『告白-25年目の秘密-』ってどんなドラマ?
存在感ゼロの空気系男子が、子供の頃から25年間も胸に秘めてきた社長令嬢への片想い。彼女のピンチを救うために男が“沈黙”を破ったその日から、愛の歯車が回り出す——。
「恋は闇」の渡邉真子が、地味なサラリーマンの内に潜む狂気とオフィスに渦巻く人間模様を抉るオリジナル脚本を執筆。美しくも危うい純愛の行方をスリリングに描いた純愛サイコサスペンス。
野瀬麻里子(岡崎紗絵)を追って総務部から異動した雪村爽太(松村北斗)の一途な執着が加速するなか、不可解な事件が起こりはじめ、野瀬化粧品は不穏な空気包囲網に飲み込まれていく。
麻里子が唯一本音を明かせる秘書の竹田泉(佐々木希)をはじめ部下たちが不穏な異変に気づき始める中、社内の覇権を狙う立岩剛志(丸山智己)や、父親で社長の銀次郎(石黒賢)、その秘書・浅井豪太(夙川アトム)らの思惑も交錯。さらに、麻里子の見合い相手である刑事の佐倉泰輔(玉山鉄二)が事件の捜査に乗り出す。
純愛と狂気の境界線を揺るがすスリリングな歪んだ愛の物語。
あらすじ
キャスト
雪村爽太(総務部) - 松村北斗
野瀬麻里子(第二ブランド事業部部長) - 岡崎紗絵(幼少期:大井咲、中学生時代:渡部紗絵)
■野瀬化粧品
●取締役・秘書
野瀬銀次郎(麻里子の父で社長) - 石黒賢
浅井豪太(銀次郎の秘書) - 夙川アトム
●第一ブランド事業部
立岩剛志(役員で事業部長) - 丸山智己
●第二ブランド事業部
竹田泉(麻里子の秘書) - 佐々木希
橋本涼子(PR担当) - 久保史緒里
佐野匠(営業担当) - 山下幸輝
■野瀬家
野瀬昭子(麻里子の祖母で野瀬化粧品の創業者) - 丘みつ子
野瀬サユリ(銀次郎の後妻) - 水野美紀
野瀬慶人(サユリの実子) - 石山順征
■警視庁
佐倉泰輔(麻里子の見合い相手で刑事) - 玉山鉄二
白木翠(泰輔の部下) - 谷恭輔
■その他
相良友也(カフェの店長) - 塩野瑛久
畑野悟(連続誘拐事件の犯人) - 田中要次
感想
ファーストインプレッション
ちょっと得体の知れないストーリーである。
大学生時代
主人公の松村北斗は、小学校低学年の頃から足かけ25年も岡崎紗絵をストーキングし続けている変態であり、夜になると薄暗い部屋でメトロノームのスイッチを入れ(なんで?)、岡崎への思いを綴る「麻里子日記」のようなものを綴っている(異様に整頓されている中の最新のノートは「117」という通し番号が打たれていた)。まさに人生を懸けているのに等しいが、それまでの目的は、岡崎紗絵にとって、嫌いな人でも毎日食べているうちに好きになる(かもしれない)パクチーのような男になることにあった(意味がわからない)。
岡崎と同じ中学を入試し、同じ大学に入ろうとして失敗して一浪することになったが、同じ会社(それが今いる「野瀬化粧品」)に入社したのだが、それからさらに9年も総務部でなりをひそめていた(岡崎紗絵は彼の存在を知らなかった)というのがすごい。「空気男」という設定だとしてもかなり特殊な人間である。
ただし、PR担当の久保史緒里は「あの無害な空気男の」と松村を認識していたので、岡崎が気づいていなかったのは社内に無関心すぎる可能性もある。いずれにせよ、顔を覚えていなくても不自然ではないほどの社員数の化粧品会社で、32歳の岡崎が自分より年上の秘書(佐々木希)つきの事業部長になっているのは、社長(石黒賢)の娘だからだと思われても仕方がないところだろう。
偶然を装い、まんまと岡崎紗絵に取り入る
岡崎は役員でもう一人の事業部長である丸山智己のそねみを受けているので、9年の間にはそれなりの紆余曲折があったはずだが、物語は、松村がはじめて岡崎のピンチを救おうと思って動き出すところから始まる(ストーカーなので、「助ける」以外の目的で岡崎に近づくことはないのだ)。
ピンチといっても、単に社長から企画書の修正を命じられただけで、なぜそれが9年の沈黙を破る決意を彼にさせたのかは不明だが、松村は勝手に資料を作り、岡崎にわざとぶつかってそれを見せ、まんまと同じ事業部に異動する(つまり松村は異常に仕事のできる男なのである)。
その後、内容を先取りした(?)丸山智己の企画が社長に認められそうになったので、松村は社内システムに侵入して丸山の横領の証拠を見つけ出し、黙っているから降りてくれと丸山に頼み込む。丸山はそれを足蹴にするが、というところで場面が変わって、ラストシーン近くで丸山は刺殺されていた。
その捜査を行うことになるのが玉山鉄二で、これは岡崎の祖母である丘みつ子が岡崎に引き合わせた見合い相手だった、というところまでが第1話のあらましだった。
