのだが、違和感ないようにできていた。

北川の演技はソツがないのだが、やはり小池(6歳年上)と姉妹という設定が自然でないことが惜しまれる。
原作の意図は、死んだ姉の秘密を妹が追うことに意味があるものと思われるからだ。

キャスト

笠原祥子(就職活動中の女性) – 北川景子
笠原信子(東都新聞の文化部記者) – 小池栄子
吉井亮一(信子の同僚) – 向井理
西脇満太郎(小児科医) – 沢村一樹
佐敷泊雲(華道家元) – 古田新太
妹尾郁夫 (経済評論家) – 鈴木浩介
倉野むら子(装飾デザイナー) – 山本未來
鶴巻完造(画家) – 六平直政
大島卯介(信子の上司) – 桜井聖
村田頼子(バス事故の生存者) – 宮地雅子
三ツ川沙織(財閥令嬢) – 堀田茜
「丸藤」の店主 – 浜田道彦
安原國政(刑事) – 尾美としのり
町田知枝(信子の元同僚) – 酒井若菜
斎藤常子(「丸藤」に勤務していた女性) – 江口のりこ
斎藤稔次郎(常子の父) – 田口主将
小川カズ(祥子のマンション管理人) – 室井滋
西脇亜佐美(西脇の妻) – 麻生祐未
大熊英司寺本愛美植木祥平えもりえりこ ほか
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