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ラストマイル

満島ひかり(ラストマイル) 映画
満島ひかり(ラストマイル)
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  1. 「合理化」という名の人間疎外プロセスとの対峙

    岡田将生と満島ひかりは、センターを監督するために、モニターに映し出される全体の稼働率やKPI(重要業績評価指標)のグラフにまず目をやる。
    無数の商品棚の間をピッカーたちがカートを押しながら無言で歩き回り、腕に装着したウェアラブル端末の指示に従い、最短ルートで次の商品へと機械的に誘導されていく。端末には「ピッキング率」「作業ペース」といったデータが表示され、目標を下回ると警告音が鳴ってプレッシャーを与える。ピッカー同士の私語はなく、彼らの動きはシステムによって最適化された「部品」となる。
    これらの描写は、アメリカ本社が設定した「1時間あたりに処理できる商品数」といったKPIを達成するため、人間の行動がシステムによって徹底的に管理・最適化されている状況を示している。現場で働く人間を交換可能な「リソース(資源)」として扱い、個人の体調の波や感情といった非効率な要素は排除すべき対象となる。

    連続爆破事件という異常事態が発生した際の本社の対応は、このテーマを最も残酷な形で浮き彫りにする。
    現場が混乱する中、統括本部長の神崎(ディーン・フジオカ)とのビデオ会議で、アメリカの役員たちが懸念するのは、従業員の安否ではなく「ブラックフライデーの出荷目標への影響」「サーバを落とす(=物流を止める)という選択肢はあり得ない」という、徹底したビジネス上の損失だ。

    ディーン・フジオカが本社の冷徹な決定を現場に伝え、センター長の満島ひかりはそのプレッシャーを直接受けて極限の葛藤を強いられる。この「アメリカ本社 → 神崎 → エレナ → 現場」という一方向の圧力の連鎖もまた巨大資本の論理を象徴している。人命すらグローバルな損益計算書の上の一項目として扱われる。

    テクノロジーが「人間のための道具」から「人間を管理するための檻」へと変質するプロセスにおいて、非効率と見なされる人間の判断、休憩、同僚との何気ない会話といった「余白」は徹底的に排除される。しかし、その「余白」にこそ、プロとしての知見や、予期せぬ事態に対応する柔軟性、そして労働の喜びといった人間性が宿っているというのが、映画のメッセージである。
    「非合理なもの」を極限まで削ぎ落とされた現場がいかに脆く、危険なものになるか。
    つまり真の課題は、テクノロジーの導入の是非ではなく、誰が、何のために、そのシステムを設計し、運用するのかという、権力と倫理の問題なのだ。

  2. 「社会インフラ」としての物流の再構築

    サービスの「消費者」が、社会インフラを維持する責任を負う「当事者」でもあるという視点に立つことができれば、解決への道筋も見えてくるかもしれない。

    • 「見えないコスト」の可視化と公正な負担
      「送料無料」という言葉は、本来存在するはずのコストを覆い隠す幻想であり、運送会社が利益を削り、ドライバーが自身の時間と健康を切り売りすることで成立している。物流が電気や水道と同じ社会インフラであり、その維持には適正なコストがかかるという事実を直視する必要がある。
      単に送料を支払えばいいという話ではなく、企業がコストを労働者に公正に分配する社会構造を支持・選択していくという意思表示が求められている。
    • 匿名性という「関係性」の再構築
      巨大プラットフォームが、買い手・売り手・配送者を匿名化した結果、無責任な要求やクレームが生まれる環境が完成した。
      この希薄な関係性の中で、物流の担い手は感謝されるべき専門家ではなく、評価ボタンひとつで判断される匿名の存在になってしまう。つまり解決の鍵は、「顔の見える関係」の再構築にあると考えられる。
      例えば、地域に根差した配送業者を評価する仕組み、消費者と配送員が円滑なコミュニケーションを取れるプラットフォームの開発など、テクノロジーを人間関係の断絶ではなく、再接続のために活用する逆転の発想が必要とされているのかもしれない。
    • 「時間価値」の再定義:スピード至上主義からの転換
      「今すぐ欲しい」という欲望に無言で応え続けるシステム(冒頭と最後に「What dou you want?」というシステムメッセージが流れる)が、持続可能であるはずはない。「スピード信奉」の価値観から脱却し、「確実性」「安定性」「環境負荷の低さ」「労働者の尊厳」といった複数の価値を尊重する社会へと成熟する必要がある。
      数日の余裕を持った注文を標準とし、緊急性のある配送にこそプレミアムな対価を支払う社会的なコンセンサスの形成が、インフラのレジリエンスを高めるのだ。

『ラストマイル』が託した未来

『ラストマイル』はグローバル資本主義がもたらす「効率」の暴力、そしてそれに押し潰されつつある人間としての尊厳をかけて抵抗する人々についての映画だ。

満島ひかりたちが最終的に頼ったのは、完璧な管理システムではなく、現場で培われた経験と、仲間との不器用だが強固な信頼関係だった。どんなに精緻なシステムも、生身の人間の意志と連帯には及ばないというメッセージがある。

人間の尊厳を踏み台にするシステムに、いつまで無自覚のまま加担し続けるのか、という問いがそこにある。

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『ラストマイル』を観るには?

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『ラストマイル』作品情報

監督:塚原あゆ子
脚本:野木亜紀子
音楽:得田真裕
主題歌:米津玄師「がらくた」(Sony Music Labels Inc.)
製作代表:髙橋啓志、菊野浩樹、市川南、池邉真佐哉、岡﨑剛之、池田元信、長嶋潤二
プロデューサー:新井順子
エグゼクティブプロデューサー:那須田淳
共同プロデューサー:八尾香澄
撮影:関毅
照明:川里一幸
録音:西條博介
美術:YANG仁榮
編集:板部浩章
スタイリスト:金順華
ヘアメイク:千葉友子、山田みずき
VFXクリエイティブアーティスト:早野海兵
DIプロデューサー / カラーグレーディング:齋藤精二
音響効果:猪俣泰史
ミュージックエディター:遠藤浩二
スクリプター:森本順子
監督補:濱野大輝
助監督:鳥居加奈
制作担当:鷲山伸人、大藏穣
爆弾製作監修:境宏樹
特別協力:トラスコ中山
配給:東宝
制作プロダクション:TBSスパークル
製作幹事:TBSスパークル、TBSテレビ
製作:「ラストマイル」製作委員会(TBSスパークル、TBSテレビ、東宝、MBS、CBCテレビ、RKB毎日放送、HBC北海道放送)
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