嘘と裏切りの微笑|尾野真千子の再生に涙ぐむ
今週はなぜか録画予約に失敗してしまい、フジテレビオンデマンドのストリーミングで見るはめになった。無料の動画はあちこち転がっているのだが、ちょっと見てみて、画質の悪さは致命的だと気づき、315円を払うことにした。無料動画では、女優の表情がよくわからず、見ている意味がないのである。
今回は尾野真千子の再生の物語であって、とても感動的だった。来週で最終回を迎えることを惜しく思うほどであった。そーゆーコトは、1年に1回ぐらいしか感じないものである。
安達祐実は狂言回しの役を全うするとともに、尾野真千子再生の小さな伏線の役割もはたした。
「ひまわりの子幼稚園【ももぐみ】保護者と園児リスト」についても触れられたが、あそこまで綿密な調査資料を作成できる人間は一種のパラノイアである(ところで資料の1ページ目が本宮レイナなのは、なぜだろうか)。
かたくななまでに名前を呼ぶことを避けていた杏は、とうとう尾野を「ちひろさん」と呼んでいた。「ちひろちゃん」ではないというところが、失われた中学生の友情の再現ではなく、成人女性としての友情の始まりであるという、脚本家の小さな企みなのだろう。
それにしても、「私のことを忘れないでね」という手紙までもらったのにあっさり忘れた上に、名乗り出られても思い出さず、尾野を無視し続けた杏は、よほど尾野という人間を記憶から抹消したかったとしか思えない。本来、ドラマのこうした展開には理由があるはずなのだが…
尾野真千子の泣き顔の、独特の唇の歪みは、見ているとオロオロしてしまう。最初に見たときは、杏に裏切られた悔しさを表している演技なのかと思ったのだが、どうやら、泣き顔はこの顔になってしまうようだ。
さて、戦闘モードになったりょうのさしあたっての嫌がらせは、自分から投函しといてあげると申し出た願書を、投函しない、という悪意バレバレのものであった。悪意を隠さない最大級の戦闘モードである。これと比較されるべきは、メール爆弾を落とす現場を見られながら、しらを切り通した倉科カナであろう。
りょうは、本郷チャイルドスクールの事前注意事項説明会で、ひとりだけ受験票が届いておらず慌てふためく杏を嘲笑し、その場で悪意を言い渡すつもりでいたと思われる。
出鼻をくじかれてゆっくりと椅子の背にもたれかかったりょうの頭の中で、どのような計算がなされているかを考えると怖い。
りょうの杏に対する悪意がなぜここまで急速に膨れ上がったのか、という説明はまったくもって不足しているのだが、元からりょうがボスキャラであることはわかっていたので、視聴者にとっては、そのへんはどうでもいいのかもしれない。
りょうの戦闘モードのかっこいい演技は、そういった疑問を吹き飛ばしていた。
木村佳乃が危険性を指摘した受験番号がいよいよ届いたわけなので、最終回で、どのような攻撃が繰り出されるのか楽しみである。
一方、りょうの連れ子である空斗君が母親を見る目は冷静であり、おそらくりょうの戦斗モードを解いてドラマをエンディングに導くのは、この子だろう。
KEIJIが書いた離婚届は、りょうの反応を見るためのものであったらしく、年上妻との感情のすれ違いというやつで、こうした描写の歴史は映画などで古典的である。何かにつけてりょうがイニシアチブをとるスタイルである沢田家では、おそらくセックスでもりょうが主導権をとるのではないか。
倉科カナは、キャバクラでKEIJIから得た情報をもとに、りょうを嫉妬深いと評していたが、本当はもっと露骨な言葉が囁かれたのではないかという気がする。そうでないと、あそこまで嬉々として秘密めかして、倉科カナが杏に耳打ちする描写の意味がわからないのである。
倉科カナは、あれほどの大事件を起こして幼稚園教諭を追い出したというのに、今週は、キャバクラのバイトで寝不足なのを偽って仮病を決め込み、布団をかぶって寝ていたので、ほとんど活躍の場がなく、進藤家の動きは、五十嵐隼士が言い聞かせて、羅羅ちゃんが健太君と和解するという場面があったくらいだった。
