留守宅の事件

洞口依子(留守宅の事件)
洞口依子(留守宅の事件)

松本清張の短編小説(小説現代1971年5月号掲載、1976年4月『証明』収録、文春文庫刊。1972年、第3回小説現代読者賞選出)を原作として、1996年1月9日に「松本清張スペシャル・留守宅の事件」というタイトルで日本テレビ系列「火曜サスペンス劇場」枠で放映。サブタイトルは「禁断の愛の一線を越えた従兄妹同志が落ちたアリ地獄」。視聴率16.8%。監督・嶋村正敏の遺作。
原作と異なり宗子は萩野の従兄妹の設定となっているのは、2時間ドラマとして原作のアリバイ崩しに追加する人間ドラマの部分について、脚本の大野靖子が、「オリジナルで作ってもよいのだけれど、清張先生の作品を勝手にいじくりまわすより、先生の原作の中から『留守宅の事件』と組み合わせられる短編を捜してほしい」と霧企画に申し入れ、霧企画が短編『箱根心中』の設定を組み合わることを提案したため。

留守宅の事件の原作が収録されている本

松本清張「証明」(「留守宅の事件」所収)

松本清張「証明」松本清張「証明」(「留守宅の事件」所収)

留守宅の事件の原作あらすじ

東京足立区・西新井の栗山敏夫宅の物置で、栗山の妻・宗子の死体が発見された。栗山の友人、萩野光治は宗子に好意を持っていたが、栗山の留守中に宗子のもとを訪れていたことが露見し、殺人の容疑者として逮捕される。捜査主任の石子警部補は、萩野が宗子を犯しておらず、栗山の素行に問題があったことから、真犯人は栗山だと考えるが、自動車セールスマンの栗山は仕事で東北各地を廻っており、その合間を縫って東京の宗子を殺すことは不可能と思われた…。

留守宅の事件の感想

71年の清張作品を原作とするが、本作は火サスの一編で96年とかなり後(2013年にも寺尾聰で再ドラマ化されている)。しかし3人の女優が光っていて、なかなかの良作と感じた。

推理サスペンスとしては、営業出張で東北各県を転々としていた内藤剛志が、東京の自宅にいた妻をどうやって殺したのか、というアリバイ崩しがメイン。ネタバレしてしまうと、妻を仙台に呼び出して殺し、車と新幹線を使い何日もかけて死体を南下させていたという時刻表トリック(?)である。

しかし、人生を踏み外す「清張スイッチ」(©︎みうらじゅん)を押したのが内藤ではなく古谷一行というところが、この話を面白くしている。古谷は序盤で内藤の妻、洞口依子(この人は「ドレミファ娘の血は騒ぐ」を主演した人で、伊丹十三も美少女としてよく使っていた)に会うために、内藤の留守宅の錠をこじ開けて侵入するという、明らかに転落スイッチが入った行動をとる。洞口と古谷は従兄妹関係なのだが、じつは4年前に心中しかけたやましい過去があるのだ。それが内藤の妻殺しの動機になったことが最後に明かされる。

岩波文庫のフランス詩集「珊瑚集」の書き込みから、古谷と洞口の不倫を悟る古谷の妻を余貴美子が演じる。彼女は古谷の無実を証明する手助けをするのだが、ドラマ終盤で「私はあなたの留守宅を守っていただけなのね」という置き手紙を残して去っていく。

余貴美子(留守宅の事件)

余貴美子(留守宅の事件)


さらに洞口の妹(ドラマオリジナル?)として芳本美代子が登場する。芳本はアイドル時代よりもなんだか良い女になっているのだが、これも古谷一行に恋慕しており、とにかくやたらとモテてしまったことが古谷に「清張スイッチ」を押させているのだ。従妹の思いにうっかり応えた一夜の記憶にこだわり、秘密の隠し方も甘かったことから人生を踏み外してしまう男は、迂闊で裏がありそうな古谷一行にふさわしいように見えた。

留守宅の事件のキャスト

萩野 光治 – 古谷一行
萩野 芳子 – 余貴美子
栗山 敏夫 – 内藤剛志
栗山 宗子 – 洞口依子
高瀬 昌子 – 芳本美代子
石子(警部補) – 平泉成
その他 – 加地凌馬内田大介岡崎公彦小畑二郎米沢牛佐竹努西塔亜利夫白鳥英一阿倍正明大橋ミツ但木秋寿、木村理沙” show=””]

留守宅の事件のスタッフ

脚本 – 大野靖子
監督・プロデュース – 嶋村正敏(日テレ)
音楽 – 大谷和夫
撮影 – 小松原茂
照明 – 大野昇
美術 – 大橋豊一
ビデオ編集・MA – 映広
現像・テレシネ – 東京現像所
音楽協力 – 日本テレビ音楽
プロデュース – 佐光千尋(日テレ)、田中浩三(松竹)、林悦子(『霧』企画)
制作著作 – 松竹、『霧』企画

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