2016年3月12日(21:00-23:06)、テレビ朝日系列にて松本清張二夜連続ドラマスペシャルの第一夜として放送。田村正和(当時72歳)の、最後の清張作品主演作(田村は2012年以降テレビドラマでの仕事を単発ドラマにほぼ絞り、松本清張作品への主演を中心としてきた)、最後の現代劇ドラマである。田村の清張作品出演は生涯で全9作であり、田村が信頼していた藤田明二(テレビ朝日系での清張作品全5作を演出した)と、竹山洋(同じく4作の脚本家)との最後の仕事となった。視聴率は11.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区・世帯)。石川県を舞台としており、輪島市の琴ヶ浜海岸などで撮影された。
1957年の小説新潮に掲載した短編が原作で、これまでに映画化1回(1959)、ドラマ化9回。キャストで言うと、渡辺美佐子・芦田伸介(映画)、藤野節子・大森義夫(1957)、池内淳子・掘雄二(1960)、筑紫あけみ・野々村潔(1962)、岡田茉莉子・高松英郎(1966)、夏圭子・芥川比呂志(1973)、安奈淳・田村高廣(1981)、小柳ルミ子・篠田三郎(1987)、内田有紀・高嶋政伸(2007)、そして本作が広末涼子・田村正和(2016)である。当時69歳で5年後に亡くなる田村正和は、兄弟(田村高廣)で同じ役を演じたことになる。
いずれ載るはずの心中事件の記事を読むために地方紙を購読している女の話だが、女の視点で語られる一種の倒叙ものであるところが原作のユニークさであるにもかかわらず、このドラマ化では、あえて田村正和(その新聞に連載小説を書いている作家)の視点で展開することを売りとして、「作家杉村隆治の推理」なる副題まで付けている。これがそもそもの失敗。
(本作は田村正和の最後の清張作品出演作。今思うと、キャストもかなり気合いが入っており、田村を前面に出すために作家目線の構成にしたものと思われる。)
誰もが思うように、田村がスマホを操る現代でありながら地方紙を取り寄せる必然性がないし、原作にもある蓮井駅前の選挙演説を、女の夫がその代議士の秘書で…という理由にしたために、代議士秘書の妻がなぜか銀座でホステスをしているという変な設定になってしまった。原作では出征した夫が帰ってくることになったので殺人を決意するのだが、ここでは代議士が閣僚入りするので(本間という名前で、大杉漣が「嘘でなくほんま」といちいち念を押すのがおかしい)、夫が秘書の任から解放されて金沢から帰郷するというのもなんだかしっくりしない設定だ。一連のチグハグさをもっともらしくするために夫から堕胎を強要されたとか、夫の母親の介護をしたとか、余計な設定がてんこ盛りになっていて意味不明なことになっている。
心中偽装と同じ手口で作家を殺そうとする女との心理戦がクライマックスになっているのは原作通りだが、広末が田村に惹かれて執着しているような描写を入れたために、ここも訳のわからないものになっている。また広末は殺しの後に食堂でラーメンとカツ丼を馬鹿食いしているのだが、その理由も説明されずに終わってしまった。
……と、清張作品を現代にドラマ化しようとして空中分解しているのはいつも通りなのだが(つまり、あれほど行われてきた「清張のドラマ化」は、今やほとんど不可能になりつつあるのだ)、広末演じるヒロインはそれなりに魅力的だった。序盤、心中の記事を発見して新聞の上で長々と体を伸ばすというシーンがあり、心が騒いだのは収穫と言える。
キャスト
杉本隆治:田村正和
潮田芳子:広末涼子
田坂ふじ子:水川あさみ
潮田早雄:北村有起哉
広田咲:片瀬那奈
庄田咲次:駿河太郎
雪乃:渡辺麻友
小島警部補:木下ほうか
高見悟:寿大聡
福田梅子:須藤理彩
庄田恵:西田尚美
由紀子:遊井亮子
根本たか子:石井苗子
久保勇介:相島一之
潮田久子:佐々木すみ江
服部三郎:佐野史郎
山下重光:寺島進
本間精次郎:大杉漣
東山善吉:橋爪功
森次晃嗣、生島勇輝 ほか
ナレーター:田中哲司
スタッフ
脚本:竹山洋
演出:五十嵐文郎
ゼネラルプロデューサー:内山聖子
プロデューサー:中込卓也、河添太、江平光男
制作協力:角川映画