りょうのネットショップがどうなったのかも、よくわからなかった。
アルバイトの東野るみの発注ミスのためにデパートに納品できなかったことにより、どのようなダメージをこうむったのか(この「合わす顔もないので、辞めます」という東野るみのメールの文面は、 倉科カナの空とぼけ演技なみに破壊力があった)、今でもショップを続けていられるのかは不明である。
夫はいなくなったとはいえ、ネットショップの収入だけで、親子三人、世田谷暮らしを続けていけるのだろうか。
この点からも、KEIJIと離婚して本当によかったのかという評価が、最終回には欠けていると感じられた。
なにしろ、4家族の中で最も失ったものが大きいのはこの家族なので、それなりに納得感が必要だと思う。
さて、木村佳乃の予言通り、りょうの犯行には受験番号が使われたのだが、受験番号は、願書紛失事件の後に届いた受験票に記載されていたはずだから、すでにそのとき、杏はりょうの悪意に気づいていたはずである。
海斗君が健太君の受験番号をりょうに教えた回想シーンがご都合的に挿入されていたが、こうした流れも、ずいぶん雑で都合のいい組み立て方だと思った。
さらに、電話で受験番号を伝えるだけで入学を辞退できるというのも妙である。確認の電話がかかってはきていたようだが、現に尾野真千子のところには届いていた入学手続書類が杏のところには来なかったのだから、基本的には辞退は受理の方向へ向かっていたのだ。
さて、各家族の去就もまた足早に語られたが、いずれも納得感の薄いものだった。
まず、尾野真千子の麿顔の夫・高橋一生だが、バスの中で女子高生に痴漢をはたらいた理由がようやく語られた。供述を簡単に要約すると、セクハラ疑獄のショック状態にあるときに、教師をセクハラではめようと画策している女子高生に、自分を陥れた部下の姿を重ねあわせてやってしまった、ということなのだが、そんな理由で痴漢をする男はいないと断言できる。相当に不自然な供述であり、裁判で情状酌量は勝ち取れないだろう。言葉通りにとれば、「憎しみが歪むことで発露された性欲」とでもいうものになってしまう。夫婦であれば、そういうものも許されるのかもしれないが…
尾野真千子が離婚を選ばなかった理由がわからない。妻に一日730円しか与えなかったDVが、セクハラ疑獄のストレスで片づけられていいものではないだろうと思うし、今は優しい夫に変わったといっても、DV夫とは、DV以外の場面ではつねに優しいものなのだ。
次に倉科カナだが、キャバクラでバイトしていることが夫にバレ、平手打ちされたら、簡単に反省してしまった。あれだけの騒ぎを起こしたにもかかわらず、夫に怒られただけで目を覚ましてしまうとは、なんとも浅はかで可愛い奥さんである。栃木弁丸出しで畑仕事に励む姿はあまりにもデキすぎで、ほとんど、杏の想像の中の描写ではないかとも思ってしまうのだが、あの億ションに住みつつ、ともすれば栃木弁が出そうになるのをガマンしていたと想像すると、最も好感度を上げたのは倉科かもしれないと思うのである。
木村佳乃は教育ママゴン(かつてこんな死語があったのだ)の汚名を返上し、平山広行とのセックスレスを解消しつつあった。ハギーとのロマンスに罪悪感を感じ続けていた木村は、「お前がそんなことできるわけないだろう、クソ真面目でまっすぐすぎるくらいまっすぐで、からまわりするぐらい一生懸命な女房を疑うも何も…」と平山にベタ褒めされ、思わずよろめいたことを告白しそうになるが、平山広行は木村の言葉におっかぶせて、「仮にほんのちょっと心が動いたことがあったとしたら、それは俺のせいだ」と、経営者らしく人あしらいのうまいところを見せていた。「きっとお互いいつの間にかなくしてしまったものを家の外に求めてたんだろうな」という言葉は、演出次第では、逆に平山にも隠しごとがあるのではないかと思わせるものだ。
