『危険な斜面』ってどんなドラマ?
出世街道から外れた男が、かつての恋人・利江(長谷川京子)を罠にかけて死に追いやり、欲望と殺意の斜面を転げ落ちていくドラマ。地方工場の平社員から本社へ、さらに社長の懐へ入り込む秋場の静かな狂気と出世欲を渡部篤郎が淡々と演じた。企業という組織の歪み、男女の欲望、功名心が引き起こす悲劇を描き、人の心の闇に焦点を当てた心理ドラマの傑作。
なお、本作を含め8回もテレビドラマ化されている。
1961年版(2月20日・27日・3月6日、TBS) 出演: 須賀不二夫、浅茅しのぶ
1962年版(4月19日・20日、NHK) 出演: 前田昌明、中川弘子
1966年版(2月15日、関テレ制作・フジテレビ) 出演: 川崎敬三、富永美沙子
1982年版(11月6日、テレビ朝日) 出演: 山本圭、田島令子
1990年版(10月16日、日本テレビ) 出演: 古谷一行、池上季実子
2000年版(9月24日、TBS) 出演: 田中美佐子、風間杜夫
2012年版(本作)
あらすじ
西島電機の全社統括会議に参加した秋場文作は、ロビーで会長・西島卓平の秘書がかつての恋人・野関利江であると気づく。利江は文作を食事に誘い関係が復活。主流ではない厚木工場に勤める秋場文作には出世の野心があり、利江は西島会長の愛人という立場を利用して文作を本社勤務に引き上げる。やがて利江は文作の子を妊娠して結婚をせがむようになり、文作は黒い計画をめぐらす──
キャスト
野関利江(HD秘書室長) – 長谷川京子
沼田仁一(飲料ベンダーのスタッフ) – 溝端淳平
野関せつ(利江の母) – 萩尾みどり
秋場知子(文作の妻) – 大路恵美
秋場紀一郎(文作の義父、元県議) – 品川徹
久住(厚木工場長) – 梨本謙次郎
秋場菜々(文作の娘) – 伊藤栞穂
浜中(厚木工場課長) – 長谷川朝晴
八木誠(刑事) – 五辻真吾
市村(同) – 木下政治
下条(鑑識) – 松川荘八
竹之内(飲料ベンダー主任) – 加藤満
小橋(人事課) – 旭屋光太郎
伊佐山の上司 – 高品剛
秘書 – 有山尚宏
伊佐山徳司(所轄刑事) – 赤井英和
西島卓平(HD会長) – 中村敦夫
感想

長谷川京子
原作では、彼女は年齢を意識して会長の愛人でいることに焦っているという設定なのだが、本作では秘書室長としても有能で充実しており、少なくとも、序盤ではまるで冴えない渡部篤郎にわざわざ乗り換える理由はないように見える。何がよくてそんなことをしたのか。
さてタイトルの「斜面」について、原作では次のように書かれている。
男というものは、絶えず急な斜面に立っている。爪を立てて、上にのぼっていくか、下に転落するかである。
松本清張「危険な斜面」
幕切れも「秋場の足もとは、そのとき、音を立てて崩れた。」である。
つまり、斜面とは、逆接的に転落の舞台装置にほかならない。そして「転落」こそ松本清張が好んで描くモチーフである。みうらじゅんはその契機(平凡な男に魔が差す瞬間)を「清張スイッチ」と呼んだ。
本作でいえば「自社会長の秘書兼愛人になっている昔の女と目が合ってしまった」というのが、渡部篤郎の転落スイッチということになる。

渡部篤郎
また原作では京都の九頭竜坂の崖で「転落」死しているのだが、ドラマでは長谷川殺害のシーンは描かれず、これは片手落ちと言える。
長谷川は4月に殺されたのに、すでに白骨化しているため警察は持ち物から2月に殺されたと考える、というのが犯行にあたって渡部の仕掛けたトリックである。ただし、2012年時点の鑑識捜査でそのように誤認することはあり得ない。現場が自然環境下にあるため、遺体の白骨化プロセスは周囲の気温や湿度、昆虫の活動に激しく影響されるからだ(4月と2月では白骨化の進行がまるで違う)。原作が書かれた1959年には死体に付着した虫から死亡時期を割り出す「法医昆虫学」が存在しなかったのだ。

溝端淳平
溝端淳平は粘着ストーカーっぽくて、なんだかなあという感じなのだが、冒頭で自販機の下に落とした500円玉を惜しんで「君が立て替えて」と溝口を呆れさせた渡部に(セコい男のエピソードとしては秀逸)、ラストシーンで溝端が500円玉を返すという皮肉はなかなか効いていた。
『危険な斜面』作品情報
監督 – 赤羽博
サウンドデザイン – 石井和之
アクション指導 – 深作覚
技術協力 – WING-T
撮影協力 – 東京エレクトロン、日立産機システム、ホテル日航東京、志木市、成田国際空港、京都東急ホテル、椿山荘 ほか
映像協力 – 京都新聞社 ほか
編成企画 – 水野綾子(フジテレビ)
プロデューサー – 岩崎文(ユニオン映画)
制作 – フジテレビ
制作著作 – ユニオン映画



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