松村はラストシーンで「麻理子さんの運命の人になる」と宣言するので、丸山を殺したのもお前でいいだろと思うが、これは普通にミスリード。岡崎紗絵は25年前に誘拐されそうになったことがあり、実はその際も松村が人を呼んで阻止したのだが、その犯人(田中要次)が出所したシーンがあるので、殺しもそちら絡みとほのめかされる。その事件に松村がどうかかわっているのかなどが、1話の時点では不明である。
どうなるのか端的に気になるが、まさか「25年も私を想っていてくれたのね」と岡崎紗絵が感動する展開にはなりそうもないので、何も知らないまま、いなくなった松村を「あの人は誰だったのか」と岡崎が思い返すエンディングになるのではないだろうか。
最終回まで観て
本作は、岡崎紗江(能瀬麻里子)が好んでいるというマーベル映画的なヒーローの内面を描写したドラマである。
松村北斗は、いわば岡崎紗絵を守る正義の味方、正体を隠したヒーローとして行動しているのだが、そもそも、なぜ正体を隠さなければならないのか。それを語る言葉を雪村は持っておらず、葛藤のみが語られる。
本作には松村以外に2人のストーカーが登場する。
一人は出所した連続幼児誘拐犯の田中要次で、自らが逮捕されたきっかけを作った少年を、それが松村だとは知らずに探している。もう一人が、警視庁捜査一課の玉山鉄二である。
松村と玉山が執着しているストーキングの対象が、二人とも岡崎紗江(能瀬麻里子と母親・恭子、二役)であることから、二人は鏡像的な関係にあると言える。
岡崎からの見返りを求めない松村に対して、玉山は、岡崎(母恭子)の愛を求めたがために殺害に至ったことをクライマックスで告白する凡庸なストーカーである。
本作は、松村と岡崎の双方に、塩野瑛久(相良友也)と佐々木希(竹田泉)というあたかも客観性の担保するかのようなサブキャラを配して、二人の目で松村の行動を評価させることで、松村のストーキング行為を「ぎりぎり境界線上のもの」として注意深く描いている。松村がその境界を越え、玉村鉄二のような凡庸なヴィランとしてストーカーに転落する危険を最後まで耐え抜く構造になっているのが、本作のマーベル的なメタ構造である。
「ファーストインプレッション」に記したように、本作は、当初、ストーキング行為が最後まで明かされないドラマになるのではないかと予想された。
たとえば、最後まで正体を隠したヒーローの活躍によって知らず知らずのうちに危険を免れた岡崎紗江が、最終回で、これも目立たぬように姿を消した松村爽太をふと思い出し、「あの人は何だったのだろう」と述懐する、というドラマである。
しかし、実際のドラマはもう少し複雑に展開し、良い意味で予想は裏切られた。
松村のストーキング行為は、あれこれ気をもたせたあげく、結局中盤で岡崎に発覚を免れず、岡崎は、コソコソ隠れて自分の気持ちや行動に気持ちを先回りすることが許せない、と松村を糾弾していた。しかし、それは果たしてストーキング行為と言えるのか。ここで視聴者は微妙に煙を巻かれている。
というのも、凡庸なストーカー行為というのは、対象を支配・所有し、自らの承認欲求や愛を強制する行為であるはずだからだ。
現に、ヴィランである玉山鉄二にとって、麻里子はかつて手に入らなかった「恭子の代替品」でしかなく、25年前の未完の妄執を娘にスライドさせ、過去の幻影に囚われたまま時間が止まっている。これに対し、松村北斗の「コソコソ先回り」は、岡崎のあずかり知らぬ場所で彼女の日常と安全を担保する、文字通り「ダークヒーローの献身」なのだ。
本作のクライマックスは、どっちもどっちというか、「お前がそれを言うか」的な「世紀のストーカー対決」である。そこで、過去の幻影(恭子)を追いかけて麻里子を支配しようとする玉山の妄執は、岡崎紗絵の拒絶すら引き受けて影となった松村の「本物の献身」によって鮮やかに無効化されていくのは痛快だった。リスクの高いストーカー話を前人未踏のクライマックスに着地させた渡邉真子の脚本には、正直脱帽である。
最終回、「僕の25年の恋は、終わった」と、すべてを燃やし尽くした松村は、「正義」を誇る言葉を持たぬまま、静かに彼女の日常から退場していく。
当方が勝手に予想した「知らず知らずのうちに危険を免れた麻里子が彼をふと思い出す」というロマンチックな余韻は完全に解体され、1年の時を経て二人が再び対峙したとき、麻里子は雪村を恐怖の対象としてではなく、自分を守り抜いた「運命の人」として選び直すのだった。
岡崎紗絵という人は今ひとつ良さのわからない女優で、「プロフェッショナル 保険調査員・天音蓮」では不快感すらあったのだが、それを逆手にとったかのような本作は、この女優を見直すきっかけになった。
連続ドラマWから抜け出てきたかのような玉山鉄二は、その印象を裏切る珍しいヴィラン役だったが、意外とそれもいけることを証明した。
そして、良作が続く渡邉真子は『恋は闇』を越える傑作に到達したと思う。
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