視聴者は中島ひろ子が愛人ではないことをすでに知っているが、木村佳乃はもう少しそれを疑ってもいいところである。

最後に、最終回に用意されたふたつのサゲにふれながら、このドラマを総括してレビューを終えることにしよう。
サゲのひとつは、夏木マリによる、次年度のママ友たちへの訓示である。
代替わりしたママ友たちのルックスは大幅にグレードダウンしていて笑えた。何度も書いた通り、杏たちは明らかにフツーのママ友とは一線を画すオーラを発していた。このドラマの魅力は、まずもって、このゴージャス感にあったと思う。
ひまわりの子幼稚園での事件をすべて見ていたかのような夏木マリの訓示は、さらにエキセントリックな事例も含んでいたりもしたのだが、最終的に、お受験という要素はこのドラマに必要なかったのではないかと思う。
倉科カナの引越しに集まった主要人物の表情は、子育てを介してしか知り合うこともなかった関係を懐かしむものであり、言うところの“戦友”ということだろう。
だとすれば、それは何との戦いだというのか。よその子たちとの、よそのママ友たちとの、夫との、姑との、自分との戦い。夏木マリも大意そのようなことを説いていた。非日常的な状況下にあって、ママ友たちの目の色が変わる、というお受験は、“戦い”に最も近いようでいながら、あまりそのメタファーの役割をはたしていなかったように思う。
しかしまあ、自分との戦いと言うと聞こえはいいが、要は、すべての発火点は「妬み」である。
女はメンドクサイね。
全体を通じて、忘れがたい名場面は、尾野真千子が爽君と自宅の庭にレジャーシートを広げているシーンであった。とにかく尾野真千子の存在感が忘がたいドラマである。
倉科カナが木村佳乃に追いつめられるシーンもよかったな。
もうひとつのサゲは、お受験での勝ち組である杏と尾野真千子が、明峰学園幼稚舎での最初の保護者会を間近にして、じわりと緊張するというものだったが、小学校編なんて変な続編は作らないでいいから、と思う。
名前をなくした女神のキャスト
秋山 侑子〈28〉 – 杏
安野 ちひろ〈28〉 – 尾野真千子
進藤 真央 – 倉科カナ
沢田 利華子 – りょう
本宮 レイナ – 木村佳乃秋山家
秋山 拓水 – つるの剛士
秋山 健太 – 藤本哉汰安野家
安野 英孝 – 高橋一生
安野 爽 – 長島暉実進藤家
進藤 陸 – 五十嵐隼士
進藤 羅羅 – 谷花音沢田家
沢田 圭 – KEIJI
沢田 海斗 – 内田淳貴
沢田 空斗 – 今井悠貴本宮家
本宮 功治 – 平山浩行
本宮 彩香 – 小林星蘭
本宮 奈津恵 – 山本道子深沢家
深沢 雅美 – 安達祐実
深沢 翔 – 溝口怜冴
深沢 尚樹 – 趙珉和木島家
木島 なのは – 春日香音
木島 弥生 – 笠木泉岸本家
岸本 涼羽 – 笹原尚季
岸本 ゆかり – 春木みさよひまわりの子幼稚園
結城 広己 – 萩原聖人
京香 – 米澤史織
青木 恵那 – 行木瀬声
矢崎 里子 – 秋本祐希
矢崎 鞠 – 中山凛香東郷チャイルドスクール
東郷 百合子 – 夏木マリ
相原 – 水橋研二その他
ユキ – 葵
加藤 弓恵 – 中島ひろ子
加藤 美也 – 小泉彩
名前をなくした女神のスタッフ
音楽 – 井筒昭雄
主題歌 – アンジェラ・アキ「始まりのバラード」(エピックレコード)
オープニングテーマ – Alice「moving on」(SMEレコーズ)
編成企画 – 太田大
プロデュース – 浅野澄美
演出 – 水田成英、西浦正記、樹下直美
原案協力 – 高橋ナツコ
幼児教育監修 – こぐま会
制作 – フジテレビ
制作著作 – FCC

