撃てない警官の感想
原作者の安東能明は知らないが、警察小説好きにはドンピシャのドラマ。警察版の「半沢直樹」のような「小さな巨人」は顔芸の張り合いだったが、こちらは警察機構内の出世争いが主軸。主人公(田辺誠一)はキャリアの警部ながら総務部の事務方で、刑事ではない(タイトルの所以)。
初話には美貌の松本若菜(ブレイク前)が登場。高橋和也、嶋田久作など渋い配役でじっくり芝居を見せる演出は快感。菅田俊のはみ出しそうなキャラクターも素晴らしい。
警察署長をリタイアした義父(山本學)と画伯にのけ者にされ、本庁に戻ってもらって官舎を出ることしか頭にない妻に中越典子。物分かりのいい良妻でないところがリアル。思春期の息子のエピソードは完結していない気がする。
大友良英の劇伴も良い。
撃てない警官 見どころ
- 警察組織の生々しい内情と権力闘争
「正義の味方」としての警察ではなく、組織内の出世争い、派閥、裏切り、そして上層部の圧力といった現実的で生々しい側面が描かれる。主人公が巻き込まれる一連の事件では、そうした警察組織の闇が浮き彫りになる。主人公がなぜ部下の死の責任を負わされることになったのか、その裏に隠された真実が徐々に明らかになっていく過程が、組織の恐ろしさを際立たせる。 - 主人公・柴崎令司の葛藤と成長
田辺誠一演じる柴崎は、現場経験のないエリートコース出身の警官で、当初はどこか浮世離れした印象さえあるが、理不尽な左遷を経験し、組織の冷酷さに直面する中で、彼は「撃てない警官」としての自らの無力さと向き合い、人間的に成長していく。正義を追求したい気持ちと、これまで築き上げてきたキャリア、そして家族を守りたいという思いの間で揺れ動く心理描写が描かれてている。 - 安東能明原作の骨太なストーリー
原作は警察小説の名手・安東能明氏。緻密なプロットとリアリティがドラマでも存分に生かされている。単なる事件解決だけでなく、登場人物それぞれの背景や動機が丁寧に描かれ、予測不能な展開が視聴者を引きつける。全5話という短い尺の中に、濃密な人間ドラマとサスペンスが凝縮されており、最後まで目が離せない。 - 実力派俳優陣の演技
田辺誠一はもちろん、石黒賢、中越典子、高橋和也、ともさかりえ、嶋田久作、山本學といった実力派俳優たちが脇を固める。柴崎を翻弄する上司・中田を演じる石黒賢の冷徹な演技が見事。 - リアリティのある描写
事件の捜査過程、登場人物のセリフなどにリアリティがあり、あたかも実際に起こりうる事態であるかのような重厚感と説得力がある。
これらの要素が組み合わさることで、「撃てない警官」は単なる警察ドラマに留まらない、深い人間ドラマと社会派サスペンスとして見応えのある作品となっています。警察組織の裏側に興味がある方や、骨太なドラマがお好きな方には特におすすめです。
撃てない警官 あらすじ
柴崎令司は30代という若さで警部になったエリート街道を進む警視庁に努める警察官。警視庁総務部で係長を務めつつ、さらなる出世を虎視眈々と狙っていた。ある日、課長の中田警視から柴崎のもとに、部下の木戸和彦巡査部長を射撃訓練に参加させる旨の指示が入り、木戸を訓練に向かわせた。しかし鬱病を患っていた木戸は、射撃訓練の直後にトイレで拳銃自殺してしまった。
上司からの指示によって柴崎は許可を出した筈だったが、その証拠は何者かに消し去られていた。柴崎は一人で責任を背負わされ、綾瀬署警務課長代理に左遷されることとなってしまった。
柴崎は身の潔白を証明するために独自で調査を進めるが、そこで施設課の石岡と出会う。綾瀬署赴任の直前、ついに事件の真実に気付いた柴崎だが、自分にも非が無いわけではないために左遷の決定は覆らないと臍を噛む。しかし柴崎はいつか本庁に復帰することを心に誓い、石岡にその協力を約束させる。
綾瀬署に赴任すると柴崎は警務課課長代理に任じられた。本庁復帰のための裏工作に執念を燃やす一方、柴崎は綾瀬署内でさまざまなトラブルに巻き込まれていく。柴崎は上司である助川副署長と共に、トラブル解決のために奔走しはじめる。
撃てない警官を観るには>
撃てない警官 キャスト
柴崎令司(警視庁総務部企画課企画係係長→足立署警務課課長代理) – 田辺誠一
中田政則(総務部企画課課長) – 石黒賢
辻裕之(警視総監) – 中丸新将
石岡稔(施設課設備係係長) – 高橋和也
木戸和彦(柴崎の部下) – 磯部泰宏
柴崎の警察学校時代の同期 – 三浦誠己
随時監察官 – 掛田誠
内田監察官 – 大西武志
足立署
小笠原博満(足立署署長) – 諏訪太朗
助川雄一(副署長) – 嶋田久作
浅井駿二(刑事課課長) – 浅見小四郎
八木正人(生活安全課課長) – 駒木根隆介
池谷一也(警備課課長) – 橋本じゅん
土屋(警務課留置係係長) – 多田木亮佑
青木隆弘(警務課留置係係) – 水間ロン
坂本和子(警備課警備係) – 陽月華
広松昌浩(地域課巡査部長) – 菅田俊
村井康平(地域課巡査) – 室屋翔平
足立署刑事 – 千葉哲也
柴崎家
柴崎雪乃(令司の妻) – 中越典子
柴崎克己(令司と雪乃の息子) – 加部亜門
山路直武(雪乃の父) – 山本學
その他
岩本敏江(犯罪被害者支援の会) – 松本若菜
石津米子(順子の母) – 樋田慶子
長沢順子(米子の娘) – 水島かおり
栗田あきみ(アパートの住人) – 猫田直
スーパーの店長 – 有山尚宏
吉田(四谷北消防署員) – 伊達暁
小柳透(大麻所持犯) – 内村遥
辻井園美(小柳の交際相手) – 鈴木球予
島貫光雄(派遣会社員) – 水澤紳吾
コンビニの店長 – 伊藤佳範
コンビニの店員 – 福永朱梨
池野亜紀(女子高生) – YUKINO
名倉恭子(看護師) – ともさかりえ
撃てない警官 スタッフ
監督 – 長崎俊一
脚本 – 安倍照雄
音楽 – 大友良英
プロデュース – 加納貴治、押田興将
制作協力 – オフィス・シロウズ
製作著作 – WOWOW
撃てない警官の原作
日本推理作家協会賞受賞(収録作「随監」)
本庁から左遷された若き警部は復活を胸に誓った――。警察小説の新たな旗手・安東能明の出世作
俺はいったん、落ちるところまで落ちる。しかし、やられたことはやり返す。そこから、ふたたび這い上がる。それを肝に銘じておけ。(本文より)
総監へのレクチャー中、部下の拳銃自殺を知った。柴崎令司は三十代ながら警部であり、警視庁総務部で係長を務めつつ、さらなる出世を望んでいた。だが不祥事の責任を負い、綾瀬署に左遷される。捜査経験のない彼の眼前に現れる様々な事件。泥にまみれながらも柴崎は本庁への復帰を虎視眈々と狙っていた。日本推理作家協会賞受賞作「随監」収録、あなたの胸を揺さぶる警察小説集。