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セットシーンの緊迫感とロケの編集のうまさ(張込み(映画)の感想)
原作は30ページ足らずの短編にもかかわらず、11回もドラマ化されているのは、最初に映像化した本作が念頭に置かれているからだろう。回想シーンなども巧みに取り入れた橋本忍の脚本で、映画は116分楽しませる。
ドラマ諸作では全国各地に置き換えられているが、原作の舞台「S市」は作者も佐賀がモデルと語っている。本作は原作に忠実であり、新聞記者を避けて省線で迂回した二人の刑事が横浜駅から夜行急行「さつま」に飛び乗り(実際には「つくし」らしいが)、半日以上かけて佐賀駅に辿り着くという鉄道ファンが目を離せないシーンが12分も続く。タイトルが出るのは商人宿「肥前屋」に落ち着いてからで、観る者に東京からの「遠さ」を強く印象づける。
肥前屋のシーンは大船で撮影されたものだが、2階に陣取った大木実にも、肩越しに見下ろされる高峰秀子の姿にもピントがあった撮り方をしていて、臨場感たっぷりである。とはいえ、監視対象の高峰の表情はほとんど判別できず、終盤、大木実がついに高峰に声をかけるところで初めて顔がアップになる。驟雨の中で高峰が鼻緒を切らしてしゃがみ込むエロティックなシーンがあるが、そこでも女優の表情はわからない。
終盤に高峰が乗るバスを追って山道を飛ばすタクシーを捕らえた長い空撮シーンがあり、ここらへんの編集は非常に巧い。
張込み(映画) 見どころ
刑事たちが殺人事件の容疑者を「張り込む」中で、彼らが遭遇する人間模様や、事件の裏に隠された悲しい真実が描かれる、社会派サスペンスの傑作。
- 松本清張の世界観を体現した初期の傑作
松本清張作品の持つ、人間の欲望や弱さ、社会の闇、そしてそこから生まれる悲劇を、緻密なストーリーとリアルな描写で映像化した初期の傑作。市井の人々の暮らしや感情を深く掘り下げた清張文学の醍醐味。 - 「張り込み」が生み出す独特の緊張感
殺人事件の容疑者である女(高峰秀子)の行動を、張り込み中の刑事たち(宮口精二、菅原文太)がひたすら見つめ続ける。刑事たちの焦燥感や、待ち続けることの苦痛が伝わってくる。 - 高嶺秀子の圧倒的な存在感と哀愁
事件の鍵を握る女・さだ子を演じる高峰秀子の演技が素晴らしい。セリフは少ないにもかかわらず、その表情や佇まいから、孤独や絶望、そして秘めた情熱がにじみ出している。 - 刑事たちの人間ドラマ
張り込みをするベテラン刑事と若手刑事の二人の間に生まれる師弟関係や、彼らが張り込み先の女の人生を垣間見る面白さ。 - 抑制された演出が光る
派手なアクションや劇的な展開ではなく、登場人物の心理描写や、日常の中に潜む異常性を丹念に描く、野村芳太郎監督の抑制の効いた演出が光る。日本の風景や、当時の生活感がリアルに描かれている。 - ラストシーンの余韻
観終わった後も、深く考えさせられるラストシーン。
トリビア・撮影裏話など
- 地方から上京し、東京の街を巡り、最終的に張り込みを行うという物語の性質上、オールロケで撮影。当時の東京の風景や、人々の暮らしぶりがリアルに記録されており、歴史的な資料としての価値もある
- 張り込みのベテラン刑事・柚木役を演じた宮口精二は、黒澤明監督の『七人の侍』での演技も高く評価されている。本作でも寡黙ながらも深い洞察力を持つ刑事を見事に演じる
- 公開された1950年代後半の日本の社会情勢や、人々の生活、そして警察の捜査方法などが描写されている
松本清張の小説が初めて映画化作品で、その後の清張作品の映像化ブームへと繋がる、記念碑的作品
張込み(映画) あらすじ
殺人犯を追う2人の刑事が、犯人の元恋人のもとを訪ね、その家の前にある旅館で張込みを始める。その女性は不幸な暮らしを送っていた。刑事の1人は過酷な監視を続けながら、女性の境遇と自身の恋人について思いをめぐらせ始める。
張込み(映画)を観るには?
張込み(映画) キャスト
宮口精二(下岡雄次刑事)
高峰秀子(横川さだ子)
田村高広(石井キュウイチ)
菅井きん(下岡の妻・満子)
竹本善彦(下岡の長男・辰男)
清水将夫(さだ子の夫・仙太郎)
伊藤卓(仙太郎の長男・隆一)
高木美恵子(仙太郎の長女・君子)
春日井宏行(仙太郎の次男・貞二)
内田良平(石井の共犯者・山田庄吉)
高千穂ひづる(柚木の恋人・高倉弓子)
藤原釜足(弓子の父)
文野朋子(弓子の母)
町田祥子(弓子の妹)
高木秀代(弓子の妹)
磯部玉枝(弓子の妹)
浦辺粂子(旅館の女主人)
山本和子(旅館の女中・秋江)
小田切みき(旅館の女中・喜和子)
川口のぶ(銭湯の娘・信子)
北林谷栄(信子の母)
玉島愛造(銭湯の釜焚き)
南進一郎(深川署署長)
近衛敏明(深川署刑事課長)
松下猛夫(深川署刑事)
土田桂司(深川署刑事)
鬼笑介(深川署刑事)
芦田伸介(捜査第一課長)
大友富右衛門(佐賀署署長)
多々良純(佐賀署刑事)
小林十九二(洗濯屋の主人)
清水孝一(洗濯屋の小僧)
大友純(飯場の親方)
山本幸栄(町工場の主人)
草香田鶴子(製本屋のおかみ)
末永功(血液銀行の係員)
福岡正剛(タクシーの運転手)
今井健太郎(巡査)
竹田法一(関西弁の男)
小林和雄(ある通行人)
稲川善一(郵便屋)
張込み(映画) スタッフ
『張込み』は、松本清張の世界観を深く味わえる、日本映画史に残る傑作サスペンスです。この記事で少しでも興味を持たれた方は、ぜひ本編をチェックしてみてください。