黒い樹海の感想
これまた何度も映像化されている清張原作(1960年に映画化、ドラマ化は62年、86年、97年、05年、16年)。本作はそのうちの97年版で、ヒロインは水野真紀、犯人は火野正平(濱田岳にそっくり)と神田正輝の二人組である。
昨日投稿した「火と汐」も神田正輝が歪んだ夫を演じていたが、90年代にほとんどテレビを見なかった私としては、神田の活躍ぶりとはこういうものだったのかと思った(しかしこれでは神田が出てくるだけで犯人だとわかってしまうのではないか?)。それにしても、犯人が二人組というのは清張作品では異色な気がする(連続殺人事件というのも)。
妹に告げた行先とまるで異なる場所で事故死する余貴美子(女性誌の編集長)の秘密がモチーフになっており、それは「火と汐」も同じだった。市井でつつましく暮らす女性の秘密を三面記事的な事件として描く清張の作品群の後、テレビドラマは、69年に始まる「火曜日の女」シリーズ(後期は「土曜日の女」になり、74年まで5年間続いた)などにおいて、アイリッシュやボワロー=ナルスジャックを下敷きに、ミステリアスなヒロインを描くジャンルを確立させる。しかし、時代に即して路線を変えていく大映ドラマなどを尻目に、女=秘密の系譜は火サスなど2時間ドラマに引き継がれたものの、今は絶滅状態と言える。女優の魅力もその分失われてしまった感がある。
黒い樹海 見どころ
- 姉妹を襲う“樹海”の暗喩
「黒い樹海」は極限状況や迷いを象徴する舞台装置。事故と殺人が重なる謎深いドラマに深みを与える。 - 水野真紀 × 余貴美子の強力タッグ
しっかり者の妹・祥子を演じる水野真紀の冷静な探求心、ミステリアスに死を遂げる姉・信子を演じる余貴美子の静かな存在感。この二人の心理的深さと女優としての厚みが物語を引き立てる。 - 緻密な推理とサスペンス構成
バス事故に絡む謎と、周囲の死が次第に連鎖していく展開。祥子が追ううちに真相が少しずつ明らかになっていく構成が見応え十分。 - 土曜ワイド劇場らしい完成度
約2時間枠に収められた特別ドラマながら、演出・脚本ともに丁寧で、1990年代後半の郷愁漂う映像と雰囲気がある。
黒い樹海 あらすじ
笹原祥子の姉・信子は、仙台へ旅に出たはずだったが、浜松市付近のバス事故で死んでいた。姉は自分の知らない誰かと一緒にバスに乗っていて、その人は事故が発生した途端、姉の傍らから逃げたのではないか…。祥子は姉の会社に転職し、姉の仕事上の交友関係からその人物を突き止めようとする。当初独りだった祥子の調査に協力者が現われ、頑なだった祥子の心の壁も徐々に開かれていくが、先回りする犯人によって、次々に周辺人物が殺されてしまう。
黒い樹海のキャスト
吉井栄二(「週刊文啓」編集部員) – 鶴見辰吾
笠原信子(祥子の姉で雑誌「ルミエール」編集長) – 余貴美子
町田知枝(「ルミエール」副編集長) – あめくみちこ
竹尾刑事 – 石丸謙二郎
斉藤常子(レストランの店員) – 春木みさよ
愛子(祥子の同僚) – 阿部朋子
遠山ミドリ(ピアニストで妹尾の婚約者) – 葉山レイコ
部下 – 渡辺成紀
理恵(常子の友人) – 西田もも子
浅井刑事(警視庁の刑事) – 井上博一
祥子の上司 – 水島涼太
医師 – 石橋雅史
同僚 – 塙恵介
鶴巻完造(画家) – 水橋和夫
佐敷泊雲(生け花の家元) – 横尾三郎
高木利彦(建築家) – 加島潤
妹尾郁夫(翻訳家) – 火野正平
西脇満太郎(大学教授で精神科医) – 神田正輝
小森英明、松田朗、川名莉子、松富まみ、村野友美
黒い樹海のスタッフ
監督 – 野村孝
音楽 – 岩間南平
プロデューサー – 小坂一雄(レオナ)、高橋浩太郎(テレビ朝日)、塙淳一(テレビ朝日)、林悦子(霧企画)
助監督 – 寺山彰男
選曲 – 山川繁
撮影協力 – 粟津温泉辻のや花乃庄、日本エアシステム、拓殖大学、宇部興産、三富村、京王帝都電鉄
技術協力 – 映広
音楽協力 – テレビ朝日ミュージック
制作 – テレビ朝日、レオナ、霧企画
黒い樹海の原作(松本清張)
原作は婦人倶楽部1958年10月号-1960年6月号連載、1960年6月講談社刊。
仙台へ旅に出たはずの笹原信子が、浜松市付近のバス事故で死亡した。姉は自分の知らない誰かとバスに乗っていて、その人は事故発生後に逃げたのではないか? 信子の妹・祥子は姉の会社に転職し、仕事上の交友関係からその人物を突き止めようとする。
当初独りだった祥子の調査にも協力者が現われ、頑なだった祥子の心の壁も徐々に開かれていくが、先回りする犯人によって、次々に周辺人物が殺されてしまう。