笹まくら

堀田真由(笹まくら)
堀田真由(笹まくら)
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『笹まくら』は、2026年8月8日にNHK BSプレミアム4Kで放映。

『笹まくら』ってどんなドラマ?

過去の逃亡と現在の安寧。旅路の終わりで見つめる、ある男の生と贖罪の記憶。

文豪・丸谷才一の金字塔的傑作小説を、気鋭の脚本家・秋之桜子がドラマ化。
戦時中の兵役忌避という秘密の過去を抱えて生きる男の、記憶の交差と旅路を描く文学的で重厚なヒューマン・ドラマ。

あらすじ

地方の大学職員として静かで穏やかな日々を送っている浜田庄吉(森山未來)には、人に明かせない過去があった。太平洋戦争中、徴兵を嫌い「兵役忌避者」として偽名を用い、全国を転々と逃亡し続けていたのだった。
過去を隠し通して手に入れた平穏な日常の中で、ふとしたきっかけから過去の記憶の扉が開かれる。
若き日の過酷な逃亡生活(青年時:青木柚)、旅先で出会った人々、そして彼の心を揺さぶった女性たち——。
現在と過去、旅と安住の間で揺れ動きながら、男は自らの歩んできた人生の意味と向き合っていく——。

キャスト

浜田庄吉 - 森山未來、青年時:青木柚
陽子 - 川栄李奈
結城阿貴子 - 堀田真由
西正雄 - 駿河太郎
桑野稔 - 瀬戸康史

感想

丸谷才一の原作を読んだのは高校生の頃のことだ。ふらふらと思いのままに揺れる丸谷の書きぶりに、これがジョイス流の意識の流れというものかと思ったことを思い出した。

小説では主人公(浜田庄吉)の内面は、過去と現在を自在に往き来するのだが、本作では現在の浜田を森山未來が、過去の浜田を青木柚という二人の役者が演じることによって、その対比が強調されている。
その上で、川栄李奈が演じる現在の妻・陽子の存在をサスペンス要素として配置しているのが、このドラマの特徴だ。

彼女は大学の理事(石橋凌)の親戚という、高度経済成長期における「勝ち組」、戦争を知らない世代で、戦後の民主主義や平和主義を「当たり前の正義」として内面化している。明るく前向きで、「戦争に反対して逃げるなんて、本当に勇敢で正しい人よね」と無邪気に称賛する悪気のなさに浜田は否定も反論もできず、笑顔で傷つき続ける。これはスリリングな心理戦であり、「生き延びるために必死だった醜い本音」が浜田を屈託させていく。
逃亡生活を共にした戦時中の恋人・阿貴子(堀田真由)が「戦時下のリアル」だとしたら、陽子は「戦後の高度経済成長がもたらした平穏と欺瞞」の象徴だ。浜田が手に入れた家庭が砂上の楼閣であることを意味している。

物語の終盤では、浜田に嫉妬した同僚が右翼雑誌に浜田の過去をリークしてゴシップ記事を書かせ、これに対抗した学内の左翼新聞(当時はベトナム反戦運動の最盛期)が逆に浜田を祭り上げるという事態が起こり、大学当局がトラブル回避のために浜田を地方の附属高校に左遷させる方向に動く。
原作の浜田はこのドロップアウトを「逃亡者のアイデンティティ」への回帰と受け取り、解放感に包まれるのだが、ドラマでは、ここで陽子が隠している秘密を露呈させることで、もうひとつの仕掛けを盛り込んだ。

「奥さんはどうしているかね」という石橋凌の挨拶が伏線になっていて、二人の結婚自体が大学側の利害調整に利用されていたことが判明し、高度経済成長期の豊かさと世間体に縛られた陽子は、夫の決断を受け入れることができない。二人の家庭は決定的に崩壊し、浜田は一人で自由を獲得する道を歩まざるを得なくなるのである。

なお、ドラマでは、終戦によって浜田と阿貴子の関係は永遠に終わったかのように描かれていたが、原作では、陽子に内緒で大阪などで年に1回ほど密会を重ねている。ここに単なる未練や浮気心ではなく、「戦後の平穏な日常」に対する息苦しさ、共犯者的な絆、己のアイデンティティの確認といった心理を見ることができるか、というのは、一種のブンガク的な踏み絵である。

『笹まくら』作品情報

原作 – 丸谷才一「笹まくら」
脚本 – 秋之桜子
演出 – 鶴岡慧子

『笹まくら』の原作

戦時下においては、極刑にも値した徴兵忌避。だが、それ以上に陰湿で残酷な現実とは……。自由を求め、たった一人で起こした反乱に、今また責められ、追われ、反乱を続けねばならぬ。そう、不安な旅、危険な旅、笹まくら……。ユーモアを交えた軽妙な文体と執拗な内面凝視の裏に、作者の錯綜した想いをこめて、平安と繁栄の現代に問いかける問題作。

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