『毒薬と老嬢』ってどんな映画?
フランク・キャプラが贈るブラック・コメディの金字塔。善良で上品な二人の伯母さんが、実は「孤独な老人を楽にしてあげるため」に毒入りワインで殺害を繰り返していたという衝撃的な設定を、軽快なテンポとユーモアで描き出した傑作。
ケーリー・グラントの驚きすぎて目が飛び出しそうなオーバーアクション気味のコメディ演技は、彼のキャリアの中でも屈指の面白さ。怪優ボリス・カーロフにソックリ(という設定)のレイモンド・マッセイや、その相棒で不気味ながらもどこか可笑しいピーター・ローレのコンビも最高。
屋敷の中に死体がどんどん増えていくスリルと、狂気の中にあるおかしみ、そして「ブルースター家」の常軌を逸した家系図に笑いが止まらなくなること必至。「死」を扱いながらもこれほど陽気な映画は他にないだろう。
あらすじ
新婚旅行を控えたモーティマーは、挨拶に訪れた叔母の家で窓際の下に死体を発見。驚くべきことに心優しいはずの叔母たちは「可哀想な老人を救うため」と称し、これまでに12人もの殺人を犯していたのだ。事態を収拾しようと奔走するモーティマーだったが、そこへ逃亡中の殺人鬼の兄ジョナサンが死体を携えて帰還。さらに、新妻エレインや警官たちも入り乱れ、家の中は死体と狂人がひしめく大混乱に陥る。
キャスト
エレイン・ハーバー・ブルースター – プリシラ・レイン
アビー・ブルースター – ジョセフィン・ハル
マーシャ・ブルースター – ジーン・アデーア
ジョナサン・ブルースター – レイモンド・マッセイ
アインスタイン博士 – ピーター・ローレ
“テディ・ルーズベルト”・ブルースター – ジョン・アレグザンダー
オハラ巡査 – ジャック・カーソン
サンダース巡査 – ジョン・リッジリー
ブロフィー巡査部長 – エドワード・マクナマラ
ルーニー警部補 – ジェームズ・グリースン
ウィザースプーン氏 – エドワード・エヴァレット・ホートン
ハーパー神父 – グラント・ミッチェル
カルマン判事 – ヴォーン・グレイザー
ギルクリス医師 – チェスター・クルート
ギブス – エドワード・マクウェイド
タクシー運転手 – ギャリー・オーウェン
新聞記者1 – チャールズ・レイン
新聞記者2 – ハンク・マン
役所の婚姻係 – スペンサー・チャーターズ
ケイリー・グラントが画面を走り回る。
ブロードウェイの舞台劇(戯曲はジョセフ・ケッセルリング、日本でも淡島千景と淡路恵子がやっている。グラント役は渋谷哲平である…)を映画化したもので、ケーリー・グラントが画面じゅうを走り回るブラックなスラップスティック。
せっかちでアクの強いグラントが(自らに殺人狂が遺伝しているのではないかと思い込んでいるものだから)異様なスピード感というかドライブ感を出している。ピーター・ローレの奇形じみた顔貌を恐ろしげに撮っているのが面白い。キャプラとしては異色なのだろうと思う。
たとえば、筒井康隆「ウィークエンドシャッフル」に直接的・間接的に影響を与えたのではないかのではないかと思ってみたりするのである。
それとはだいぶ話の系統が違うが、「八つ墓村」がこの映画に似ていると言われた横溝正史が言い訳を書いている。
第何回目かで双生児の老婆のくだりを書いて、あとで原稿を読みかへしながら、こゝんところ、わりにうまく書けてゐるわいと、われながら感心してゐるうちに、ふっと、何んだ、これ「毒薬と老嬢」じゃないかと気がついたのである。だから「毒薬と老嬢」ははじめから計算に入ってゐたわけではなく、無意識のうちに作者の筆にまぎれこんできたものなのである。
『探偵小説五十年』
『毒薬と老嬢』を観るには?
『毒薬と老嬢』作品情報
脚本 – ジュリアス・J・エプスタイン、フィリップ・G・エプスタイン
原作 – ジョセフ・ケッセルリング
製作 – フランク・キャプラ
ジャック・L・ワーナー
音楽 – マックス・スタイナー
撮影 – ソル・ポリート
編集 – ダニエル・マンデル
配給 – アメリカ:ワーナー・ブラザース、日本:セントラル映画社
公開 – アメリカ:1944年9月1日(ニューヨーク)・9月23日(全米)、日本:1948年9月28日
上映時間 – 118分
毒薬と老嬢の原作(ジョセフ・ケッセルリング)
1939年に執筆され、1941年にブロードウェイで初演されたブラック・コメディ。当初は『地下室の死体 (Bodies in our Cellars)』という題名の本格的なホラー劇として構想されていたが、プロデューサーの助言により、凄惨な状況をあえて明るく描く「ブラック・コメディ」へと書き換えられたという。ブロードウェイで1,444回、ロンドンのウエストエンドでも1,337回という、当時としては異例の長期公演を記録。戦時下の暗い世相の中で、観客はこの不謹慎ながらも滑稽な物語に熱狂した。
全3幕(4場)で構成され、物語は一貫してブルックリンにあるブルースター家の「居間」のみで進行する「密室劇」の形式。
老姉妹は信仰心に厚く、町中の尊敬を集める慈善家だが、孤独な老人に「安らぎ」を与えるため、ヒ素入りの手作りワインで殺害を繰り返す。そこに自分をセオドア・ルーズベルトと思い込んでいる甥のテディが登場。地下室をパナマ運河の建設現場だと信じ、そこへ老姉妹が殺した遺体を埋めていく。甥のジョナサンは長年逃亡中の凶悪犯で、整形手術に失敗してボリス・カーロフにそっくりの顔になっている(初演では実際にボリス・カーロフ本人が演じた)。
上品で善良な市民であるはずの老婦人が平然と殺人を犯し、犯罪者であるジョナサンが彼女たちの「殺害数」に対抗意識を燃やすなど、道徳観が逆転した状況が笑いを誘う。原作の根底には、当時から問題視されていた孤独死や安楽死、そして家族間の「狂気の遺伝」への恐怖といった重いテーマが、喜劇というオブラートに包まれて描かれている。





コメント