地方紙を買う女の感想
1957年の小説新潮に掲載した短編が原作で、これまでに映画化1回(1959)、ドラマ化9回。キャストで言うと、渡辺美佐子・芦田伸介(映画)、藤野節子・大森義夫(1957)、池内淳子・掘雄二(1960)、筑紫あけみ・野々村潔(1962)、岡田茉莉子・高松英郎(1966)、夏圭子・芥川比呂志(1973)、安奈淳・田村高廣(1981)、小柳ルミ子・篠田三郎(1987)、内田有紀・高嶋政伸(2007)、そして本作が広末涼子・田村正和(2016)である。当時69歳で5年後に亡くなる田村正和は、兄弟(田村高廣)で同じ役を演じたことになる。
いずれ載るはずの心中事件の記事を読むために地方紙を購読している女の話だが、女の視点で語られる一種の倒叙ものであるところが原作のユニークさであるにもかかわらず、このドラマ化では、あえて田村正和(その新聞に連載小説を書いている作家)の視点で展開することを売りとして、「作家杉村隆治の推理」なる副題まで付けている。これがそもそもの失敗。
(本作は田村正和の最後の清張作品出演作。今思うと、キャストもかなり気合いが入っており、田村を前面に出すために作家目線の構成にしたものと思われる。)
誰もが思うように、田村がスマホを操る現代でありながら地方紙を取り寄せる必然性がないし、原作にもある蓮井駅前の選挙演説を、女の夫がその代議士の秘書で…という理由にしたために、代議士秘書の妻がなぜか銀座でホステスをしているという変な設定になってしまった。原作では出征した夫が帰ってくることになったので殺人を決意するのだが、ここでは代議士が閣僚入りするので(本間という名前で、大杉漣が「嘘でなくほんま」といちいち念を押すのがおかしい)、夫が秘書の任から解放されて金沢から帰郷するというのもなんだかしっくりしない設定だ。一連のチグハグさをもっともらしくするために夫から堕胎を強要されたとか、夫の母親の介護をしたとか、余計な設定がてんこ盛りになっていて意味不明なことになっている。
心中偽装と同じ手口で作家を殺そうとする女との心理戦がクライマックスになっているのは原作通りだが、広末が田村に惹かれて執着しているような描写を入れたために、ここも訳のわからないものになっている。また広末は殺しの後に食堂でラーメンとカツ丼を馬鹿食いしているのだが、その理由も説明されずに終わってしまった。
……と、清張作品を現代にドラマ化しようとして空中分解しているのはいつも通りなのだが(つまり、あれほど行われてきた「清張のドラマ化」は、今やほとんど不可能になりつつあるのだ)、広末演じるヒロインはそれなりに魅力的だった。序盤、心中の記事を発見して新聞の上で長々と体を伸ばすというシーンがあり、心が騒いだのは収穫と言える。
地方紙を買う女 見どころ
- 松本清張ならではの心理サスペンス
人間の心の奥底に潜む闇、巧妙に隠された真実を、日常の中のささやかな違和感から暴き出していく松本清張作品の醍醐味。平凡な出来事の中に潜む異常性、人間の執念が描かれる。 - 田村正和の存在感
主人公の作家・杉本隆治を演じるのは往年の名優・田村正和。独特の気だるさや、物静かな雰囲気の中に宿る鋭い洞察力が見どころ。多くを語らずとも佇まい一つで物語に深みを与え、観る者を惹きつける。 - 広末涼子と水川あさみの共演
謎の女・芳子を演じる広末涼子のミステリアスで繊細な演技にも注目。何を隠しているのか、その心理の動きが物語の鍵となる。杉本のアシスタントとして彼を支え、時に鋭い視点を見せるふじ子役の水川あさみとのやり取りも彩りを添える。 - 巧みな伏線と推理の過程
なぜ東京の女性が地方紙を購読し、なぜ途中で打ち切ったのか、というシンプルな疑問から、やがて恐ろしい事件の真相が浮かび上がる過程が、緻密な伏線と杉本の推理によって描かれる。 - 豪華な脇を固める俳優陣
北村有起哉、片瀬那奈、佐野史郎、大杉漣、橋爪功など、脇を固める俳優陣も豪華。
地方紙を買う女 あらすじ
人気作家の杉本隆治(田村正和)は、地方紙である金沢日日新聞に小説「遠い記憶」を連載していた。ある日、東京に住む潮田芳子(広末涼子)という女性から「『遠い記憶』を読みたいので購読したい」という手紙が新聞社に舞い込む。芳子は連載の途中から購読を希望しており、この点が杉本の心にささやかな疑問を抱かせる。
アシスタントの田坂ふじ子(水川あさみ)は、芳子の手紙が捏造ではないかと疑うが、杉本は独自に芳子の行動を探り始める。やがて芳子の新聞購読期間と、金沢で発生した男女の心中事件の記事が一致することに気づき、杉本は芳子の本当の目的が小説ではなく、この心中事件にあるのではないかと推理を巡らせる。
地方紙を買う女を観るには?
地方紙を買う女 キャスト
潮田芳子:広末涼子
田坂ふじ子:水川あさみ
潮田早雄:北村有起哉
広田咲:片瀬那奈
庄田咲次:駿河太郎
雪乃:渡辺麻友
小島警部補:木下ほうか
高見悟:寿大聡
福田梅子:須藤理彩
庄田恵:西田尚美
由紀子:遊井亮子
根本たか子:石井苗子
久保勇介:相島一之
潮田久子:佐々木すみ江
服部三郎:佐野史郎
山下重光:寺島進
本間精次郎:大杉漣
東山善吉:橋爪功
森次晃嗣、生島勇輝 ほか
ナレーター:田中哲司
地方紙を買う女 スタッフ
演出:藤田明二
音楽:江口貴勅
サウンドデザイン:石井和之
VFX:鹿角剛
技術協力:バスク
美術協力:京映アーツ
照明協力:嵯峨映画、アペックス
ロケ協力:金沢フィルムコミッション、能登半島広域観光協会、能登野菜振興協議会、北國新聞社、北陸鉄道 ほか
チーフプロデューサー:五十嵐文郎
ゼネラルプロデューサー:内山聖子
プロデューサー:中込卓也、河添太、平光男
制作協力:角川映画
地方紙を買う女の原作(松本清張)
松本清張の短編小説。『小説新潮』1957年4月号に掲載され、1957年8月に短編集『白い闇』収録の1編として、角川書店(角川小説新書)より刊行された。