『アニー・ホール』ってどんな映画?
おしゃべりで神経質、死の恐怖と強迫観念に囚われたコメディアンの男と、ちょっと抜けているけれど最高にチャーミングで自由奔放な歌い手の卵。ウディ・アレンが当時の公私にわたるパートナーだったダイアン・キートンとの関係をベースに作り上げ、アカデミー賞主要4部門をさらったロマンチック・コメディの最高峰。
本作の魅力は、型破りで軽快な「映画の嘘」の数々だ。ウディ・アレン演じるアルビーが突如としてスクリーンからこちら側の観客に向かって愚痴をこぼし始める「第四の壁」の破壊に始まり、映画の行列で的外れな映画論を語るインテリ男の後ろから、メディア論の権威マーシャル・マクルーハン本人を引っ張ってきて「お前は何もわかってない」と一喝させる奇妙な現実逃避まで、彼の脳内の妄想がそのままスクリーンに飛び出してくる。
劇中、2人がベランダで他愛のない世間話をしているシーンでは、画面の下に「本当の心の声(下心や不安)」が字幕として表示されるという、あまりにも意地悪でリアルな心理描写には思わず笑ってしまう。
そして、映画史にその名を刻むのが、ダイアン・キートン演じるアニー・ホールのアイコニックなファッションと佇まい。ラルフ・ローレンのメンズもののシャツにネクタイ、チノパンにベストを合わせた通称「アニー・ホール・ルック」を気負わずに着こなし、早口で「ラ・ディ・ダ(やれやれ)」と笑う彼女の姿は、男の独占欲やエゴを軽々と飛び越えていく瑞々しさに満ちている。
だからこそ、洗練されたカルチャーの街ニューヨークで互いの孤独を埋め合うように始まった2人の恋が、西海岸ロサンゼルスのどこか軽薄でギラギラした太陽の光(ポール・サイモン演じる音楽プロデューサーに象徴される世界)にさらされ、少しずつ色褪せていくプロセスがたまらなく切ない。アニーの兄を演じるクリストファー・ウォーケンの、どこか不気味で危うい怪演も、ホールの家族の奇妙さを引き立てるいいスパイスになっている。
別れた後、偶然の再会を経て、アルビーは気づく。恋愛なんて、非合理的で、バカげていて、ひどく傷つくものだ。けれど、誰もがその「卵(愛)」を必要とせずにはいられない。
失恋の痛みを極上のユーモアとシニカルな視点で包み込み、最後には人生の愛おしさに変えてしまう、映画史に輝く不朽のラブストーリーだ。
あらすじ
死に取りつかれた神経質なスタンダップコメディアンのアルビーと、奔放でチャーミングなアニー。相性が良いとは言えない二人の数年間にわたる恋愛模様を、第四の壁を破る独白や、互いの過去を幽霊のように観察し合う奇妙な回想シーンを交えながら、多層的に描き出す。何度も口論と仲直りを繰り返した末、アニーはハリウッドの音楽プロデューサーのもとへと去ってしまい、アルビーの必死の説得も虚しく、二人は完全に破局を迎える。未練を抱えるアルビーは、自分たちの関係を「復縁に成功する」というハッピーエンドに改変した芝居を書き、心の痛みを昇華させる。のちにそれぞれ新しい恋人を連れて友人として再会した際、アルビーは「愛や人間関係はときに不条理で苦痛に満ちているけれど、それでも私たちはそれを必要としているのだ」という、滑稽で愛おしい人生の真理に思いを馳せるのだった。
キャスト
アニー・ホール – ダイアン・キートン
ロブ – トニー・ロバーツ
アリソン・ポーチニック – キャロル・ケイン
トニー・レイシー – ポール・サイモン
パム – シェリー・デュヴァル
ロビン – ジャネット・マーゴリン
ミセス・ホール – コリーン・デューハースト
デュウェイン・ホール – クリストファー・ウォーケン
ミスター・ホール – ドナルド・サイミントン
アルビーの父 – モーデカイ・ローナー
アルビーの母 – ジョーン・ニューマン
マーシャル・マクルーハン – 本人
ロブのTVショーの俳優 – トレイシー・ウォルター
今どき“ニート”なんて、もう古いよ。
最初から最後まで通して見たのは、何を隠そうはじめてである。一時期よく深夜にTVでやっていた。そして今回もTVで見たのである。
「今どき“ニート”なんて、もう古いよ」というような台詞が何回も繰り返されている。
77年のNYというのは、あまり考えてみたことなかったなあ。
といいつつ、行ったこともないNYのイメージは、完全にこの映画によってできあがったものなのだが。
『アニー・ホール』を観るには?
『アニー・ホール』のトリビア
本作制作の舞台裏には映画ファンが思わずニヤリとするトリビアが詰まっている。
- 後に大スターになる俳優たちが“端役”で出演している
アニーの兄デュエイン役は若きクリストファー・ウォーケン。ロサンゼルスのパーティで「I forgot my mantra(呪文を忘れちゃった)」と一言だけつぶやくのは ジェフ・ゴールドブラム。さらに、終盤で映画館の外に一瞬だけ映る女性が若きシガニー・ウィーバーで、セリフはない。今見ると、豪華すぎるキャストだ。 - 「トルーマン・カポーティのそっくりさん」は本人だった
公園でアルビーが「あそこにトルーマン・カポーティのそっくりさんが」と指さす人物は、実はトルーマン・カポーティ本人。クレジットなしのカメオ出演という、いかにもこの映画らしい遊び心だ。 - 実はタイトルが『アニー・ホール』ではなかった
制作初期のタイトルは『Anhedonia(無快感症)』。精神医学用語で「普通なら楽しいことに喜びを感じられない状態」という意味だが、「こんなタイトルでは売れない」と判断され、最終的に『アニー・ホール』に変更された。 - もともとは“殺人ミステリー映画”だった
驚くことに、本作は当初、殺人事件を軸にしたミステリーとして撮影されていた。だが編集段階でその要素がほぼカットされ、現在のロマンスコメディに生まれ変わった。後年、ウディ・アレンはこの“ボツになった企画”を思わせる『マンハッタン殺人ミステリー』を製作している。 - 名シーンのいくつかは偶然から生まれた
アルビーがコカインにくしゃみして部屋中に飛び散らせる場面は、実は偶然起きたハプニング。しかし試写で観客が大爆笑したため、そのまま本編に採用された。また、ローラーコースターの下にある家も、ロケハン中に偶然見つけて設定に組み込んだものだった。




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