この和解劇は、杏と尾野真千子の和解とうまく重ねられていた。進藤羅羅を演じる谷花音の可愛さは、このドラマ屈指だと思うのだが、それにしても羅羅ちゃんのチャイドル話は結局何ひとつ進まなかった。
羅羅ちゃんは自分だけがお受験できなかったことに不満の意を表明しており、倉科カナの感情に影響されての健太君をいじめるということしか、このドラマでは役割を果たすことができなかったのが残念である。
ハギーとの恋を経た木村佳乃には、もはや女王として君臨していた頃の威厳はなく、本郷チャイルドスクール塾長・夏木マリから娘のカンニング事件を聞かされて、あっさりと教育ママであった自分を反省してしまった。
平山広行は、ハギーが辞めてしまったことを知っても「ふーん」という感じだったが、妻と娘と川の字になって寝る良い父親になっていた。あとはセックスレスさえ解消されれば、この家庭は安泰である。
最後に、尾野真千子の麿顔の夫・高橋一生である。
銀行でのセクハラ疑惑は、そりの合わない女性部下の陰謀であったことが明らかになった。尾野はその件に関しては「信じることにする、でもそれだけだから」と言って、幼稚園の送り迎えを再開した。これは、他のことについては信じていないぞという意味である。
他のこととは、尾野に対するDVと、尾野が目撃したバス内での女子高生痴漢行為である。これらは、ドラマ上、たしかに起こったこととして描写されており、セクハラと同じような寃罪の結末は許されない。セクハラ疑獄は4月から始まっていたというから、もしかしたら銀行で追いつめられていた高橋は、ストレスから妻にDVを働いたり、バスの中で痴漢をしたということなのだろうか。
どうも納得がいかないので、これにどう決着をつけるつもりなのかが気になる。
5人の女、最後の答え|雑な終わり方だったが、良いドラマだったと思う
最終回はひどく雑なものであり、残念だった。釣った魚にエサはやらないというか、もう翌週に期待をつなぐ必要ないもんねという感じがしてしまうのである。前にも書いたが、これは結局、視聴率命のテレビドラマの宿命ならん。
残念だったのは、杏に対するりょうの攻撃が、ほとんど練りの足らないものだったこと。衝動的な行動なのだから練られていないのは当たり前なのだが、かといって、それではドラマにならない。杏に「私が何かした? 怒らせるようなこと…」と詰めよられたりょうは、「してないんじゃない?」ととぼけてみせていたが、ああいう表情をできるのなら、もっともっと、杏をどん底に突き落とすような悪いことを周到に計画できたはずである。
予想通り、連れ子である海斗君が、暗黒面に傾斜するりょうを留める役割になった。海斗君が号泣し、りょうが涙ぐむ場面は2度繰り返されたが、子供にすでにバレてるのに再度嫌がらせを実行したりょうには戦略がなさすぎる。
自分の子供が受験を放棄したというのに、KEIJIのフォローは、相変わらず情けなかった。りょうは「もういいから! もう離婚するんだし!」とキレて、「私が解決するから!!!!」と押しきってしまったが、KEIJIはあくまでも頼りない年下夫の立場を守りつづけ、「結局、利華子が何を考えているのか、何を思っているのか、全然わからなかった…俺はずーっと情けないまんまで、いつの間にか現実逃避して自分自身が重荷なんだ」などと言いながら、深夜のダイニングテーブルでイジイジとアルバムをめくっていた。
この夫が本気で離婚しようと思っていなかったことは明らかなのだが、りょうはそれに気づかないふりをしてとうとう離婚してしまう(明示はされていないが)。もう年下はたくさん、ということかもしれないが、あの性格では、よほどの人物が現れないと三度目の結婚はできないだろう。そう、りょうは不幸にもバツ2になってしまったのである。
KEIJIとの離婚に際しては海斗君も阻止しようと活躍したと思われるが、そういった描写が一切省略されてしまったのは残念である。
