『日本沈没』ってどんな映画?
日本列島が、わずか1年足らずで海の底へと沈没する。小松左京のメガヒット小説を、東宝が総力を挙げて映画化した1973年版の映画。当時の特撮技術の粋を集めた大災害のスペクタクルでありながら、その本質は「国を失い、放り出される日本人はどう生きるか」を突きつける一級の人間ドラマである。
日本沈没の事実をいち早く予見し、周囲から狂人扱いされながらも孤独な戦いに挑む田所博士(小林桂樹)が物語を牽引する。これはただの天才科学者ではない。地球の咆哮に怯え、狂気をはらんだ眼光で日本という国土への強烈な愛着と執念をぶつける姿が、観る者を圧倒する。未曾有の危機を前に、1億人の国民をどう逃がすかという神の領域の決断を迫られる山本総理(丹波哲郎)の、苦悩に満ちた佇まいが画面を引き締める。
見どころは、CGのない時代だからこそ成し得た圧倒的な特撮映像、ミニチュアワークのリアリティ、そして「崩壊していく日常」の生々しさ。深海潜水艇のパイロットである小野寺(藤岡弘)と、富豪の令嬢・玲子(いしだあゆみ)の燃え上がるような恋さえも、大地震によって引き裂かれ、燃え盛る東京の炎の中に容赦なく呑み込まれていく。
神山繁や高橋昌也、鈴木瑞穂といった昭和の名バイプレイヤーたちが演じる官僚や学者たちが、迫りくるタイムリミットの中で、国際社会とのタフな交渉や避難計画に文字通り命を削っていくプロセスには息が詰まる。地井武男演じるヘリの操縦士をはじめ、名もなき人々が救助活動の中で散っていく姿も、ドキュメンタリーのような泥臭い切なさを残す。
大地が裂け、富士山が噴火し、見慣れた平穏な祖国が消え去っていく。極限の絶望の中で、それでも生きようとする人間の泥臭い意志を、昭和という激動の時代のパワーとともに叩きつけてくる不朽の傑作だ。
あらすじ
潜水艇の操縦者・小野寺と物理学者・田所博士は、海底調査中に日本海溝の異変に気づく。やがて、日本各地で休火山が噴火し始める中、2人は政府主導の国民を避難させる計画に参加。さらなる調査を進め、やがて日本列島が海底に沈むという恐るべき推測に到達する。
キャスト
山本勇総理 – 丹波哲郎
小野寺俊夫 – 藤岡弘
阿部玲子 – いしだあゆみ
邦枝 – 中丸忠雄
結城 – 夏八木勲
花江 – 角ゆり子
野崎特使 – 中村伸郎
吉村運行部長 – 神山繁
幸長助教授 – 滝田裕介
三村秘書官 – 加藤和夫
片岡 – 村井国夫
総理府総務長官 – 垂水悟郎
小野寺の兄 – 新田昌玄
防衛庁長官 – 森幹太
山城教授 – 高橋昌也
ヘリ操縦士 – 地井武男
科学技術庁長官 – 鈴木瑞穂
内閣官房長官 – 細川俊夫
山本総理夫人 – 斉藤美和
D-学者 – 中条静夫
老人の息子 – 森下哲夫
海洋学者 – 梶哲也
D-公安係 – 名古屋章
通産大臣 – 松下達夫
建設大臣 – 河村弘二
大泉教授 – 近藤準
海洋調査船船長(へらくれす船長) – 宮島誠
下町の老人 – 大久保正信
調査団員B – 内田稔
統合幕僚本部議長 – 早川雄三
対策本部のオペレーター – 和田文夫
総理府係官 – 石井宏明
調査団員A – 稲垣昭三
国連委員 – 中村哲
外務大臣 – 伊東光一
気象庁技官 – 吉水慶
非常災害対策本部の官僚 – 中田勉
調査団員C – 大木史朗
運輸大臣 – 山本武
総理府係官 – 今井和雄
ヘリ操縦士 – 鈴木治夫
政府関係者 – 田中志幸
非常災害対策本部の官僚 – 永島岳
非常災害対策本部の官僚 – 津田光男
巽丸航海士 – 大杉雄二
防災センター所長 – 熊谷卓三
D-本部の職員 – 小松英三郎、門脇三郎
政府関係者 – 草間璋夫
財界関係者 – 大西康雅
やっちゃん – 服部妙子
老人の息子の嫁 – 川口節子
お手伝いさん – 小林伊津子
D-本部の職員 – 鳥居功靖
オーストラリア首相 – アンドリュー・ヒューズ
中国特使 – バン・ヘンリー
ユージン・コックス – チャールズ・シームス
中田 – 二谷英明
渡老人 – 島田正吾
若き日の竹内均も出てるぞ。
まず、藤岡弘が今とあまり変わらないことに驚く(てゆか「今」のほうに驚くべきなのだが)。最新の「仮面ライダー」のプロモーションで佐々木剛(ライダー2号)と対談しているのを見たのだが、佐々木は完全にただの(?)おじさんなのだ。
さて本作だが、あらためて、1973年という時代をまったく感じさせない円谷プロの完璧な特撮に驚く。このリアリティがあってこそ、ストーリーが身につまされるのである。渡老人(島田正吾)が京都の学者たちにまとめさせた「日本民族の将来」の中で、最終的な結論が「なにもせんほうが、ええ」であることを告げ、丹波哲郎の山本総理が目を赤くして涙ぐむ、というシーンは、思わずこちらもじわーっとしてしまった。
リメイクに公式に便乗して、筒井康隆原作の「日本以外全部沈没」が実相寺昭雄で映画化されることを知った(笑)。
再見して(2020年8月15日)
1973年の劇場公開以来、何度も見ているのだが、これだけ再見にたえるのは映画として悪くないということなのだろう。
それは、ここでも勢いだけで総理大臣役をこなしている丹波哲郎を肯定することでもある。
原作がカッパノベルスとして刊行される前から映画の企画は始まっていたが、公開は年末で、製作期間の短さから特撮シーンは予定より少なくなったという。だが、これで十分である。
シベリア鉄道に乗るいしだあゆみ、アフリカの大高原を行く藤岡弘の邂逅は、幻の第2部に引き継がれることになる。
日本沈没を観るには?
日本沈没のトリビア
1973年公開の映画 日本沈没 は、日本映画史に残る大ヒット作だが、その舞台裏には意外なトリビアが多い。
- まず驚かされるのは、映画化の企画が原作小説の刊行前から進んでいたこと。東宝の名物プロデューサー田中友幸がいち早く映像化に動き、さらに「映画公開後にTBSでテレビドラマ化する」という契約まで同時に成立していた。
- この契約の影響で、撮影現場には映画スタッフだけでなくテレビドラマ版のスタッフも参加。2台のカメラを持ち込み、映画の撮影と並行する形で映像を収録していたという。ひとつの現場で映画版とテレビ版が同時進行するという、当時としてはかなり珍しい制作体制だった。
- 製作期間は約4か月と短期間。大規模特撮を多用した作品としては異例のスピードだったが、公開されると観客の心をつかみ、約880万人を動員。配給収入16億4,000万円を記録し、1974年邦画部門配給収入1位という大成功を収めた。




